『断髪動画制作会社』

 中学生の時。同じ吹奏楽部で憧れていた先輩がいた。ポニーテールがよく似合っており、何とか口実を見つけては話すのが楽しみだった。

 そんな先輩が、最後の大会を前にバッサリとボブにしてきた。「最後だし気合を入れようと思ってね。」と言って微笑む先輩がとても眩しかった。

 あの長いポニーテールがもう見られないのが残念だったが、髪を切っただけでイメージだけでなく性格までも変わったのにも驚いた。今まではどちらかと言うと大人しめだったのが、ボブにしてから明るくなっていった。

 その先輩とは特に何もなく終わったが、俺の心に一つの火種が灯った。『髪をバッサリ切ると女は変わる-』

 思えばこれが髪フェチになったきっかけかもしれない。『イメチェン特集』と書かれた女性誌があればこっそり買い、女優がバッサリ髪を切るのを眺めては興奮した。当時は動画などなかったから、雑誌が貴重だった。彼女が出来てからは何度か髪を切らせてもらったが、せいぜい10㎝程度だった。それが原因で別れたこともあった…。

 社会人になってから、断髪ビデオなるものが世に登場した。やがてDVDになり、動画サイトにも断髪動画が現れるようになった。

 だが俺は、既存の動画に飽き足らなくなっていた。理想的な動画にはなかなか巡り合えない。だったら自分で作ってしまおうか。趣味と実益を兼ねられる。この業界はブルーオーシャンだから、いけるのでないか。そう思い立ち会社を作った。会社と言っても俺の趣味を唯一理解してくれる親友の弘人との2人だけだ。

 投資で儲けた金を使い、高額でモデルを募集した。何年か活動を続けているが、その中でも印象的だったモデルを語っていきたい。

【25歳 独身OL】
 開口一番『とにかく髪を丸坊主にしたい』と言ってきた。

『なぜですか?そんなに綺麗な髪なのに?』
『それなんです。付き合う彼氏がみんな私の髪を褒めてくれるのはいいんですが、そればっかりでうんざりしています。もっと私の内面を見てほしいんです。特に今の彼氏には。』
『あなたみたいな見事なロングヘアはそう見かけません。彼氏の気持ちも分かります。』
『そうなんでしょうか?特に拘って手入れをしてきた訳ではないのに…。』『でも心機一転、丸坊主にするのもいいですね。』
『一度丸坊主にして、彼氏の反応を見てみたいんです。それでも私を愛してくれるのなら本物であり、離れていくようであれば、それ私ではなく髪を愛していたことになるのかな…。』
『ではやりましょうか。彼氏の驚く顔が目に浮かびますね。』

 弘人がカメラを回す。彼女を断髪椅子に座らせてケープをかける。俺はおもむろにバリカンを取り出す。引きつった顔がたまらない。

『では前髪からバリカンを入れていきます。一度入れてしまえば後戻りは出来ませんが、迷いはないですか?』
『はい…お願い致します…。』

 ロングの場合、一度ショートにしてからバリカンを入れる方法もある。しかしこれほど見事なロングヘアだから、前髪からバリカンを入れることにした。

 前髪をかき上げ、一思いにバリカンを入れる。あっという声とともに、一気に頭頂部まで刈り上げた。まずお目にかかれない、女性の頭皮が現れる。しかも0.5ミリだからなおさらだ。彼女は泣くかと思ったが、唇をキッと結び耐えている。次々にバリカンを入れ、前髪を全て刈り取った。

 一応『大丈夫ですか?』と聞いてみた。無言で頷く彼女。泣くまいとしているのが分かる。次は耳横の髪。バリカンを入れると耳が真っ赤になっていた。恥ずかしくてたまらないのだろう。

 後ろの髪を刈る時、下を向かせた。髪をかき上げると白いうなじが現れる。なんと色っぽいのだろう。女性のうなじはやばい。わざと何度もかき上げて、艶めかしいうなじに触れる。そしてバリカンを入れる-。

 長い髪を豪快に刈り上げていく。床に落ちる髪を見て、明らかに動揺する彼女。お構いなしにバリカンを進めていき、やがて丸坊主にした。

『すごい…これが丸坊主…。』
『あなたは美人だし頭の形もいいから、丸坊主でもいけますよ。』本音だった。こんな美人なら坊主頭でも付き合える。
『ありがとうございます。なんかすごく自信が付きました。彼の前でウイッグを取ってみます。反応が今から楽しみです!』

 後日、彼氏とは別れたと短いメールが来た。

【友達同士】
 次にやってきたのは2人組の女子大生。一人は乗り気だが、もう一人は誘われて何となく、といった感じだった。

 一人目の恵から始めることにした。乗り気なこの子をやってしまえば、もう一人も逃れられないだろう。
『こんにちは。応募してくれてありがとう。今日は丸坊主にしちゃってもいいんだね?』
『はい。覚悟してきました!』
『今は長いけど、今までに短くしたことはあるの?』
『中学生の時にバレー部でベリーショートでした。後ろも少し刈り上げていましたよ。』
『もちろんバリカンで?』
『そうです。』
『嫌じゃなかった?』
『バリカン自体は嫌じゃなかったんですが、クラスの男子にからかわれたのが恥ずかしかったです。あ、でもそのことを先生に言ったら、謝罪として私の目の前その男子が丸坊主にされましたけどね。』
『凄いことする先生だね。』
『男子にしては長い髪の彼が、バリカンで一気に丸坊主にされた光景が忘れられなくって。』
『それで自分もやってみようと。』
『そうです。ロングも飽きちゃったし成人式も終わったし、こんなこと今しか出来ないので。』
『じゃあこの長い髪を丸坊主にしていくね。』

 早速バリカンを構えると
『あ、始めはショートにしてもらえますか?どうせ坊主にするんだから、少しはショートも楽しみたくって。』
『いいよ。とりあえずポニーテールにしてくれる?それからバッサリ切ることにするよ。』

 ポニーテールに結う姿に色気を感じる。こんな美人を丸坊主に出来るなんて至福だ。俺はポニーテールの結び目にハサミを入れて、ジョキジョキと切り始めた。

 所在を失くした髪束を鏡の前に置く。
『わぁ、頭が軽い!』と頭を振る恵。その後もザクザクと切っていき、耳出しのショートカットにした。
『これで刈り上げたらバレー部そのものですね。』
『ショートもいけてるね。ではいよいよバリカンを入れていくけど、覚悟はいい?』
『はい!』

 前髪からバリカンを入れる。バリカンが通ると青々とした地肌が現れる。『わわっ!すごい…ちょっと触っていいですか?』俺の言葉を待たずに手をケープから出して触っている。

 少し待ってからバリカンを再開した。柔らかい黒髪をバリカンで刈り取っていく。美人がみるみるうちに丸坊主になっていくのは、美の喪失であり、新たな美の創造でもある。

 彼女は嫌がる様子もなく、むしろ楽しんでバリカンを受け入れている。時折笑顔も見られる。本当は嫌がってくれた方が良い。楽しまれると、海外のチャリティーで丸刈りにする動画と何ら変わらない。強制感が出た方が動画は売れるし、この女を支配しているという気にもなる。

 無事に彼女を0.1ミリの丸刈りにし、シャンプーをしてから解放した。次はいよいよもう一人の久美だ。

 この子には期待出来た。入ってきた時から顔が青ざめていた。いかにも友達に誘われて、無理やり連れて来られた感があった。これはいい動画が撮れそうだ。

『やっぱり私嫌です…帰ります…。』
『何言ってるの!?ここまで来たんだからいいでしょ?元はと言えば久美がこの話を持ち掛けたんだし。私だけ丸坊主にしておいてそれは無いわ。』『でもやっぱ止めようって言ったのに、恵が無理やり連れて来たんじゃない!』
『いいじゃないもう。それに丸坊主も気持ちいいわよ。ウイッグも貰えるし、何よりお金が凄いでしょ。たかが髪を切るだけでこんなにもらえるなんて、夢のようよ。』
『だからって私、丸坊主になんかしたくない…。』
『私を見て怖くなったの?』
『うん…恵は美人だから丸坊主も似合うけど、私がやったら男の子みたいになるんじゃないかなって…。』
『それは大丈夫。恵ちゃんは美人たけど久美ちゃんは可愛らしいし、丸坊主になってもその可愛さは変わらないと、俺が保証するよ。』
『本当…ですか…?』
『本当だよ。人生一度ぐらい経験してもいいんじゃないかな。お金だってたくさんあった方がいいよね?』
『一緒に丸坊主になろうよ!私一人じゃなんか嫌だし、友達でしょ?』『……分かったわ。私も…丸坊主になります…。』
 半分涙目で久美は言ってくれた。そうなると話は早い。すぐに断髪椅子に座ってもらい、ケープをかけた。翻意しないよう、始めからバリカンを入れることにした。
 
 バリカンを目にしてビクッとする久美。怯えている。可愛くてしょうがない。懇願する目で言ってきた。
『あの…恵みたいに短くしてからバリカンでやってもらえませんか?いきなりだとその…怖いので…。』
 その訴えには耳を貸さず、いきなり額の真ん中からバリカンを入れた。『ああっ!!う、うそ…!』
 何度か額に入れ、前髪を全て頭頂部まで刈り取った。
『どうして…』
『恵ちゃんみたいにしたら、どうせ途中で「やっぱり止めます」なんて言い出すだろうね。だからこうしてしまえば、丸坊主にするしかない。そう思って敢えて前髪からやったんだよ。』
『そんな…ひどい…』とうとう泣き出した。俺はニヤリとしながらバリカンを続けた。

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