細かすぎて伝わらない、ピアノの好きなところ
ピアノを購入してまもないお宅へ調律に伺ったとき、わりと高確率で聞かれること。
「ここから部品が無くなってるんですけど、不良品ではないですか?」
「ダンパー」というこの部品のことです。
低音から1音にひとつずつ付いていますが、高いほうの音ではあるところから急にこの部品は無くなります。他の部品は最初から最後まで同じように全部あるのに。でもこの部品に限っては、途中からは付いていないのが正常なので大丈夫です。
この「ダンパー」は柔らかいフェルト製で、普段は弦を押さえて音が鳴らないようにしています。鍵盤を押してハンマーが弦を叩く瞬間に、その音のダンパーだけが弦から離れて、鍵盤が戻るとまた弦を押さえます。
また、右のダンパーペダルを踏むと強制的にすべてのダンパーが弦から離れるので、ペダルを踏んでいるあいだ音が伸びるのもこの構造によるものです。
それで、なぜ高音側にはこのダンパーが付いていないのか?かんたんに言うと「必要がないから」
細い弦は自然と音が消える
低音や中音の太くて長い弦は、ダンパーで止めないといつまでも音が伸び続けます。でも高音に行くに従って弦が細く短くなっていくと、だいたい最後20音の高さのあたりではダンパーで止めるまでもなく音がすっと自然に消えてくれるので、すべてのピアノでダンパーを付けない構造になっています。
とは言ってもダンパーがあるところと無いところの境目は、どうしても差が顕著になってしまいます。境目の2つの音をペダル無しでスタッカートで弾いてみるとあり・なしの違いがわかりやすいと思います。
それを少しでも解消するため、ピアノによっては最後のダンパーを斜めにカットして、次のダンパーが無い音との消え方をグラデーションになるようにしていたりします。
このささやかすぎる、でもちゃんと意味がある。でもやっぱりささやかな抵抗だよなあ…という工夫が、ピアノの構造の中でなんか地味に好きだったりします。
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