ひときれのケーキ(前)
私たちの関係っていつまで続くんだろうね。
小さく咳払いをしてから、アイスコーヒーでのどを潤し、私は目の前にいる彼女に話しかけた。あまりにも唐突すぎる質問だったと思う。さっきまでYouTubeに更新されたアーティストのライブ映像を見ては一時停止を繰り返して感想を語り合っていたのに。
ー ん? どした、急に?
彼女は、「期間限定季節のタルト」の最後のひとかけらを口に入れた瞬間だった。そもそも、私は人生とかそんな壮大な話をするようなキャラではない。ただ、声や眼差しから、私が真剣な話をしたいと思っていることを彼女は理解してくれたようだ。タルトを飲み込んでから、推しを語っていたさっきより落ち着いた口調で、私の瞳を少し見上げるような目線で返事をする。
なんか、これからのこととか考えるじゃん、今の時期って。将来とか言われても、そんなの考えれば考えるほど分からなくなるなーと思って。
就職活動、縮めて就活。学校という小さな社会の住人から大きな社会の住人になるための一連の活動。企業や職種を選び試験を受けるのと同時に、自分自身の将来やこの世界の未来について嫌でも考えてしまう時期でもある。私と彼女はそんな就活の真っただ中にいる。
彼女はアイスカフェラテを一口飲んで返事をする。
ー まぁ、たしかに。
ここ数年を通して、「世界の秩序」は信じられないくらい大きく歪んだ。外を出るためにはマスクを付けないといけないし、海の向こうでは大国同士が争っている。これから子どもは減って高齢者が増えるみたいだし、次の未曽有の自然災害もいつ起こるか分からない。だからこそ、
1年先のことも予想できなかったのに、
ー 数十年後なんて予想できるわけないよね~。
そうそう。
ー 不安?
そりゃ、もちろん。
ー そっか。
私は目の前に置かれた一切れのケーキを見つめている。誰だって不安なしに今の時代を生きることはできない。私だってそうだし、彼女だってそうだろう。そう思えばこの関係だっていつまで続くか分からない。来年の今日もこうやって近所のカフェで近況報告をすることができるとは限らない。
彼女はまたアイスカフェラテを手に取り、一口飲んで、でもさ、と語りかける。
ー でもさ、明日は来るんだよね。
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