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衝動買い道中膝栗毛〜第2回タイトル買い選手権〜

むかーし、『読書コンサルタント』みたいな人にSNSで絡まれたことがある。「失敗しない本選び!」とか言ってるビジネス書みたいに上から目線の人で、「へぇ、見解の相違ですね」と鼻白んで縁を切った。
ハズレを引いて「これ合わねぇわぁ」と思いながらも読み切ったり、読み切れずに積むのも私にとっては本選びの一興なのである。失敗しない本選びとか余計なお世話だ。
そんな私もかつてはそれなりにおっかなびっくり本を選んでいた。昔は自由に使えるお金も多くなかったし、積み本への罪悪感も大きかった。その時参考にしていたのが、当時『ほんシェルジュ』とかいう読書コラムを書いていた橋本淳という俳優さん。人生のバイブル、『風が強く吹いている』が映画化したときに神童役を演じ、それがあまりにもわたしの中の神童さんとぴったりだったので中学から推してる人だ。舞台がメインなだけあって声がいい。とてもいい。
彼の紹介していた本の選び方が、『5ページ立ち読みして自分に合いそうなら買う』だった。とてもシンプルでわかりやすかったし、実際当時5ページ立ち読みして買った本は積み本の山に加わらなかった。今も買うか買わぬか熟慮すべきお高めの本を選ぶときは5ページ立ち読みしている。
さて、当時から爆発的に自由に使えるお金も積み本も増えた今、わたしがどうやって本を選んでいるか。まぁ割と作家やシリーズ買いなんだけど、新規開拓の一歩目はタイトル買いが多い。気になる題名はその時買わなくても次に本屋に来たときすぐ目につくし、結局忘れられずに手に取っている気がする。その買い方で着々と積み本を増やしているからいい選び方ではないのだろうが、魅力的なタイトルを付けられる作家に敬意を表し、第2回をここに執り行う次第です。前置き長いなおい。

第2回タイトル買い大賞!


①三人多いで賞


門井慶喜『ロミオとジュリエットと三人の魔女』

いや多いわ。余計なやつが三人おるやん。こういうシンプルに一つ足してツッコミどころをつくるのもある意味テクニックなのかなと思ったり思わなかったり。
戯曲作家として名を馳せる前のシェイクスピアがちょっと自分探しの旅に出た先で起こる、三谷幸喜ばりのドタバタ喜劇です。無論フィクションでございます。
シェイクスピア戯曲の小ネタがあちこち差し込まれてるのでシェイクスピアオタクは歓喜する内容となっております。

②見てみたいで賞


中山智幸『ペンギンのバタフライ』

本屋でタイトル見かけて気になって、でもその時は買わずに出て、次に来たときまた気になって……を繰り返し4回目でついに買った。どうしてバタフライだったのだろうか、平泳ぎや犬かき、クロールじゃダメだったんだろうかと考えた末に買ったんだけど、読んでみたら個人的には納得した。バタフライはバタフライでも、泳法よりもブラジルとテキサスのアレが意味合いとして濃いのかな。
PHP文芸文庫は展開している規模の割に読みやすくていい本が多いですよね。時間にまつわる短編でとてもよかったです。

③本当にそうなんで賞か

似鳥鶏『ダチョウは軽車両に該当します』

楓ヶ丘動物園シリーズ2巻。このシリーズはどれもタイトルがカオスなので全巻ランクインさせたいとこなのだけどそれをやると流石にくどいからこいつに搾った。ちなみにシリーズ他作品は、
『午後からはワニ日和』
『迷いアルパカ拾いました』
『モモンガの件はおまかせを』
『七丁目まで空が象色』
と清々しいぐらいにわけがわかりません。
動物園の飼育員たちのお話ですが、(動物園でこんなに事件おこる?)と言いたくなる割とヘビーなミステリです。個人的には同僚の服部くんが好きで、主人公に対して強火の変態やってるのでシュールな場面が多い。最新刊の『七丁目まで〜』は象が脱走する話なんですが、飼育員の動物事故は象にうっかり潰されてしまう事故が1番多いことを踏まえ、象に押しつぶされることを『オツベる』と宮沢賢治も真っ白になる不謹慎発言をかましておりました。

④ちゃんと覚えま賞


福井県立図書館『100万回死んだねこ』

副題にある通り、図書館のレファレンス窓口に寄せられた多数の記憶違い作品たちをまとめた1冊。とはいえ、お猫様をそんなに殺すな。
Twitterで話題になってたので気になってたのですが、書籍化したので買いました。わたしも前流行ってた『イカゲーム』のことを、烏賊が出てくるゲームだと認識しており「なんだ、スプラトゥーンのことか」と思ってたこともあったので思い込みには気をつけようと思いました。

⑤理解出来た奴は法学部で賞

五十嵐律人『原因において自由な物語』

元法学部だけどいまだに助詞を間違えそうになる。顔面偏差値を元にしたマッチングアプリが普及しているディストピアみたいな世界観なのでアレですが、これはSFじゃなくてミステリです。
普通に生きてると「原因において自由な行為」とか聞く機会ないよな。法律用語をタイトルにしちゃうあたり、現役で法律家をやってる方の作品らしいですよね。
論理をとことん追求する法律家の方らしく、ロジカルな部分はかなりしっかりしてたので面白かったと思います。このタイトルでピンとくるやつは間違いなく『ちゃんと授業受けてた』法学部です。

⑥見くびりすぎで賞

行成薫『僕らだって扉くらい開けられる』

開けられなかったらやばいけどそういう無能力のお話じゃないのでご安心を。『名もなき世界のエンドロール』とかエモいタイトルをつけまくってる作者さん、さすがです。
私は、異なる分野に特化した能力を持つ複数人が各々の強みを活かしてなにか大きなものに立ち向かう系の話が大好きなので割とストライクゾーンにいい球がきました。良かったです。なお、この本がなかなか良かったので行成薫ローラーをしてみたら無事に積読が増えました。ローラーするほど好みの筆致ではなかったかも。

⑦哲学的で賞

辻村深月『噛みあわない会話と、ある過去について』

サリンジャーか村上春樹みたいなタイトルの付け方をしますよね。『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる』とか、『走ることについて語るときに僕の語ること』的な。え?今なんて?
辻村深月には白い辻村と黒い辻村がいるともっぱらの評判ですが、タイトルで察した方もいらっしゃる通りしっかり真っ黒です。『かがみの孤城』とかをイメージして手に取ろうと思ってる方は考え直してください。メンタルやられますよ。
ちなみに影法師は、中学の同級生に一人1冊ずつこの本を『早穂とゆかり』の章に栞挟んで送り付けてぇなって思ってました。そういうことです。

⑧それは困るで賞

松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』

僕らのクラブのリーダーは〜って、まじか。本屋で見かける度にノンフィクションか何かしらのビジネス書を文庫化したものだと思っていて、なかなか手に取らずにいたわけですよ。(影法師は「現実見るのは現実だけで十分」がモットーなので好きな本の参考文献とかでない限り小説以外の本を買いません)
それが普通に小説だったので、え、ミッ●ーマウスとか伏字にしなくても大丈夫なやつなの?とちょっと不安になった。
お仕事小説でとても面白いのでおすすめです。でも私は続刊の『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』の方が好き。ふたたび憂鬱になんのかよ。

⑨そんなものはないで賞

有栖川有栖『海のある奈良に死す』

埼玉に海がないのは有名な話だが、奈良という絶妙に知名度の低い都道府県持ってきたのがなかなかだなと思っていたけど、基本的に有栖川有栖氏は関西拠点だからむしろ関西人にとっては奈良の方が埼玉よりもよっぽど海無し県として有名なんだろうなとおもってみたり。
あと福井の小浜市が『海のある奈良』の別名なのはまじで初めて知った。お勉強になりました。ありがとうございます。

⑩第2回タイトル買い大賞

伊与原新『月まで三キロ』

絶対もっと距離あるだろ……ってのは置いておいて、初めてタイトル買いした本は村山由佳の『風は西から』だったのを思い出した。奥田民生の曲名は当時知らなかったけど、シンプルなタイトルの中に強烈なメッセージ性を感じて魅力的に映ったんだと思う。この『月まで三キロ』もタイトルはシンプルでありながら訴えかけてくるものがあったので買いました。ま、タイトル買い大賞って勝手に名前つけてるけど、ひねりのあるタイトルじゃないと魅力的じゃないわけではないし。
選考基準に作品の面白さは加えてないけど、文句無しに面白かったし、続刊の『八月の銀の雪』も表題作が最強に若者の自意識を抉ってきたので良かったら手に取ってみてください。伊与原新はいいぞ。


最後まで読んで頂きありがとうございました。
そして第1回からかなり期間が空いてしまったため、正直10じゃ選びきれないぐらいの素敵なタイトルを持つ本に出会ってきたので、折りに触れて第3回も執り行いたいと思います。良かったらまた遊びに来てくださいね。

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