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【第47回】行きはよいよい 帰りはこわい。

高校2年生のときのことだ。

当時の僕は何もかもが嫌になっていて狂ったようにレトロゲームを買い漁りプレイしていた。遊んでいる間だけは経験をしていない80年代や90年代に思いを馳せながら嫌なことは忘れられていたと思う。

レトロゲームは高校生でお金のない僕にとって安く長く遊べるコスパのいい娯楽だったように思う。おかげて近所のレトロゲームが買える店を巡ることも増え、日々のルーティンにすらなっていた。

ある日の休日こと。ふと思いついて、そのルーティンから外れ別の店で買い物をしたくなったことがあった。

この考えに少しゾクっとしたのを覚えている。あんまり考えたことがなかったけれども僕は高校生だし、そういうことをしても問題ないはずだ。

少し浮足だってネットで調べてみると、どうやら隣の市に個人経営のレトロゲームショップがあることを知った。そして、その店は自転車でもギリギリ行けるような距離だったわけで。なんて好都合なんだ。

店に訪問したという記録を記したブログには何やらアンダーグラウンドな気配。正直とってもドキドキした。ワクワクが止まらなかった。「行こう。絶対行こう」と決意を固め興奮覚めやらぬまま、その日は眠りについた。

次の日。僕は自転車を走らせた。片道で10キロ以上はあったと思う。そんなことを意に介さず軽快とペダルを漕いだ。

もう季節は夏ごろになっていて暑かったような気もするけれども、これから待ち受ける未知との出会いのワクワクが照りつける太陽の日差しをどうでもよくさせていた。それに普段の生活では絶対に見ないような景色が広がっていたことも僕の感情を揺さぶったのだ。

そして体感としてはあっという間に到着した。

胸を躍らせながらその店の扉を開いた。店内に入るとごちゃごちゃとしてありとあらゆる場所にゲームや関連書籍が積み上がっている。

ワクワクする一方不安にもなった。当時の僕はお店といえばチェーン店ぐらいしか経験がなかったというのもある。「いらっしゃいませ」という声が聞こえないというだけで急に不安になった。

どうしたらいいのかわからずプチパニックになり不安に負けないように持っていたカバンをぎゅっと握りしめ店内をウロウロしていた。この判断がよくなかった。

まるで博物館のような店内を胸の中の不安と戦いながらせっかく来たのだからと商品を眺めていたのだ。この時の僕は非常に挙動不審だったと思う。

「すみません」

いきなり背後から店員らしき人物に声をかけられた。とてもびっくりしたけれども安心もした。きっとお店のシステムとかを教えに来てくれたんだと無邪気に思った。

「カバンの中を見せてもらえますか」

意味がわからなかった。頭の中が真っ白になる。ただ店員は怖い顔をしているし腕を僕の方に伸ばしていて、よくわからないままカバンを渡した。

店員は中身を一通り確認するとカバンを僕に返して何も言わずに踵を返し、レジの方に戻っていった。

点と線が繋がり店員の意味不明な行動が「この客は万引きをしているのではないか」と思ったことによるものだと気がついたのは数分経ってからのことだ。

僕はそのことに気がつくと慌てて店を飛び出していた。居心地がとても悪くなってその場にとどまることができなくなったからである。

万引き犯に間違えられるという経験は初めてで、何も悪いことをしていないのに疑いの目をかけらたことが怒りを通り越して悲しかったのだ。気がつくと涙をポロポロと流していた。あれだけここに来る前に浮かれていた自分が恥ずかしくなる。

今振り返ると客観的に見れば不審な行動をしていたのは確かで万引きされやすそうな店内だったからしょうがない節はあると思う。人のカバンの中身を勝手に見て自身の判断が間違いだったことに対し謝罪の1つもなかったのはどうかと思うけれども。ただそういった事情を慮るにはあの時の僕は若すぎた。

泣きながら家に帰る道のりは果てしなく長く感じたのだった。

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