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「若者のすべて」を夏の終わりに聞くということ

真夏のピークが去った
天気予報士が テレビで言ってた


気づくと、8月が終わっていた。

大好きな夏が終わると、街はあっという間に秋になることを、私は知ってる。


頭の中でイントロが鳴りはじめる。
意識しなくても自然に流れる 映画のエンドロールみたいに。

それはきっと、私だけではないだろうと思う。

夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて
「運命」なんて便利なものでぼんやりさせて


私は、夏が好きだ。いや、違う。

とても、好きなのだ。


アクリル絵の具で塗りつぶしたような青い空
扇風機と風鈴の音色
かき氷を食べながら見上げる打ち上げ花火
テレビに映る泥まみれの高校球児
道端で力強く咲くヒマワリ
キンキンに冷えた生ビール

耳鳴りのようにうるさい蝉たちでさえ

夏の出来事は、どこを切り取っても
ドラマみたいだ、と思う。

明るい日差しの中にいれば、不安な気持ちなんてどこかに吹き飛んでしまう。

そんな前向きなパワーを、夏は持っている。

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今年は、いわゆる”楽しいこと”を我慢することが多い夏になった。
2020年の元旦「オリンピックまであと半年だ!」なんてはしゃいだのが絵空事みたいに。

仕事仲間とビアガーデンで乾杯して
当選していたオリンピックの試合を観に行って
旅行の計画を立てて海外へ行って
大好きなアーティストのコンサートで思いっきり汗をかいて
仲間と一緒にバーベキューやプールを楽しんで

 
当たり前に思い描いていた夏とは、
違う夏になった。


最後の花火に 今年もなったな
何年経っても思い出してしまうな

この曲を知ったのは、大学2年の頃。
8月の終わり、バンドマンの友人がバイト先でいつも鼻歌をうたっていた。

「ねえ、その曲って誰の曲?」
「え、知らないの?! フジファブだよ」
「聞いたことはあるけど…よく知らなかった」
「聴いてみてよ、志村さんは天才なんだから」
彼はそう言って、その日の夜、YouTubeの動画を送ってくれた。

夏が終わって欲しくない、という気持ちが強い私にとって、
8月の終わりにこの曲と真正面に向き合うのは、
少ししんどかった記憶がある。

世界の約束を知って それなりになって
また戻って

夏にまだすがりついていたかったのだと思う。


でも、9月になり、Tシャツが肌寒いと感じるようになる頃にもう一度聴くと
「なんていい曲なんだ!」と思うようになった。

楽しかった夏の思い出を1つ1つ整理して
胸ポケットにしまって
秋に旅立つみたいな、そんな気持ち。

街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ
途切れた夢の続きをとり戻したくなって


私は、この曲のことは知っているけれど
フジファブリックのことも、志村さんのことも、よく知らなかった。

バンドマンの彼から、志村さんはもうこの世界にいないんだよ、ということを教えてもらったのを思い出して少し調べてみた。

志村さんは、今年の私と同じ歳で 旅立っていたことを知った。

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私は あの夏から毎年同じように
この曲を聴くことで夏を終えて
秋を迎え入れる準備をしていた気がする。

その度に、夏の楽しいことも悲しいこともきちんと自分の大切な経験として、記憶して、整理して、前を向いて。


***


今年は、思い描いていた夏とは違った。

だから、この曲を聴いたら きっと
すごく切なくて 悔しくて 悲しい気持ちになるんだろう、と思っていた。

でも、想像とは違っていた。

最後の花火に 今年もなったな
何年経っても 思い出してしまうな

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なぜだろう。
今年もしっかり夏を過ごせたな、
こういう夏もありだったな、と思えた。


毎年見ていた地元の花火大会は中止になったけれど
今年も夏の最後に花火をきちんと見上げていたような

そんな気持ちになった。

すりむいたまま 僕はそっと歩き出して


私だけでなく
今年は、たくさんの人たちが
想像とはちがう夏を過ごしたのだろうと思う。

できなかったこと
悲しいこと
目を背けたいこと
私たちは最近、マイナスなことばかりに気を取られすぎなのかもしれない。


今年の夏だからこそできたこと

いつもよりゆっくり読書する時間ができた
外食が減ってダイエットに成功した
夏野菜を使ってお弁当を作った
テレビ電話でおばあちゃんと会話ができた
会えなかった友人に誕生日プレゼントを贈った
外国にいる家族とリモートで乾杯できた

例えそれが些細なことだったとしても
プラスなことに気持ちを向けて

1つ1つ、大切な”2020年の夏"の 思い出として
ポケットにしまっておこうと思う。

ないかな ないよな なんてね 思ってた
まいったな まいったな 話すことに迷うな


フジファブリックの「若者のすべて」


この曲は、本当に
”夏”という映画のエンドロールみたいだ。

私はこの映画を悲しい物語ではなく
ハッピーエンドにして
また新たな季節を迎えたいと思う。


最後の最後の花火が終わったら
僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ




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