先輩がマニュアル

 ホンダディーラーでCSが常にトップクラスのホンダカーズ中央神奈川さんで、以前、こんな話を聞いたことがあります。日本経営品質賞を受賞している会社ですが、審査員が事前調査に訪問した時に、「貴社には接客のマニュアルがありますか?」と質問をされたそうです。CSが高い会社だからきっと接客マニュアルがあるはずだと思われたのでしょう。しかし、この会社には接客マニュアルはありません。そこにいた社員が「紙のマニュアルはありませんが、うちでは先輩がマニュアルなんです」と答えたそうです。尊敬する先輩の姿をみて、自然と身に付けていくのがこの会社の伝統だということです。

 審査員の目線は、接客マニュアルがなければ標準化されず、バラつきが生じるのではないかということだと思いますが、この会社は何年も連続してCSナンバーワンに輝く会社ですから、現実は接客マニュアルがなくてもみんなが質の高い、いい接客をしています。
 では、どうしてみんなが質の高い、いい接客をしているのか?それは審査員が求めるような科学的な答えではないのかもしれませんが、私は「社風」だと感じました。トップを筆頭に、みんなでお客様を大事にしようという空気感。「朱に交われば赤くなる」といいますが、いい社風の中にいると、自然とみんなが「いい接客になる」というのが、マニュアルがなくてもできる理由ではないでしょうか。これは、バグジーさんでも、川越胃腸病院さんでも、伊那食品工業さんでも感じたこと。いい社風がある会社は、マニュアルではなく、先輩たちの後ろ姿で若い人が育っています。

 「そういう社風があればいいけど、うちにはない。」という声が聞こえてきそうです。確かに社風がないなら、接客マニュアルを作って形だけでも整えないとお客様満足は高まりません。確かにそういうアプローチも大事なのかもしれませんよね。しかし、どんなにいい接客マニュアルを作り、教育をして現場に出したとしても、理念に共感して働いていない先輩が傍にいると、若い人はそちらに影響を受けてしまうのも事実。いい社風もあれば、悪い社風もあるように、社風の影響力はあなどれない気がします。

 ただ、私が取材させていただいたいい会社の経営者は皆さん、「いい社風をつくるのは時間がかる」と仰っていました。人々の考え方や意識の問題ですから、そう簡単につくれるはずがありません。それでも、諦めずにいい社風をつくろうと努力を続ける。そんな粘り強い経営者だけが「いい社風」がつくれるのでしょう。
 自社の社風、皆さんはどのように感じておられますか?

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