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読書記録「たかが殺人じゃないか」

タイトルに惹かれて文庫本を購入した。
「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」というタイトルあるように、戦後を舞台とした推理小説である。
戦後での「たかが殺人」とは。

主人公は高校三年生の風早勝利は、ミステリ小説家を目指す推理小説研究会部長。
中止となった修学旅行の代わりに、推理小説研究会と映画研究会の合同合宿として温泉での一泊旅行へやってきた。そこで密室殺人事件の第一発見者となる彼ら。
さらに、廃墟で映画を撮影していたら解体殺人事件の第一発見者となる。
犯人は、そしてどのように殺人は行われたのかーーという推理小説。

あと、この小説で欠かせない要素が「青春」!
初めは「青春ミステリー?」と思ったが間違いなく彼らは青春している。
部活に合宿に学祭に。転校してきた気になる女の子とその秘密。クラスメートのカップル。何かあるとすぐざわざわ喋りたくなっちゃう高校生感。
この高校生だからこそ、なところがこの小説のスパイスとして効いていた。

物語の舞台が愛知県で、特に名古屋の様子が細かく書かれている。
なんとなく、知っている場所が舞台だと嬉しい。
東海地方の人は、名鉄を電車、JRのことを汽車と呼ぶらしいと最近知った。この小説でもそのようなことが書いてあり、「あるある」だったんだな。
他にも主人公たちが名鉄に乗っていたり、あの道に路面電車が走っていたのか、など結構細かく情景が書かれているので情景を細やかに想像できる。
作者の原風景だからだろう物語に、リアリティが増す。
名古屋駅周辺を知っている人ならすんなり引き込まれてしまうと思う。

そんなふうに引き込まれて学制改革が変わり共学となったなど混沌としただろう日常が、当たり前のことみたいに書かれていた。
今の時代だったら急にこんな改革起きないし起こせないだろうと思う。
戦後って日常がこんなにもガラッと変わって大変だったんだな。

そんな現代の私たちには遠い世界のようにすら感じてしまう日常を送る主人公たちを、身近に感じられる要素が「あだ名」だ。
顧問と男女生徒五名にはそれぞれあだ名があり、作中で呼ばれ方が統一されていない。
例えば主人公のあだ名は「カツ丼」なので、他の登場人物には「カツ丼」と呼ばれたり「風早」と呼ばれたり下の名前の「勝利」と呼ばれたりする。作中の文章でも名前が統一されていない。
最初は誰が誰で何なのか混乱するが、読み進めるとすんなり自然のこととして受け止められる。
フルネームとあだ名を覚える頃にはキャラクターの性格や特徴を捉えている。
そういえば、学生時代って大体の子にはあだ名があったよな、みたいな感じで。

文章も難しい言葉遣いが多いので、言葉の意味を想像しながら読んだ。
普段使わない頭を使った感じ。

登場人物の名前もあだ名も覚えた頃、ところどころに戦時中の話が出てくる。
そのとき、やっぱり彼らと生きている時代は違うんだなと思わされる。
例えば死体を死体だと断定するところ。
本当にお前らが見たものは死体だったのか、と警察に疑われれば、戦時中に見た死体から今回も死体であることを断定する。
死体だと断定できるのは、読者のほとんどには分からない感覚である。
あだ名で呼ぶ仲間の一員の気持ちで読んでいたら、急に隔たれる。
彼らとは生きているところが違うんだなと。

と、思っていたら今度は高校生の青春風に騙される。
古典ミステリの事件編と解決編に挟まれている「読者への挑戦状」のようにこの作品には「読者への【質問状】」が挟まれている。
質問状!
質問状としている理由も高校生らしい謙虚さがかわいいなあ、と思っていたらまた騙されるんだが。
主人公が推理小説家志望であることなど細やかな設定が効いている。

「ミステリー」部分にも「青春」部分にも大満足な小説だった。時代設定にも。
青春っていいな〜。


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