見出し画像

読書記録「名探偵のままでいて」

「孫が持ち込んだ謎を解く認知症の安楽椅子探偵ミステリ」である。
この設定にまず惹かれた。
そしてラストにぐぐっと惹かれた。
最後に提示された謎の虜である。

孫の楓が持ち込む謎を、話を聞くだけて仮説を立てていく祖父。
古本に挟まっていた記事やプールでの人間消失など。
祖父は仮説のことを「物語」と呼び、真の物語に迫る時には煙草を燻らす。
名探偵の「さて、」のような謎解きのお約束が祖父の「煙草を一本くれないか」。
もう「古典ミステリ感」を漂わせていて、堪らない。

この小説のメイン登場人物は四人。
表題の名探偵である祖父は知的で魅力的。
謎を持ち込む孫の楓はミステリオタクの小学校教諭。
楓に好意を寄せている同僚で、スポーツマンな岩田先生。
楓の対比のように出てくる古典ミステリ批判派で劇団員の四季。
濃いキャラクターが織りなす点と点だった各章が、最終章で絡まっていく様に圧巻だった。

各章ごとの短編だったので、区切りやすく読みやすかった。
各章が1時間から2時間くらいで読めるし、一章ずつの編成が日常→事件の話を聞く→物語(仮説)を紡ぐという構成になっていて、ドラマを見ているような気分で読んだ。
あと、謎の難易度がちょうど「日常」という感じ。
読後感が暗くならないので、出勤前に読んでいても苦にならない。たまにドギツイ展開の推理小説読むと後に気持ちを引きずってしまうので……。
孫が祖父に謎を持ち込んでいるので、祖父と読者はその謎に対して同じ条件で仮説を立てることができる。
楓の話を読んでいて「あれ、ここに違和感がある」とは分かるんだけど、そこから先へは進めない、手に届きそうで届かないちょうどいい謎だった。

そして何より好きなものがラスト。
もう一週間以上前に読了したのに、まだこの小説のラストを考えてしまうことがある。
ちらっと調べてみたら皆さま同じ気持ちのようでラストに関するレビューや意見が多数投稿されていた。
私も誰かと語りたくて仕方がない。誰か知り合いに貸したら読んでくれるだろうか。

また、この小説にはたくさんの知識が出てくる。
まずは祖父もなっている認知症について。
私は認知症にも種類があり、種類によって症状が違うことを知らなかった。
有名なのはアルツハイマー型認知症だけど、この小説の祖父はレビー小体型認知症というもの。
症状に関する記載もあり、認知症についての勉強にもなった。

あと、たくさんの推理小説が登場する。
今まではただ好きな推理小説を読んできただけだが、こんなに種類があるとは。
小説の中で紹介されているものだと「安楽椅子探偵」の例に挙げられていた「九マイルは遠すぎる」。
たった一言で前日の殺人事件を暴くらしい。Amazonで文庫を購入しちゃおうか悩み中。

気になる設定、古典ミステリ感、キャラクター性、たくさんの謎と知識、そして何より読後の小気味良いラスト。
誰かと語りたくなる大満足な推理小説だった。推理小説っていいよね。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,685件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?