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読書記録「ルビンの壺が割れた」

「呆然」が近いかも。
文庫の解説にて、この小説は読後の感想が分かれると書かれていた。
私は展開に置いてけぼりになったような感覚。
短編小説で、こんな気持ちにさせられる? って感じだった。

「ルビンの壺」とは「壺(盃)と人の横顔の二通りに見える反転図形・多義図形」のこと。
有名な図形なので誰もが一度は見たことがあると思う。
調べてみたら1915年に考案された図形らしい。そんな過去から人は騙し絵に騙されているのね。

タイトルと文庫本の表紙が絶妙だ。
本屋で平積みされていたらまず手にとってしまうと思う。
派手な色使いの表紙が目を引く。
見た事がある図形が派手な黄色と黒の警戒色で、自然と手にとってしまった。
そして、有名な「ルビンの壺」が割れている。どういう意味か分からないタイトルだけど、騙し絵が割れているのは不穏な感じ。
知らない作者で知らないタイトルだけど、やけに短いしサクッと読めそう、買っちゃおうかな〜→購入、である。
過去の私、グッジョブ!
久々にキーンとくるタイプの読書体験が得られた。

物語は、Facebookでの男女のメッセージのやり取りで進んでいく。
彼らが何者でどうしてメッセージをやり取りしているのか、読者はメッセージを追いながら推測することしかできない。
男性と女性が学生時代を懐かしむようなやり取りを続けているが、不穏。とにかく不穏な空気感なのである。
まず男性が返事のないメッセージを送り続けるので、気持ち悪い。
この小説を読み始めて最初の感情が「気持ち悪い」だった。初手の感想が「気持ち悪い」はなかなか珍しい。
文庫本が薄いので「気持ち悪い」と思ってもとりあえず読める。長編だったら登場人物に嫌気が差して読むのをギブアップしていたかも。
この感情も読み終わると巧みに誘導されていたことに気づき、呆然とした。

男性とメッセージのやり取りをしている女性も不穏。
女性は男性との結婚を約束していた仲だった。でも結婚式には現れなかった。
さらに、素性を明かそうとしない。
結婚式に出なかったことを正しかったと言い切る女性に不信感が湧き始める。
メッセージのやり取りを重ねるごとに二人の印象が変わっていく。
そして呆然とさせられるラスト。
短い物語の間に感情揺さぶられまくる。すごい。

文庫の巻末解説に書かれていた通り、ジャンル分けが難しいミステリーだと思う。
でも、確かにこれはミステリーだと思う。

二時間ほどで読了した。物語が短い割に時間がかかったのは、モヤっとした正体を掴みたくて途中で読み返したからだと思う。

サクッと呆然とできる貴重な読書体験だった。
人によって抱く感想が違いそうなので、私は父に貸してみた。
このnote投稿後にもレビューを見てこようと思う。他の人はどんな感想を持つのだろう。


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