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連載小説|寒空の下(6)

 翌日から俺はくだらない研修を受けさせられた。朝から晩まで事務所に閉じ込められ窒息しそうになった。4日間も研修を受ける必要性があるのかどうか分からなかったが、法律で定められていることだから避けようがなかった。法律なんて正しいかどうか分からないこともあるだろう。姦通罪などというイカれたものがこの国にもあったくらいだ。時には疑ってかからないと、街中で裸になって踊らされることになるかもしれない。

 警備員のプロフェッショナルになるために「警備員の心得」とか「警備の仕方」とかいうDVDを何度も見せられ、内容を覚えたかどうか佐藤に問い詰められた。それに、何度も集団行動の動作をやれと指示された。

 研修が行なわれた4日間、隣にはいつも一緒に研修を受けていた少し年齢が俺より若そうなニキビ面の青年がいた。竹岡というその青年は俺と違って反抗することできず、佐藤のいいなりになっていた。というよりは、いいなりになることに快感を覚えるタイプだったのかもしれない。俺の代わりに竹岡が一生懸命に研修を受けていたので、佐藤は彼のことをひどく気に入った。しまいに俺は話しかけられなくなり、部屋の中にはまるで佐藤と竹岡の2人しかいないみたいになっていた。

「はいじゃあみなさん、敬礼!」竹岡は素早く敬礼した。アンドロイドみたいだった。もちろん、俺は敬礼なんかしなかった。
「竹岡くん、それじゃちょっと違うよ。親指と人差し指はくっつけて…もっと角度を内側に…」佐藤はどこか嬉しそうに、直立して固まっていた竹岡の腕を触って指導した。
「はいじゃあもう一度、敬礼!」俺からすれば何が変わったのか分からなかったが、竹岡は佐藤に言われたことを意識して素早く敬礼をした。
「まだまだ改善点はあるけどひとまず合格だね」
「ありがとうございます!」竹岡は叫んだ。

 敬礼の仕方を身につけることはなかったし、この先もこんなことしてたまるかと思った。ただ、竹岡がマゾヒズムというものを体現し、見せつけてくれたおかげで1つ社会勉強ができた。

つづく

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