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THINK 102/ゲスト:龍崎翔子さん(ホテルプロデューサー)

2019年6月14日(金)小雨
19:30−22:00
サポーズデザインオフィス3F
ゲスト:龍崎翔子さん
L&G GLOBAL BUSINESS, Inc. 代表/ホテルプロデューサー

ーーTHINK BOOK について
THINK BOOK は,読む "THINK" です."THINK" とは Suppose Design Office の谷尻誠が毎月魅力的なゲストを招き「"考える"を考える場所」として開催しているイベントです.ここではTHINKに参加した人も参加できなかった人も,トークのエッセンスを追体験できるように読み物として再構成してまとめています.過去100回以上に及ぶ記録資料などの掘り起こしを含め,月に2回程度掲載していきます.
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102回目となるTHINKのゲストは,“ジャケ買いされるホテル”をテーマに,HOTEL SHE, OSAKAをはじめとする大阪,京都,湯河原,そして北海道で5つのホテルを経営され,Forbes JapanやNIKKEI,WWD,そして「セブンルール」等,数々のメディアに取材され,Apple JapanのCMにも出演されているホテルプロデューサー,龍崎 翔子 (Shoko Ryuzaki)さん.

小雨の降る夕暮れ,広島市の中心部から少し外れた街角に佇む古い建物の脇にあるガラス戸の入り口には,A4の白い紙がテープで貼られている.今日を心待ちにしていた人たちが,古い商店街の名残を残す街並みにちょっとした列を作る.通り過ぎる地元の人が,少し怪訝な顔をして通り過ぎる.いつもの光景だ.細長い階段をまっすぐ3階まで登れば,そこがいつものTHINKの会場である.スタッフが受付,ドリンク,物販,アーカイブのためのビデオ撮影,マイクや音響・映像機材のセッティングなど,テキパキと動き回っている.しばらくして,特徴ある谷尻誠さんの話し声が階下から聞こえてきた.谷尻さんに続いてゲストの龍崎翔子さんが登場.和やかな雰囲気の中,いつものように自然な流れで話が始まり,オーディエンスもリラックスしながら話に耳を傾け始める.

まずは,簡単な挨拶と紹介の後,龍崎さんがスライドを使って仕事について話し始めた.

イケてないことはしたくない

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龍崎さんは,小さい頃両親の仕事でアメリカでホテル暮らしをした時期があったという.そして当時はどこも同じようなホテルばかりでつまらないなぁと感じていたとのこと.その経験が,後に自分の進むべき道として思い出されるのだから,よほど強烈なインパクトだったのだろうと想像する.そして子供の頃にすでに「自分ならこうする」という想像力を働かせていたのだというから驚く.そして,いまは「L&G GLOBAL BUSINESS.Inc.」を立ち上げ,取締役として,ホテルのプロデューサーとして活躍している.わかりやすいキーワードは「ジャケ買いするホテル」

中身を聴いてもいないのに,レコードジャケットのデザインに惹かれて音楽を買ってしまう.それは,そのジャケットが音楽の世界観を一瞬で想像させるから.ある種,騙されてもいい,という覚悟でレコードを買った経験は,は誰しもあるのではないだろうか.

龍崎さんの手がけたあるホテルでは,内装にはほとんど手を加えずに,宿泊プランとその売り方ひとつで,売り上げが急成長した.「自分ならこうする」という一種のわがままにも見える主張の中に,綿密に計算された「確信」と「信念」がある.さらに,驚くほどの言葉の解像度でその秘訣が語られる.今回のTHINKもオーディエンスにとってどんなビジネス書よりも有意義な時間になるだろうと確信した.

龍崎さん
”例えば銀座のような,すでにブランド力というか集客力がある場所にホテルを作っても,人が作った価値観にフリーライドするような感覚があって,それはなんかイケてないって気がするんですよね.むしろ,あまりこれまで人が知らなかったマイナーな土地に潜む価値を伝えて魅力を伝えることの方がイケてると思っちゃうんですよね”

”ホテルってメディアだなって思っていて.メディアって,何かと何かを媒介するものだから,ゲストがホテルを媒介に,その場所やその土地の人や空気感,ゲスト同士などと触れ合うことで,ポジティブな予定不調和を与えて,満足してもらいたい.ゲストに新しい経験の扉を開いてもらいたいんですよね”

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龍崎さんは,ありきたりのマーケティングに関するリサーチをセオリー通りに読み解く気がないらしい.おそらくそのようなベーシックなデータも持ち合わせているだろうけど,それを飛び越えた戦略を立てるところにオリジナリティがある.インターネット,特にInstagramの普及あたりから,人々の消費行動が大きく変化している.その変化のシステムを敏感に察知し,自らの経営するホテルのプロモーションに緻密な計算を持って仕掛ける.ある種,インターネット以前のニッチな世界も,いまやSNSを通じて広まれば,ニッチどころか似たような特性のコミュニティで商売が成り立つ時代なのだ.その時代を駆け抜けるようにスピード感のある運営がなされている.

龍崎さん
”Hotel She Osaka (大阪の弁天町にある系列のホテル)では,ホテルのレセプションとカフェのカウンターはシームレスにしていて,看板には「HOTEL」とも書いていないです.だから,普通にカフェだと思って地元の方も入って来てくれる.そうすると,ホテルがその場所に住んでいる人たちにも使える場所になり,それが,今度はゲストにとって「大阪らしさ」を感じる空間になるんです.ホテルにいながら大阪を感じ取ることができるんですよね”

”いまは,昔と違って旅行の目的というか,なんのために旅行するのかっているのがすごく変化してきていると思っていて.もはや観光名所や名物を目当てにするというより,街に溶け込むような体験,が求められていて,パラレルな「あったかもしれないもう一人の自分」を経験するような旅が求められているんです

まだ誰もホテル業界でやってなかっただけ

ホテルなのに,ホテルらしくない,という天邪鬼な戦略が成功の秘訣だという.どの業界も,その業界の「当たり前」の範疇から先に抜け出して独創性を主張して成功する事例は確かに多い.「いち抜け」のアドバンテージはしばらく続くだろう.しかし,その後は,その座を維持するために,多くのフォロワーとの戦いの中で,オリジナリティを確固としたものに仕立てる必要がある.その辺りはどう意識されているのだろうか.

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