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【えーる】熱を通せば、甘くなる

先だって、鹿野の秋で米に関する話をつづったが、もちろんそれだけが田舎の秋ではない。

食に関するものばかりになるが、秋と言えばさまざまな食物が取れる季節だ。その中でも甘いもの、といえば、柿を連想する人もいるだろう。

田舎の夕暮れ、真っ赤な空を背景に、たわわに実った柿がシルエットになってさがっている……テレビアニメか何かで幼い頃に見たような気がするが、そういうイメージを自分は感じているのだ。

さて、そんな柿の木であるが、さすがにあちこちに林立しているわけではない。だから、ふと実家の近くにそれが立っていた時は、思わず車に乗り込もうとした足を止めて、駆け寄ってしまったほどだ。

夕暮れでもなく、シルエットでもないが、近づいてみてそれが確かに柿だということを確認できた。川に近い路地に立った柿の木には、薄い橙色に染まった果実がいくつもぶら下がっている。

誰の所有物かわからないし、自生していたとしてもそれを泥棒する気にはならなかったので、ファインダー越しにしっかりと目で堪能させてもらった。

渋柿を食べる方法

かき (1)

冒頭の柿とこの柿、形状が違っていることにお気づきだろう。

ざっくりとネットで調べてみたところ、四角い、よく見かける形のものが甘柿。細長い形状をした方が渋柿なのだという。

渋柿といえば、これも田舎の風景で連想されるものであるが、いくつも縛って軒先に吊るし、干し柿にして渋みを抜くという方法がある。色がさらに濃くなり茶色っぽくなったシワシワの柿は、なんとかして食べてやろうという昔からの知恵の結晶なのだと感じる。

ところで、皆さまは「焼き柿」という食べ方をご存じだろうか。

以前、といってももう7年も前になるが、鹿野の町なかで行われたイベント「いっておかえり 鹿野市」で、この焼き柿が振る舞われた。

この時、焼き柿がイベントで振る舞われるんだ、という話を実家でしていた時、父が話してくれた。

こうして焼く以外にも、いろりの残り火に渋柿を放り込んだり、皆が入り終わってまだ温かい風呂に桶を浮かべ、その中に置いたりと、直接火で焼かずとも、熱を通すことで渋味を甘味に変えていたとの話だ。

大変興味深い話だったので、こうして記事の中でも紹介させていただいた。

ちなみに、渋柿もいろいろな種類がある。どうやらこの方法は「ぶりがき」と呼ばれる柿でなければできないようで、なんでもかんでも渋柿ならこの方法で甘くなる、というわけではないようだ。

焼き柿、実食

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7年前のイベントで、取材ということで自分もこの焼き柿を食べてみた。

柿の甘味といえば、みずみずしさの中にも、とろっとした強い甘味が感じられるものである。自分も、そういう系統の味が堪能できるものだろうと思っていたのだが、実際はかなり違っていた。

もちろん、甘味という意味ではかなり強い味だ。しかし、それはなんというか、焼き芋のそれに近いような、想像とはまた違った甘味になっていたのだ。

渋柿の食べ方と言えば干し柿以外に知らなかった自分であるが、これには驚いた。柿の味が、焼くというごく簡単な調理法によって、ここまで変わって楽しむことができるとは。

先人の知恵の深さ、渋みのあるものさえなんとかして食そうという探求心には、ただただ脱帽するばかりである。

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