どうして茅葺きを残したの?⑧大前さん
茅葺きのお話シリーズ第8段
こんにちは。
茅葺き屋根の住人の方にインタビューを行う「なぜ茅葺きを残したの?」のコーナーです。
今回は第8弾、文化財登録されている屋根をお持ちの大前さんにお話を聞きました。
200年代の家?室町時代からの家??
大前さんは母家と納屋のふたつの茅葺き屋根の建物をお持ちです。
文化財に登録されているものの、現在は使用せず、隣の瓦屋根の家にお住まいです。
このお家は、一体どのくらい古いものなのでしょうか。
こちらも他の山田の家と同じく、はっきりとはわからないそうです。
かつて、学生が調査しにきたことがあるようで、その時は「屋根の構造から推定200年くらい」と言われたのだとか。
一方で、大前さんのお父様から聞いた話では、「室町時代からのもの」と聞いているそう!
昔から改装しており、昔はガラスの建具はなく、母家の方は居間と作業所だったようで、隣の納屋もなかったのだとか。
昔は一軒の建物の中に、住まいと牛小屋があったそうです。
文化財に指定する時に屋根の構造から推定されたましたが、長年の生活の中で改装している事実をふまえると、屋根の構造も少し変わっているかもしれません。
もしかしたら、推定されているよりも、とっても古いお家なのかもしれませんね。
葺き替えの思い出
大前さんの家の葺き替えの工事は
平成8年に1回、その前は昭和23年とのことでした。
葺き替えの期間の目安は約20年〜30年と言われていますが、
昭和23年に葺いた屋根が震災まで、つまり50年近く持ったそうです。
当時は三木市吉川町からの職人さんたちが、5人くらいで泊まりこみでやってきたそう。その方々が葺いた屋根は、阪神淡路大震災で骨組みが下にずれて、大きく落ちてきてしまいました。
そこで、平成8年から7〜8年かけて全部屋根を葺き替えたのが一番最近の工事です。
その時は茅を自分で刈って1年ごとに工事をしたため、長い年月がかかったそうです。
茅を刈って、集めてたまったら葺き替え。順番にやっていくんですね。
昔は4面全部いっぺんにやることは少なかったそうで、他の山田の家の方と同じようなやり方でした。
その時の職人さんは、 淡河町の藤原さんというかたで、葺き替えの時手伝いなどはしていなかったそうです。
屋根が差し替えを通して50年もったことが驚きました。
大前さんは、
「日が当たる部分は長持ちする。
その葺き方は長い生活の知恵で生まれた。長い経験と知恵
それがいろんな新しい事に活かされていく」
とお話ししてくれました。
「残さないといけないもの」になった茅葺き屋根
さて、大前さんの茅葺きはどうして残ったのでしょうか。
どちらかというと、無くすことができなかったという思いがあるそうです。
かつてはみんな茅葺き屋根でしたが、徐々に瓦の家に変わっていきました。働き、稼ぎのできる家は、古い家を潰して瓦の家にしていたそう。
大前さんも同じように変えようとしましたが、職業柄お金がたまらず、そしてお家も大きかったため、工事費がなくできなかったそうです。
「古い家を持っている家は、潰す力、建てかえることがなかった」という考えがあるようで、以前インタビューした大西さんと同じ感覚でした。
そして茅葺きの家に住まなくなって60年が経ち、しばらくして文化財に指定されたそう。
文化財に指定されたため残さなければならなくなってしまい、現在に至るとのことでした。
残したいという思いはあるのか尋ねると、
「住んでたらいいけど住んでないのに残さないといけなくなった。さっさと潰してしまいたい。残したくない」
とのことでした。
「ここに住んでるのはネズミ、野良猫、アライグマ、コウモリもいる。
住人は、彼らの方が住人。」
住まないのに金をかけないといけない。
重要文化財、箱木千年家をお持ちの箱木さんと同じように、文化財に指定指定されたことで「管理する責任」があるのは、大変だと感じました。
今、家の中はそのまま使うには修理が必要な箇所があります。
しかし、文化財のためそのまま残す必要がある、などの規制があるため修理もできないのだとか。
大前さんは、それでは意味がないとお考えです。
「これはいわゆる現地に残した博物館、文化財に指定する=そこに博物館を作ったという感覚を持ってほしい」
「昔の体験ができるとかならいいけど、それができないなら残す意味がないと思う」
「そこに生活のにおいが残っていないなら文化財の意味がないと思う」
生活のにおいという言葉もすごくささりました。
文化財を守るための制度ですが、色々なパターンがあるということがわかり、難しさを感じました。
草葺き屋根は環境にやさしい建物
大前さんに茅葺きに魅力を聞いてみました。
何事もはっきりとお話しされる大前さん。
今の新しい建物は壊すのが大変、
昔の建物は腐る、土に帰っていくのがいいとのことでした。
今後、この家をどうしたいと思っているのでしょうか。
大前さんはお子さんはいらっしゃらず、今後この屋根はもういらないと思っているそうです。
しかし、色々な思いがあることをお聞きできました。
中を全部改装しないといけなくなりますが、絵画展、書道展として利用することや
高齢化が進むと、老人の集会所が必要になるので、老人だけの解放された喫茶などもいいな、という考えもお持ちです。
どちらかというと新しい人より、お年寄りの方向けに、
昔の生活を思い起こせるような、
そんな拠点になったらいいなとは思っているのだとか。
お年寄りこそ、そういう体験をしてほしいと思っているそうです。
それにはどれもお金がかかるため、結局問題はお金、ということでした。
色々な思いがあると思いますが、最後にぼそっと
「茅葺きを海外でも見たけど、日本の茅葺きが一番綺麗。やっぱり手先が器用なのかな。」
と、つぶやかれた一言が印象的でした。
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