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ドラゴンボール世代論

お笑い芸人のEXIT・兼近が、5月17日のワイドナショーで「世代間の言語ギャップ」についてコメントしていた。

ぼくら初めて舞台に立ったとき、お客さん2人しかいなかった。お笑いライブにお客さんがまず来ない。その理由っていうのが、今、活躍している芸人たちが例えるのがドラゴンボールだったりするからなんすよ。ドラゴンボールやプロレスでよく例えるけど、若者には伝わってない。こっちは気を遣って笑うしかできないんすよ。「何言ってんだ、この先輩たちは?」っていう。若い人たちは「わかんないから見なくていいや」って、お笑いから離れていったと思うんすよ。

この意見に対して、一個人としての私は肯定的な考えを持っている。まずこれは表明しておこう。

「霜降り明星」を筆頭とした、新世代のお笑い芸人たち(いわゆる「第7世代」を含む)は、自覚的か無自覚的か、「世代の共通言語」を表現に取り入れている。


このEXIT・兼近のコメントは、歯に衣着せぬ物言いだったこともあってか、様々な反応を呼んだ。自分が観測できた範囲で、以下に列挙する。

①兼近の持つ「チャラ男」の文脈の方が、「ドラゴンボール」よりも対象に取れるターゲットが少ない

兼近の持つ性質は、対象の広い「若者文化=ネオ渋谷系」であって、従来の「チャラ男」ではない。「チャラ男」と分類されているのは、メディアが紹介するにあたって従来の区分で表現した方が都合が良いからに過ぎない。

②表現に携わる者として、コンテンツの金字塔である「ドラゴンボール」を知っておくべきだ

まず、兼近はキチンと「ドラゴンボール」を読破している。

そして、あくまで「ドラゴンボール」は「世代の共通言語」の例示として出されただけで、その例示は「魁!男塾」でも「幽☆遊☆白書」でも良かったわけだ。(「魁!男塾」も読まないとダメだ!とかいうのは無しで)

派生して、「兼近が属する30代前後は『ドラゴンボール空白世代』に当たる」という、大きく本筋からは外れた議論が発生していた。

正直、国民的漫画になった「ドラゴンボール」を世代の共通言語の例示に使ったことで、趣旨からブレてしまったとは思う。

③知らないコンテンツを調べることって、面白いよ

このnoteは、様々な事柄に配慮して書かれている。非常に興味深かった。
だがしかし、この文章は「コンテンツの受信者」が気を付けるべきことについて大きく書かれている。発信者として、最先端のコンテンツを学び、提供することには大きなメリットがあることは否定できない。


兼近が伝えたいのは、「発信する者は、間口を狭めないために新しい共通言語を常に意識した方が良い」ということである。正直、どれもポイントを外している。特に「ドラゴンボール」に過度に言及しているコメントは、ただ例示で用いただけなのでナンセンスだと個人的には思う。

だが、個人的な感情を抜かせば、色んな反応があってしかるべきだとも思う。報道された前科によって兼近の存在自体に拒否反応を示す人もいるだろう。また、国民的漫画である「ドラゴンボール」を世代論に安易に用いる姿勢に、「ドラゴンボール自体が否定されている!」と拒否反応が出る人もいるかもしれない。確かに趣旨とはズレているが、その感覚自体を非難することは決して出来ない。あるコメントに対する反応はその論点に沿ったもののみに定められなければならないという考えは、それはそれで非常に危ういものだ。


「世代の共通言語」に関する話をEXIT・兼近が少し披露しただけで、これだけの論点が見えてくる。

より社会的な問題の論点が議論されるうちにあちこちに飛んで大事なことが見えなくなってしまうのは、ひょっとすると至極当然のことなのかもしれない。

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