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『SPEC』|9歳女児に芽吹いた性癖と加瀬亮

オタクは大歓喜するとすぐに文章を書く。

まだ9歳だった私をズブズブに沼に誘ったドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿〜』が6月11日から再放送されるらしい。

大歓喜である!
せっかくなので『SPEC』に狂わされた女児の話をしよう。


回顧|女児、出逢う

もしも2010年10月8日金曜日の22時過ぎにたまたまTBSをつけなかったら、10年後の今、私は全然違う人間になっていると思う。そんな気がする。

小学4年生だった私は嵐が大好きな純粋ジャニオタ女児で、だから毎週TV誌を隅から隅まで読む癖があった。

ある日見たTV誌に載っていた【秋クール新ドラマ〈タイトルが長いドラマランキング 1位〉『SPEC〜警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿〜』29文字】。
謎ランキングの謎1位に、とても素直に「長っ!」と言ったのを覚えている。
「三角巾で腕を吊った戸田恵梨香」と「坊主でスーツの人」の写真が小さく載っていた。

それから数週間、そんな変なランキングのことなどすっかり忘れていた。
10年間愛し続ける作品との出逢いも案外そんなもんだ。

ある日つけたTVに映っていた「三角巾で腕を吊った戸田恵梨香」。
(あ、これあの長い名前のドラマだ)と気づいてなんとなく見始めたら、とんでもなかった。

その戸田恵梨香が難しいことか変なことしか言わないのだ。綺麗な顔をぐるぐる変化させて、口を開けばその二択。

楽しすぎて、即毎週録画をぶちかました。
買ってもらったばかりのDSで気に入ったシーンを撮影・録音したり、録画を何度も何度も観たり、その熱の入りっぷりたるや尋常ではなかった。

この時点で連続ドラマはまだ2話。フルスロットル・スタートすぎる。
そんな『SPEC』との出逢いだった。 


回顧|女児、狂う

これは19歳になってようやく気づいたことなのだが、私の母親は相当なオタク気質を兼ね備えていた。そしてその血は私にも濃く濃く受け継がれていたらしい。

これはまだその狂気の遺伝に気付いていなかった頃、モラルをまだ知らない9歳女児が本当にやらかしてしまったことだ。

『SPEC』を観ていない人にまず前提として知っておいてほしいのが、戸田恵梨香演じる主人公の当麻は刑事らしからぬ相当な奇人だということだ。

急に奇声を発する。
事あるごとに変顔をする。
舌打ちもゲップもする。
デスクに靴下を干している。
餃子にウスターソースをつける。
くらいならまだいいが、それを10人前平らげる。
コーヒーに蜂蜜をいれる。
くらいならまだいいが、蜂蜜をボトルから直飲みする。
ドラマとして作る架空の人間だとしても顔が戸田恵梨香じゃなかったらTBSの放送コードに引っかかるのではないかと思う。テレ東25時台でギリギリ。

ただ、異常に頭が良い。
列挙した数々のキモ要素をこれ一発で相殺できるくらいに頭が良い。

すると我々の目には彼女がどう映るか。
かっこいいのだ。

どんなにキモくても変人でもそれらが全て「ギャップ」となり、プラスに作用する。
多くの視聴者が彼女のキャラクターに惹かれ、笑い、コメディドラマとして楽しみながらも、事件の推理パートで発揮されるそのハイスペックさをミステリとして味わうことができる。

さて、そんな質の高いコメディとミステリの融合した作品を9歳女児が見たら。察しの良い方は何となく想像がつくかもしれない。

憧れてしまったのである。

あーあ。
ここから私の狂気の当麻リスペクトは動き出した。

餃子にソースとかコーヒーに蜂蜜とかエピソードを挙げるとキリがないので、客観的に一番「こいつやったな」と思うものを紹介する。

【追いかけられ脛蹴られ事件】

ちょっとオタクみのある小学4年生として一応平穏に過ごしていた私は当時ちょっと読書に凝っていたので、人気のシリーズ物でなくとも少しでも面白そうだと思った本にはすぐに手を出していた。
その日借りたのは『寿司屋の小太郎』という小説だった。微かな記憶を頼りに「寿司屋 児童小説」とGoogleで検索したらちゃんと出た。

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貸し出し処理をしてくれる図書委員は、やんちゃ感溢れる同級生の男の子だった。先に言っておくが、彼のような性格と当麻の相性は最悪だ。

そんな彼に私は「お前こんなの借りるのかよ(笑)」と言われたのだ。
彼にも悪気はなかったのだろうけれど、(笑)と書かずにはいられない綺麗な嘲笑だったと記憶している。
きっと彼は「いいじゃん別に!」だの何だの言われると思っていたはず。しかしその時の私には当麻リスペクトのスイッチが入っていた。

何すか。この本借りちゃいけませんか。
犯罪ですか?何罪ですか?
そんなのカラスの勝手でしょ!

あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ。
思い出すのも恥ずかしいが、これは当麻のドラマ内の台詞をアレンジして私の口から実際に出た台詞である。
「『SPEC』は今一番面白いドラマだから地球上の全員が観ているし、当麻さんも面白くて可愛いし、台詞覚えてる私すごぉい、高まる〜」という意図があったんだと思う。
こんな9歳女児、嫌すぎる。
案の定、『SPEC』なんて観ていなかった彼をブチギレさせてしまった。図書室のカウンター越しに叩かれるくらいした気がする。

それでもなお彼の怒りは収まらなかったらしい。
下校中、くだんの『寿司屋の小太郎』を読みながら歩いていた私を彼が猛ダッシュで追いかけてきたのだ!
(お前帰る方向こっちじゃなかっただろ!?)と思いながら必死に逃げるが即追いつかれ、血気盛んな少年は一発入魂の渾身の蹴りを私の脛に見舞った。
いくら当麻をリスペクトしていても9歳は9歳なので、何が彼をそんなに怒らせたのかもあまりよく分かっていなかったんだろう。怖すぎて痛すぎて号泣しながら家に帰った。

「蹴ってきた彼ももちろん良くないね。でもね、当麻さんはドラマの中の人で、あのセリフも"あえて"人を怒らせるように書かれてるんだよ。これからは言わないようにしようね」

一緒にドラマを観ていた母からの、今思えば当然すぎる諭しだった。泣きすぎて喋れなくてお絵かきボードで筆談していた私はその言葉に「うん」の二文字で応えた。

これが第一次狂わされ期だった。


回顧|女児、芽吹く

何が芽吹くかといえば性癖がである。
冒頭から「坊主でスーツの人」と言っていたのは瀬文役の加瀬亮のことだが、当初9歳女児の認識は薄かった。

それがどうだ。
魅力に溢れまくっているではないか。

正義感が強く信念を曲げない瀬文は、当麻と対照的に無表情。
非現実的な現象は頑なに信じず真っ直ぐに事件と向き合う肉体派という役どころを、塩顔俳優の代表格でもある加瀬亮が演じている。
彼の無駄のない精悍な体躯と顔つきは瀬文を形作る上で外せない要素だ。

そんな彼を見て私に「苦労人萌え」という性癖が芽吹いた。(注・『萌え』は今や死語だが当時は全盛だった)

そもそもこのドラマは当麻と瀬文の属する部署に特殊能力絡みの事件が持ち込まれるのが大筋なのだが、無茶苦茶な言動ばかりの当麻や彼らを取り巻く能力者、警察の体制、日本の裏側、様々なものに振り回される瀬文が愛おしすぎる。

特に5話と8話が瀬文回だった。
ここで語彙を総動員して「このシーンの瀬文のここが堪らなくて見ていて苦しくて、それでも自我を抑えている切ない瀬文が大〜〜〜〜〜〜好き!」と語り散らしてもいいのだけれど、せっかくならドラマの本筋も楽しんでほしいので控える。
なお5話と8話の再放送は6月17日と23日の23:56〜だそうなので、この記事を見た人には狂った女児を思い出していただきたい。

わずか9歳にしてそんな性癖を芽吹かされた私はこの3年後、中学1年生にして、瀬文という役を超越して加瀬亮にどっぷりハマり貢ぐオタクになるのだがその頃はそんなことを知る由もなかった。
(この話もいずれnoteに書くと思う。)


女児の成長とシリーズの終幕

『SPEC』シリーズはヒットメーカー・堤幸彦監督と植田博樹プロデューサーの携わった作品ということもあり、じわじわと人気を獲得していった。

連続ドラマが好評を博し、スペシャルドラマが二作、映画は三作にのぼる。

2010年に始まったシリーズは3年の歳月をかけて完結した。

純粋な9歳女児だった私はシリーズ完結時には12歳女子となり、苦労人萌えという性癖を植え付けられてその後もすくすくと育った。

私が初めて「公務執行妨害」という言葉を覚えた作品であり、初めて母同伴のもと初対面のSPECファンが集うオフ会に参加した作品であった。
思えば『SPEC』を通じて色々なことを覚えたし、色々な人と出会ったし、とにかく色々な経験をした。

あれから10年が経ったとはにわかに信じがたい。

でも確かに今私は19歳で、あと半年もすれば酒を飲めるようになる。当麻なんて自分よりずっとずっと大人だと思っていたのに、あと4年で追いついてしまう。

性癖も、2010年に1つ目が芽生えてから着々とその数を増やし、今では拗れた性癖にまみれた女に成り果てた。その根源は瀬文といえるだろう。重罪だ。


現在私は大学のオンライン授業のかたわらアルバイトをし、noteに手を出し、漫然と日々を生きている。
大学生になった今改めて『SPEC』を見たら全く違う見え方をするに違いないので、6月11日から始まる『SPEC』の一挙放送だけが楽しみで仕方ない。
楽しみすぎてDVD-BOXで個人的にフライング上映会を始めそうなので自制しているところだ。


今後私がどんな作品に出会ったとしても、"初めて好きになったドラマ"は一生変わることはない。
それは私に限った話ではなく全ての人間にとってそうだ。

しかしその事実は更新されずとも、「見え方」は常にアップデートされていくものだ。

この長い長い文章をここまで読んでくれた方には感謝しかないけれど、これはあくまで、見え方のアップデートがなされる前に"初めて『SPEC』を見た頃の感想"を書き留めておくための、私自身の備忘録と思いながら書いている。

再放送ラッシュの今もし貴方にとって思い出深い作品がリバイバルされることになるなら、こうやって書き留めておくことをお勧めしたい。





あと、『SPEC』も観てほしい。


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