マガジンのカバー画像

タツノコからゴンゾ1979~2019

34
1979年、19歳でタツノコプロダクションのアニメ技術研究所でキャリアをスタートし、フリー、マッドハウスでの6年間と20年のゴンゾ時代のエピソードの数々をイラストを添えて。
運営しているクリエイター

2020年4月の記事一覧

『青い空と真っ白い雲』

『ブレイブストーリー』の公開が終わってしばらくしてDVDのオーサリング作業に立ち会うことになりました。映画『ブレイブストーリー』は空の青と雲の真っ白な色にとてもこだわった作品でしたので、オーサリングでは細心の注意を払って映画館で見た色彩を再現しようと努めました。フルデジタル化されたアニメ制作では、キャラや背景の色彩チェックはモニターを通して行います。事前に美術スタジオのモニターや色彩デザイナーさんの使用するモニター、スタジオの最終チェック用モニターの色味を色温度やRGB値を計

『手のひらの上で踊る』

「全ての責任は監督が取るものだ」同世代の監督から、とても大切なことを教えられました。信頼するスタッフの仕事に対して結果の善し悪しに関わらず全て監督である自分が責任をとる。それ以降はそういう思いで作品に向き合うことにしました。責任を取るためには自分の耳や目といった感覚を磨くことが大切です。色々なセクションの仕事が解らなければ、いざというときに納得して責任を取ることはできません。そう感じてシナリオや音響にも仕事を広げていきましたが、その後も数多くの失敗とアクシデントを経験すること

『信頼するということ』

監督という仕事は『スタッフを信じて任せる』という部分がとても多い仕事です。エンドテロップを見ればどれだけ大勢のスタッフの協力でフィルムが出来上がっているのかが解ると思います。 それはテレビシリーズも劇場作品でも変わりはありません。それだけ大勢の人が関わっていますから、スタッフ間のコミュニケーションと信頼関係がとても重要で、それがフィルムの質を左右することになります。ですから、数多の監督さんはどうか解りませんが、ボクはスタッフの人柄と技術を信じて仕事を任せるようにしています。

『肥田文さん』

LAST EXILEで初めてご一緒して以降、ほとんどの作品で編集をお願いしているのが肥田文さん。誰からも好かれるとても信頼できる方で、その素敵な外見とは裏腹に性格はとても男前で超イケメンな女性です。 アニメミライ『RYO』の編集が始まる直前、肥田さんに言われました。 「今回の編集は、テレビで行きますか? それとも映画ですか?「・・・」あまりのかっこ良さにしばらく見とれてしまいました「え、映画でお願いします」そう答えるのが精一杯。テレビと映画では視聴者の集中度合いが異なります

『ファーストカット』

今回は編集の話をします。 『ファーストカット』という言葉を聞いたことがありますか? ハリウッドでは編集の発言力がとても強くて、撮影の終わった全てのカットは最初に編集者が単独でラフ編集をします。そこにはキャストに対する遠慮やプロデューサーの政治、監督の思い込みすら入る余地はありません。目の前のフィルムに対して編集者のプライドだけが注がれます。それが『ファーストカット』です。 ボクが今まで関わってきた大勢の編集さんにも様々なタイプの方がいました。中堅の演出の希望など聞く耳を持

『台風とスケッチブック』

もう10年近く前の秋のこと、何年かに一度という大きな台風が関東地方を直撃したことがありました。 強い風と大雨がノルキア(あきる野市)の我が家を襲い、スレート葺きの屋根に大穴が空いて、そこから漏った雨水が屋根裏部屋と二階をびしょ濡れにしました。そのため屋根裏においてあった資料や本、昔書いたコンテのコピーなど、大切に保管していた沢山のモノが被害に遭いました。 台風が去ったある日のこと、後型付けをしていて一冊の古びたスケッチブックを見つけました。汚れてはいましたが幸い雨には濡れず

『脚本家 神山修一さんの話』

尊敬する脚本家に神山修一さんがいます。                                                                                                              『青の六号』の小説を書かれた縁でラスエグに参加してくれることになった神山さんは温厚な人柄からは想像できないくらい骨太な男を描くのが上手な方で、ラスエグでは郷田ほずみさん演じるヴィンセント・アルツァイを人間味がありながら軍人

『逆三角形な友人』

大ヒットしたアニメ『FREE』の主人公たちのように「オレは逆三角形のかっこいい水泳マンだった」と 過去形で照れながら話してくれた友人の話をします。                                                                                                   名前はうえだひとし。                                                        ラス

『ゆかなさんとタイトルコール』

 この方には本当に頭が上がりません。                                                                                                   前田真宏監督の『青の六号』のヒロイン紀之真弓役としてお目に掛かったのが最初でした。 『青の六号』のダビングの時のこと、浜町にあるスタジオでゆかなさんは朝までずっとダビングにつきあってくれました。役者さんがダビングに立ち会うことはまれですのでとても

『初めてのコンテ』

始めて絵コンテを書いたのは『ミラクルジャイアンツ童夢くん』というテレビシリーズでした。                                                                                                                            読売ジャイアンツの本拠地、後楽園球場が取り壊され新しく東京ドームが完成した年に放送された野球アニメです。主人公は魔球を操る小学生の童夢くん。彼の投

『宮本貞雄さん』

ボクがタツノコプロダクション時代にお世話になったアニメーターの宮本貞雄さんのお話をしたいと思います。 宮本さんがアメリカに渡ったのは1991年、五十四歳の時でした。虫プロ、サンリオ、タツノコ、東映と素晴らしい実績と作品を残した宮本さんの夢はディズニーで働くことだったと以前デジタルハリウッド大学での講演でお話をしてくださいました。アメリカに渡って二年間の紆余曲折を経た後、ようやく夢が叶ってディズニー・コンシュマー・プロダクトに入社した宮本さんは『ライオンキング』『ポカホンタス

『野球アニメがつくりたい』

ことあるごとに野球アニメをやりたいと言っているボクですが、どうしてそこまでこだわるのかというお話です。アニメの仕事と野球の共通点をあげるなら、野球もアニメも『団体競技』であること。 アニメと言っても一人で全て作ってしまう『みんなの歌』などのアニメーションやプライベートアニメなど少人数で造り上げるものも沢山ありますが、劇場やテレビシリーズなどボクたちが作るいわゆる商業アニメーションというのは本当に大勢の人が関わって力を結集して造り上げるモノです。そこが野球やサッカー、駅伝などの

『ライバル池P』

みなさんは池田東陽くんをご存じですか? 『セーラームーン』などで有名な佐藤順一監督と組んで『カレイドスター』という素晴らしい作品を作り上げ、僅か三十八歳という若さで逝ってしまったアニメーション・プロデューサーです。繊細だけど豪快、我が儘で涙もろくて大酒飲み、誰からも好かれる好人物です。 一回り以上年齢差のある池田くんと組んだ最初で最後の作品が『ゲートキーパーズ』でした。彼はアシスタント・プロデューサー。ボクは初めてのテレビシリーズの監督という関係です。繊細で心配性のシリー