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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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#秋

窓の金木犀 // 221008四行小説

 金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。
 世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の

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クジラの骨 //221006 四行小説

「クジラの骨が浮いている」
 隣の君が指さした先には、夕暮れの光を受けた雲が暮れつつある空に浮いていた。赤みがかったオレンジと白が斑になった筋雲は確かにクジラの骨のようで、右から左へと空を大きく占めている。
 骨の後ろには淡く光る円があり、何の光かと目を凝らせば雲の裏でしめやかに輝く月らしい。
「なら、あれは?」
 聞けば、そんなことも分からないのか? とでも言うように目を開き、呆れたように笑いな

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秋に含まれる夏の成分割合は //210924四行小説

 腕に触れる風がヒヤリとしている。そんな日が何日か続いて、すっかり秋だなと肺を澄んだ空気で満たす。
 しかしながら日差しは肌を焼き、歩けば汗が首筋を伝った。
 夏と地続きの秋を感じつつ、眩しい朝を往く。

煮たくなる時期 //210920四行小説

 涼しい日が続いて、夜には秋の虫が聴こえる季節になった。季節の食物━━例えば南瓜や茄子などを手にとって、気の向くままに料理を作れば自然と鍋に水を張っていた。
 豚汁を作ろう、温かいものを舌が欲しているようだから。
 出来上がった鍋から白い湯気が立ち、塗りのお椀を用意する。仕事のない休みの日なので、自分を甘やかすつもりで豚肉を多めに入れるのだった。