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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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2021年11月の記事一覧

優しくて胡散臭くて愛しくて //211129四行小説

 何を言っても受け入れて肯定してくれるから、隣にいると居心地がいい。けれどあまりに優しいから胡散臭くてこわくなる。その言葉が本心なのか、腹の裡では何を考えているのか分からなくて身構える。それでもやっぱり欲しい言葉をくれるから、目を細めて笑う顔だけを視界に入れて、愛しさのままに腕に抱える。ずぶずぶとぐだぐだと、沈んでいくのは生暖かくて気持ち良い。

不意に救うは君の声 //211128四行小説

 助けてと、どんなに思っていても顔には出さず、強がりのまま誰にも言えずに毎日を過ごしている。澱は沈み深く濃くなり、息はできず足を取られ手を伸ばしても水面には届かないのに、顔だけは笑顔の形を絶やさない。
 通りかかった店先で、不意に耳馴染みのいい声が聞こえて思わず耳を傾けた。語るような声は音に乗り旋律を奏で歌になる。どんなに好きなものでさえ私を癒してはくれなかったのに、その声はどこか優しく胸に沁みた

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時間がないと白ウサギは言う //211127四行小説

 白ウサギは時間がないと言いながら、アリスに気付かず通り過ぎていく。
 時間がない、言い換えれば余裕がない。時間がないと毎日のように言う私達も、可愛らしいアリスのような存在の何かを見落としているのかもしれない。

負け犬の呼吸 //211126四行小説

 呼吸の方法は色々あり、ある人は絵を描くことでありある人は拳を突き上げることであり、その人は文字を紡ぐことだった。
 吐露するように文字を落とし、朗々と流れるような文を書く。書くことにだけは自信があったから、稀に勝負に出ることもあったという。
 本日も完敗。けれど書き続けている限り、生き続けるのだ。

二度寝マフラー //211125四行小説

 二度寝した。あまりにギリギリだったのだが、いつもと同じ電車には乗れたのでよしとする。
 この寒さでは布団から出るのは中々に眠くてつらい。慌てて取ったマフラーは、色が上着と全然合ってなかったけど、クローゼットから出す時間も無かったからそのまま巻いた。今だけは知り合いに会いたくないなーと願いながら、首元の暖かさにほっとする。

あげる //211123四行小説

 好きなものをお裾分けする。これはきっとあの子も好きだろうなと、あげたときに喜ぶ顔を想像しながら袋に詰める。
 自分本意な行動だということは重々承知していた。だから、もしも合わずに喜んでくれなくたって、そのときに責めるのはあの子ではなく自分自身なんだけど、もしも、もしも、自分の想像かそれ以上に喜んでくれたなら、この上なく嬉しいなと切実に思う。

空っぽは空のまま //211122

 やらないことを誇るようにはなるな、とその人は戒めるように言った。
 話題の映画は見ないとか、流行りには乗らないとか、そんなことでプライドを保つな━━と。
 他にこだわりがあるからならばともかく、そうでもないのに触れないのは勿体ない。話題になることや流行りになるものにはそれ相応の理由がある。それが自分に合うにしろ合わないにしろ、味見することに意味がないということはない。
 それだけならまだしも、何

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空に魚 //211121

 空に魚がいないことを誰が証明できるだろうか。

(ほぼ)皆既月食 //211119四行小説

 どれだけ疲れていても、悩みがあったとしても、今日だけはみんな上を向く。空を見上げている間、人は月のことしか考えていないのにどこまでも自由だ。

休む前の日 //211118四行小説

 明日は休むと上司に言った。朝にだけ会う挨拶と雑談をする同僚にまで言う必要は無いのだけれど、一応言っておこうと思う。きっと逆の立場だったら、来ない同僚を心配するような気がしたからだ。向こうはどう思っているか分からないけれど、自分はそれくらいの仲だとは思うから。

足りない月 //211117四行小説

 欠けた月が低い位置で仄白く光を放っている。
欠けて足りないと思うのは、それが円になることを知っているからだ。満月を知らなければ、足りないなどとは思わない。
 完璧で完全なものさえ知らなければ、不完全と認めることは無かったのに。きっと欠けたままの姿を美しく完璧だと思えたのかもしれないのに。

衝動 //211116四行小説

 力任せに引くと、裂くような痛みが走り拍動の速度で熱くなっていく。熱を持った血が、這うように腕を濡らしていった。手にはナイフが握られていて、強く握っているのに冷たいままで余計に熱さが際立つ。
 腕以上に頭は熱されていて、もはや痛いくらいだ。手先が痺れているのは脳が回転しすぎて血が回ってないせいだろう。それでいい。今は手足はどうでもいい。頭を存分に働かせ、脳に刻め。
 これは誓いだ。この気持ちを絶対

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おでん //211115四行小説

 寒くなってきたら食べたくなるものといえば、おでんだろう。あれは一応鍋物のくくりなのだろうが、おでんはおでんとして独立した料理のように思う。
 地域ごとに特色はあるが、本日は自分の好きなものを適当に入れる日にしよう。練り物はひら天とごぼう天、おもちと鶏肉の代わりは安くなっていた餅入りつくねにして、大根は半分全て入れてしまう。牛スジとおでんの元も入れ、最後に卵を剥いて鍋に放り込めば好きなものしか入っ

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楽しくて楽しくなくないマリオカート //211114

 出来ないことというのはもどかしいが、稀にそれでも楽しめる物があって、私にとってはマリオカートでありもう一つ挙げるならスマブラだった。
 大人になったら出来るのではないかと思ったこともあったが、やはり出来ない。ゲームはあまり買ってもらえる家ではなかったからゲームをする能力は全く培われず、センスが皆無だった。
 そもそも幼少期はスタートダッシュのやり方を聞いても教えてもらえず姉にボコボコにされ、頻繁

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