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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑧「不備だらけの借用書」


空港に着き、搭乗待ちの時間で母親に再度電話をする。

改めて、お金を貸してくださいと母にお願いし、私から見た彼はどういう人か、ということを話した。

母は昨夜、彼の母親は彼が裏社会で生活しているような事実を知ったら、どう思うのか、
本当かどうかはわからないが、もし、自分の息子が生きるか死ぬかの精神状態だとしたら、と考えたら動悸がして眠れなかった、と言っていた。

そんな母の話を聞いて、胸が痛んだ。ただただ、巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちだった。

お金を貸すというのは重い決断だった。ましてや消費者金融に借りるなど。

これは一人で決めてはならないと思い、母に相談したが、親心を無視した行動だったかもしれない。

母は、自分のお金と兄が生前、職人の仕事で稼いだお金を合わせて、私に貸すといった。

より、重みが増した。

飛行機に搭乗してから自宅までは、ほぼ寝ていたこともあり、あっという間だった。

帰宅し、彼にも改めて連絡をした。
彼には母から借りたお金を振り込むとまでは伝えていたが、そこに兄の稼ぎも含まれるとは言っていなかった。

「ごめんね。お母さん大丈夫?」

大丈夫なわけがない。
どんな気持ちで言っているのか、メッセージ上では相手の気持ちをいかようにも想像できてしまう。

こちらの思いもきちんと伝わっているのか疑問が残る文章だった。
それとも、この状況で言える言葉はそれしかなかったのか。

彼のメッセージをストレートに受け取ることができなくなっていた。

私は母は彼を心配していたが、フォローは私の方ですると言った。
相変わらず、彼に甘い言葉しか言えない。

嫌われるのが怖かったのだろうかとも、思ったことがあるが、違った。それは後々判明していく。

優しさのつもりで言わないでおこうと思ったが、彼へのフラストレーションも消化しきれていない状態だった。

我慢ができずに、兄の稼ぎも含まれていることを伝えてしまった。

そして、母親は彼の母親よりも年上で、今も毎日働いて稼いだお金であるということも。
理解してほしい一心でとまらなかった。言わなくても良かったことだった。

貸してと言ったのは彼だが、母から借りるということには一応、渋っていた。

そして、母に相談したのも、貸してほしいとお願いしたのも、彼に貸すのも私が選んだことだ。

自分の決断に責任感が伴っていないと思った。

彼を通して、自分の嫌な面に気付かされる。

彼には、今回の貸し借りには私が用意した電子借用書にサインをしてもらい、返済計画について入念に話し合った。

意外とと言っては失礼だが、きちんと話し合い(といってもメッセージ)に応じてくれていた。
彼との約束は以下の通りだ。

・まず、東京にもどってきたら私に連絡をいれること
・返済は毎月末(3万)
 →仕事が安定したら5-6万にする(彼提案)
・利息はなし(私提案)

借用書の甲乙欄に住所の記載が必須となるが、彼は住所がないという。
私の住所を乙欄にも記載した。

この、形だけで不完全とも思える電子借用書が、後々大活躍することになる。


彼は不安を吐露した。
半年間、表向きでは無職だったのだ。再就職ができるか不安であると言っていた。


その点については、私には自信があった。


私はしっかりサポートするので、
任せてくださいと伝えた。




私が過去付き合っていた彼氏は表向きは好青年だが、私に対しては蹴る、髪を引っ張る、飲酒の強要。

また、元彼は酒癖・女癖がかなり悪く、10股からのスタートだったなど、散々だった。

元彼の迷言は今でも忘れない。
「みこ、お前は天下一武道会で優勝したんだ」
行動は最低だが、言葉のセンスは最高である。

そして、付き合っている最中に、いきなりホストになると言い出した。平日の真夜中に電話で宣言してきた。

私は止めたが、もう体入に行ってきたと上機嫌で事後報告を受けた。

こちらの反応が彼にとっては面白くなかったのか、
「お前にはわからない。この1,000円の重みが!お前に話すんじゃなかった」と怒っていた。

なら、困ればいいと思った。
当時私は保育士の仕事が忙しく、浮かれ気分の元彼を放置した。

後々、彼は痛い目を見るだろうなと確信していた。

そしてその予感は的中した。お客に売掛金を飛ばれてしまい、彼の貯金額がほとんどなくなったのである。

ただでさえ、家賃滞納者であった。

電気・水道・ガスも止められることもしばしばあった。

そして案の定、情緒が荒れ始め、喧嘩や一方的に怒鳴られるなんてこともあったが、めげずに向き合ってきた。

諸々支払いの手続きや、役所に行ったりと行動するのは彼の役割だと線引きをしっかりしていた。

その分、情報提供や心に寄り添うことは続けた。


元彼は、仕事が好きな人だった。
ホストではなく、今、自分ができる仕事を雇用形態にとらわれず、がむしゃらに挑戦していた。

家賃滞納分などもしっかり払い、役所にもきちんと相談しに行ったと報告も受ける。

そして、元彼は自分の得意分野をよく理解しており、後にその分野で正社員になり、再起したのだ。
その後、お別れに至るのだが、お互いありがとうございましたと言える別れ方だった。

私はその出来事を自分の恋愛での
成功体験としてしまっていた。




なので、同様に彼の心に寄り添い、必要な情報を提供し、彼が実行をする。



実績があるのだ。必ずうまくいく。そんな浅はかな考えだった。

彼の口座にお金を振り込む。

彼のメッセージは私への謝罪が続く。

私は彼の謝罪に段々嫌気がさしていたが、どうせなら「ありがとう」と言ってほしいと明るく振舞った。

彼の謝罪は素直に受け取ることができなくなっていた。そんな簡単に許せることではないのだ。

彼は私がいるから頑張るという。
まんざらでもない嬉しさがあり、本当に単純な自分である。

そして12月末頃、「年明けに帰れそう」だと彼から連絡がきた。

これまでの記事には書いていなかったが、彼は私の家に一度帰ってくるという認識だった。
住む家も、勿論お金もないからだ。

「タンス空けておこうか?」
という私からの質問に対して、
「そんなに荷物ないよ」と彼は言っていた。

そして年明け、お互いに新年の挨拶を送り合った。

その流れで、こちらに帰る具体的な目途を聞いたが、
「まだー」と返ってきた。

そして、なぜか、前澤社長のお年玉じゃんけんの宣伝が送られてくる。

また嫌な予感がよぎる。

自分の考えすぎと思い込み、とりあえずやってみた。

3回戦くらいで負けた。


⑨に続きます。

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