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メインボーカルは誰?〜歌割り分析手法の提案〜

はじめに

 基本的にアイドルグループには複数のボーカルメンバーが存在し、それらのメンバーで歌い繋いで楽曲を構成するという方式がとられる。例えば日本の代表的なアイドルである嵐やAKB48は、AメロやBメロを1人または数人ずつで歌い繋いでいき、サビをほぼ全員で歌唱する。

 日本ではこの「数人ずつ→サビ全員」という傾向が未だに強いが、韓国のアイドルは2010年代半ばから、サビを含む楽曲全体を1人ずつで歌い繋いでいくという方式が主流になってきた。
 この理由としては、韓国はメンバー数一桁の少人数グループが多く、サビを全員で歌わなくてもそれぞれのメンバーにまとまった量のパートを割り振れることや、全体としての完成度を追求すると同時に、一人ひとりの「見せ場」も重視することなどが挙げられる。

メインボーカルという概念

 こうしてKPOPアイドルに「完全一人ずつ方式」が導入されることによって、「メインボーカル」「サブボーカル」などの概念が登場した。メインボーカルはサビや歌唱力の必要なパートを担当しボーカルでグループをリードするメンバー、サブボーカルはメインボーカルほど多くのパートは担当せず、合いの手やキリングパートを担当することが多いメンバーとされている。

 例えば9人組ガールズグループ・TWICEでは基本的にナヨンやジヒョがメインボーカル、それ以外のメンバーがサブボーカルという共通認識になっている(ここでのサブボーカルはラッパーを含む)。他のグループにもそれぞれ共通認識として、メインボーカルやサブボーカルとして数人ずつのメンバーが位置づけられている。

 しかし、そのように役割を固定してしまってよいのだろうか。例えばTWICEの『SIGNAL』という曲では、メインボーカルであるはずのナヨンやジヒョはサビを担当せずパートも少ない。その代わりサブボーカルであるはずのツウィやサナがサビを担当している。「例外もある」と言ってしまえばそれまでなのだが、一般的な認識に反したこのようなパート割りの曲も一定数存在するのは確かだ。

 そこで私は「誰がメインボーカル的な役割を果たしているのか、曲ごとに"数値で"可視化することができれば面白いのではないか」と考えた。

 まず一般的に何を基準にして「メインボーカル」が決まるのかを考察し、次にそれらの基準の中から数値化して分析できそうなものを選別していった。その結果、①パートの長さ、②サビパートの長さ、③一回のパートの平均長さ、④最高音と最低音の差(半音数) の4つのパラメータにより分析するのが最適という結論に至った。


MV度分析の提案

 以上から私が提案する「MV度(メインボーカル度)分析」の概要は次の通りである。これらは全て曲ごと、メンバーごとに行う作業である。

ELL値の算出

 まず、パートの長さ(秒数)の合計を計測し、メンバー内での偏差値を求める。これをELL値(entire length of lines)とする。この値を求めることで、そのメンバーにどれくらいパートが分配されているかが判断できる。

※複数人で歌唱しているパートはメンバーの判別が難しいため、秒数に含めない。
※歌詞表記のない合いの手やアドリブパートは秒数のカウントが難しいため考慮しない。


ELC値の算出

 次に、サビパートの長さ(秒数)の合計を計測し、メンバー内での偏差値を求める。これをELC値(entire length of chorus lines)とする。この値を求めることで、そのメンバーがどれくらいサビを担当しているかがわかる。

※サビを担当していないメンバーは0とする。
※短い合いの手でも、サビ中であり歌詞として表記されていれば、サビパートとしてカウントする。

ALL値の算出

 次に、ELL値を求める際に出した全パートの秒数の合計をパート数で割ることで1回のパートの平均長さを求め、同様にメンバー内での偏差値を出す。これをALL値(average of length of lines)とする。この値を求めることで、サブボーカル的にワンフレーズを担当する傾向があるのか、それともメインボーカル的にまとまった量のパートを担当する傾向があるのか判断することができる。

R値の算出

 最後に、曲中の最高音と最低音を記録し、それらの音の差(半音数)を計測し、同様にメンバー内での偏差値を求める。これをR値(range)とする。この値を求めることで、曲中の音域がどれくらい広いかを判断することができる。高音のアドリブなどを担当するメンバーほどこの値が大きくなる。

※地声か裏声かの判断は困難になる場合があるので、区別しない。
※ラップパートのみを担当するメンバーは0とする。
※歌詞に表記されていないアドリブも考慮に入れる。

MV度の算出

 求めた4つの偏差値(ELL値、ELC値、ALL値、R値)の平均値を求める。これをMV度(メインボーカル度)とする。この値が高いメンバーほど、その曲においてメインボーカル的な役割を担っていることになる。このようにして、メインボーカルの度合いを数値で可視化することができるというのが私の提案である。

 一例としてNiziUの楽曲『Take a picture』を対象としてMV度分析を行った結果を示す。なおパート秒数は、客観性を確保するためYoutubeに上がっている歌割り動画の上位3つの数値の平均をとって使用した。

表1 『Take a picture』MV度分析結果

 表1からわかるように、『Take a picture』において最もメインボーカル的役割を果たしているのは、リクであるという結果になった。2位にミイヒ、3位にマコ、4位にニナと続いている。一般的にNiziUでメインボーカルとされている4人が上位を占め、我々の直感と一致する結果となっている。
 サビを担当するマヤのELC値が高いことや、高低差のあるブリッジを担当するミイヒのR値が大きくなっていることも読み取れる。


おわりに

 私が提案するMV度分析、どうだったでしょうか。曲ごとのメインボーカルが数値でわかるだけでなく、それぞれのメンバーの意外な強みや弱みを分析できる興味深い分析方法となっているのではないかと感じています。
 しかしながら、この方法は完璧ではなく、必ず改善の余地があるはずです。今回はそれぞれのデータについて偏差値を出すという方法を採用しましたが、統計学的にもっと良い分析手法があるかもしれません。パラメータも、この4つ以外に考慮すべきものがあるかもしれません。多くの方の意見を取り入れて改善していきたいので、何かあれば遠慮なく私までお願いします。

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