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彼は何?誰?、、、知らないよ

中国。注ぐ黄河のほとり、山村。二人。人間が空を見上げている「ね?ね?なんで?そこにはあれがいるでしょ?あなたには見えないの?」瑠璃の目をした。貧しいフランスの子は言った。「そうだね、あれがいるじゃないか。しかし、ほんとにいるとはね。驚いちまったよ。」中国の山村に住む貧しい子もいった。 「一緒にスケッチしない?」フランスの子は言った。「おお、いいとも」  二人は一緒にスケッチした、書き終えて、スケッチをみせあうと、どちらの絵にも、立派な絵が書かれていた。二人はにっこり笑った。そして二人で、写真を撮った。また、明日も一緒に絵を描こうと約束した。夜、フランス人の町。帰ってきたフランスの子は、お母さんに言った、「今日、山の村でね、シナの人と一緒にスケッチをしたんだ、写真も撮ったんだよ。」「よかったね、スケッチを見せて、」「いいよ」「へえ、上手じゃないかい?」「でしょ、あの子に教えてもらったんだ」「そっか」「うん、次に写真を見せておくれよ」「わかった」母が見れば、写真には何も写っていなかった、ただ空が広がっているだけだった。「何も写ってないがね」「え?」「ほら」「、、、でもね、彼も私もちゃんとみたんだよ。ほら、ここに」「でも、何も写ってないね」「え、、、なんで?」「さあね、私は知らないね。」              

「彼は誰?」「さあね」    

「私はなんで?」「さあ」

「知らないの?」「そうとも言える」

「あきれた、いつもそう」「そうかい」 

去る娘の背を見ながら母は思った。                          不思議だねえ、絵本なんぞ読ませたことはなかったがねえ、そんなもん買うかねないからねえ。ふふ。ま、いつものこと、かな。                      母は外に出た 目の前には,ついぞ、マチカネワニでもとびでてきそうな 広い広い黄河が注いでいる。 いいですよ、黄河は。ねえ。  と黄河に向かい話しかけた。                           ええ、母さんそうでしょ、あんたは素敵です。今日は、ありがとね。あいつにはそれが必要さ。母は、娘の描いた絵をとりだして、まじまじと見た、立派な、、、ええと、西洋の、、、ああ。ドラゴンだ。娘ともう一人は、何もない空に何を見たんだろう?  さあね、知ったことじゃないか、シナ人の彼も同じようなものを書いたなら、それは龍だったんだろう。いや、もしかしたら、娘と同じようにドラゴンかな?どっちかの違いは重要だ、だよね、ユングさん。    まあいいや、ようやく娘をわかってくれる人がいたみたいだ。もしかしたら、同類かな  うれしいもんだねえ、わかる人がいるっていうのが、どれだけ頼りになるか。うまくいってよ、母さん。   娘を養子にとって2年。あれが何を感じてるのかは知らんけど、わからんわけじゃないよ。ええ、特にあんたを見てるとね。  心なしか、北京から、故郷に戻ってきて最近は、あいつのヒステリーも減ったような気がする。         ほんと。あんたはすごいよ。                     母は川を見、ちょっとお辞儀をした、むろん、黄河はそんなことなどには微塵も興味を示さずに、ゆうゆう、ただ流れていく。母は、黄河の、そっけない、そんなところも大好きだった。                               おやおや、もう夜になるよ。森のねぐらへ帰る鳥の群れが静かな流れの上をすいすいと滑って、それを沈みかけのおてんとさんが照らしてら。         夕のなか、黄河に面した家に、ほつりと、一人の老婆の姿が消えた。                      まだ、黄河が、人間の物じゃあなかった、あの頃の話。 

          

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あとがき                                          黄河 は神秘です。いや、そうでした。黄河は中国の神話とか、伝説の生まれるところです。河伯。大洪水伝説。そして龍など、、、たくさんあります。中でも、龍は面白い存在です、中国の黄河だけではなく、同様の、うろこに覆われた、巨大な生物というのは、世界各地で創造されています。例えば、ヨーロッパのドラゴンや、インドのナーガなどです。なぜ、こんな風に、全く違う風土の世界各地で、同じような架空の生物が想像されるのか。心理学者のユングは言います、人間には共通の、思考のかたのようなものがあり、それの働きによって、人々は、似たようなものを想像する。と。龍とか、ドラゴンとか、ナーガとかは、いずれも、自然への畏れ、(心理学では、大母といいます。)が生み出した産物なのだそうです。今回書いたのは、まだ、神秘としての自然が残されていた、近世中国の話、とりわけ、まだ工業化が進まず。かつて、多くの伝説を生んだのと同じように、美しく流れていた大河、黄河。そして、心に傷を負っていて、潜在的な知覚に近い感じ方をしてしまう、子供の話です。幻覚は、その人の潜在的な感覚、普段見えない感覚をよく表します。その感覚は古代、黄河に夢想して、龍を想像した故人とおなじでしょう。黄河―文明の発祥地。には、人間の何かをくすぐる力があるのかもしれませんね。                                黄河は神秘です。地球は神秘です。                                     

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