見出し画像

取引先1社の依存体質からの脱却!攻めプロ?PPP?イケおじカフェ?若手が挑むゼロからのプラ工場イノベーション

今日は岐阜県岐阜市にあるプラスチック射出成型の片桐合成株式会社の浅野さんにお話を伺いました。優しそうな浅野さん、お父様が経営される片桐合成さんに入社される前は、広告代理店で営業のお仕事をされていたそうです。気になるキーワードが次から次へと飛び出すインタビューになりました!

片桐合成株式会社の浅野達紀さんにお話を伺いました。

創業56年老舗の町工場の現状打開策”攻めプロ”

こつ子:浅野さん、こんにちは。今日はよろしくお願いいたします!まずは片桐合成さんのことを教えてください。

浅野さん:プラスチック射出成形で、自動車部品の製造・組立を行っています。従業員数は42名で、うち26名がパートさんです。
プラスチック製造の流れの中でも、「成形」「組立」の部分にのみ業務を特化しているので、取引先の要望に柔軟に答える対応力と、高品質を担保できる体制が整っており、業績や仕事量が安定しています。それもあってか、優しく控えめな従業員が多く、穏やかな社風だと思います。

こつ子:業績や仕事量が安定しているのは何よりですね。

浅野さん:いえいえ、当然課題はあります。実は当社のお取引先はほぼ1社のみ、昨今の業界を取り巻く環境の変化が激しい中で、強い危機感があります。このままではいけない、今動かなければいけない、まさに転換期だと感じています。

浅野さん:当社は取引先から支給いただいた金型でプラスチックを成形するという業務ですので、これまで社内に設計や営業という職種がありませんでした。
社内のメンバーは、日々の製造を高いクオリティで淡々とこなしていく真面目さがあり、それは当社の財産ですが、一方でそれは、変化点(イレギュラー)を避ける社風、とも言えます。長く品質第一でやってきたので、当然と言えば当然なのですが、何か新しいことをする時、変化することに二の足を踏むようなところがあると思います。

こつ子:安定しているからこそ、今の状況を維持しようと思うのもわかります。

浅野さん:そうですね。でも、この先将来を考えた時に、既存の取引先だけに依存した体質、そして新しい価値が生まれにくい社内環境、そして外部環境の変化、なんとか打開策はないものかと模索していました。

浅野さん:そんな状況に何か打ち手はないかと2022年8月に「攻めていこうぜ!プロジェクト」、通称「攻めプロ」を立ち上げました。今まで培ってきた当社の良さを維持していくことをディフェンスとするならば、慢性的な課題に挑んで、組織を進化させることをオフェンスと定義しました。変革スピード、多角的な視野、発想の頭数といったスケールメリットから、可能な限り多くの人を巻き込んで組織課題に挑んでいきたいと考えました。

浅野さん:実は立ち上げ当時の2022年8月の時点で、翌年の7~9月に仕事量が激減することが決まっていました。当社は取引先が1社なので、その時には他で補う見込みもありませんでした。

こつ子:それはしんどいですね…

浅野さん:僕自身は強い危機感を感じていましたが、社内を見回してみると、無駄を省いて我慢で何とか乗り切ろうとする人、危機感を口にするけれど何も動かない人、そもそも仕事減の情報が伝わっておらず、よくわかっていない人、意識や危機感の差がバラバラの状況でした。そんなメンバーをまとめて鼓舞して、会社全体でファイティングポーズ取ろうとした動きのひとつが「攻めプロ」という企画でした。

浅野さん:まずは課題ごとにプロジェクトを作り、リーダーを任命しました。プロジェクトは全部で6つあります。

”攻めプロ”組織図

  1. 経営理念プロジェクト

  2. DX推進プロジェクト

  3. 社内提案プロジェクト

  4. 3Dプリンタープロジェクト

  5. 新素材プロジェクト

  6. 新規事業開発プロジェクト

そして毎月1回各プロジェクトの進捗報告会を実施しました。また、進捗報告会には3つのルールを設けました。

 ・発表内容は、お互いに否定しないこと(自由な発想を尊重する)
 ・わくわくする話だったら何を持ち寄ってもいいこと
 ・社長も必ず参加すること(業務の一環であることを認める)

最初はみんな、ざわざわしていましたが、このままではいけないという気持ちはやはりあってか、だんだん前向きに取り組みが始まりました。

片桐合成さん会議の様子

経営理念の策定、とことん話し合って気づいた「一番大切なこと」

こつ子:まずは経営理念プロジェクトから教えてください。

浅野さん:実は、昨年まで当社には経営理念がありませんでした。まずは経営力の強化を目的に、会社の根幹となる経営理念の策定と定着までを推進するプロジェクトです。

浅野さん:策定にあたり、これまで何を目的に事業をやってきたのか、自分たちが大切にしていることは何か、そしてこれからの将来どんな存在になっていきたいか、とことん話し合って決めていきました。

片桐合成さんの経営理念
 従業員の幸せを追求する会社を目指します。
 お客様に誠実に向き合う会社を目指します。
 創意と工夫で未来を築く会社を目指します。

浅野さん:何度もひざを突き合わせて考え抜いた結果、率直に“関わる人を幸せにしたい”、これがみんなの一番の気持ちでした。今まで言語化されていなかったけれど、こうした考えが今の社風をつくったのだと腑に落ちました。この経営理念を策定するというプロセス自体も、自分たちにとって非常に意義のあるプロジェクトだったと思います。これから先、いい時も苦難の時も、自分たちの行動や思考の指標となる理念として定着していけたらと思います。

衝撃を受けるほどアナログな町工場が、IT活用でメタモルフォーゼ

こつ子:次はDX推進プロジェクトですね。

浅野さん:僕は片桐合成に入社する前は広告代理店の営業マンだったのですが、当時の自分から見た当社の状況は、衝撃を受けるほどアナログでした。FAX発注や回覧など当然の紙文化、連絡は内線電話…。世の中には便利なITツールが多くあり、活用できたらきっともっと効率的になるだろう、従業員のみんながもっと働きやすい環境になるだろうと取り組みを始めました。

こつ子:うちの工場も今まさにDXの取り組みを進めています!片桐合成さんではどんな取り組みをされていますか?

浅野さん:まずは情報共有のツールとしてGoogleChatを導入しました。これまではみんな自分の仕事にのみ集中していて、部署や上下の垣根を超えたコミュニケーションの機会が少なかったのですが、導入したことで明確に情報共有量の増加に繋がっています。

特に効果的なのが、小さなミスやトラブル発生についての情報共有です。
これまでは、ミスやトラブルが起こると、直接の関係者だけで解決しようという動きがありました。いつの間にか解決しているので、「そんなことあったの?」と後日になって気付くことも。もったいないですよね。
みんなで問題意識を持つために共有しましょう!ということで、気付いた人が即発信するルールにしています。小さなことって、言う方も言われる方も苦しいと思うんです。そういった意味で、Chatは丁度いい距離感で言い合える(そして記録も残る)、良いツールだと思っています。

浅野さん:そのほか、従来は各パートさんが紙に記載していた生産情報の入力をタブレットに変更しました。まだまだ移行期間なのですが、データで管理することで、生産中の気づきや困りごとを日報を書いて終わりではなく、内容を共有し分析する管理方法に進化させようと企てています。
また助成金を活用してカメラツールを導入し、機械の異常察知に役立てています。新しいITツールの導入は、変化が苦手な当社にとっては浸透するまでには労力が必要でしたが、使い始めるとやはり便利で、これからも新しいテクノロジーについては注目していきたいですね。

AIカメラを使ってマシンの状態と対応した表示灯を映し稼働データを集計
AIカメラでの分析データ

みんなで取り組む”カイゼン”、月に一度はお楽しみのPPP

こつ子:次は社内提案プロジェクト!

浅野さん:これは既存の考え方やルールに囚われない、柔軟な発想とアイデアを身に着け、新しい価値を生み出すためのプロジェクトです。
1~3月は、チーム毎に取り組みテーマを決めて、ムダを削減した金額で競い合う取り組みをしていました。(1位チームには社長からご褒美です。)
使い道に困っていた材料の活用や、裏紙の再利用、電気代の削減など、各々で課題設定をして、期間内で30万円程のムダ削減に成功しました。
今の環境に慣れてしまうと、ムダに気付けなくなってしまいます。
当たり前になっていることを疑って見て、改善するという動きが大事だと思います。

浅野さん:それから日々のちょっとした楽しみとして毎月7日は「PPP」を開催しています。

浅野さん:パートさん・プチ・パーティの省略で(笑)いつも活躍してくれているパートさんをねぎらうための月に一度の小さなパーティーです。僕も以前生産ラインで仕事をしていたのですが、ずっと立ちっぱなしで、集中して検査や組立をするのって、本当に大変なんです。そんな毎日の仕事を頑張ってくださるパートさんに、ちょっとした幸せや楽しみを感じてもらえたらとはじまりました。

浅野さん:お菓子の種類にも結構こだわっています(笑)みんなで食べながら、会話も弾みそうなお菓子がいいなぁと、いろいろリサーチしています。


「次は何を作ろう?」新しい技術の習得で、アイデアフルな工場に

こつ子:次は3Dプリンタープロジェクトです!

浅野さん:新技術開発を目的として、3Dプリンターを導入しました。最初は何かに役立てようと具体的なアイデアがあったわけではなく、新しい技術を具体的に楽しく学ぼう、という感じのスタートでした。

こつ子:3Dプリンターでどういうものを作っているのですか?

浅野さん:最初は見よう見まねで、社内で使えるペン立てとか単純な形のものを作っていたのですが、やっぱりものづくりのプロですよね、メンバーの3Dプリンターを取り扱うスキルがぐんぐん向上して(笑)だんだん複雑なものも作れるようになってきました。工場で使うちょっとしたものをさっと作ったり、社内の困りごとを3Dプリンターで解決してみたり。


浅野さん:最近では実際の業務に役立つツールを作れるようになり、パートさんの手間も時間も大幅に削減できるまでになりました。ちなみに35年選手の工場長が一番3Dプリンターにハマっていて(笑)やっぱりものづくりが好きなんだなぁと実感しています。

浅野さん:初めてのCAD操作に悪戦苦闘しながら、プロジェクト内で教えあっている様子を見ると、攻めプロの目的を体現してもらっているなと感じます。

バイオプラスチック、生分解性プラスチック、時代に先回りして研究開発

こつ子:次は新素材プロジェクトです!

浅野さん:昨今石油由来のプラスチックはCo2排出の観点などから風当たりも強くなっており、バイオプラスチック材やリサイクル材の需要も増えています。現在のところ当社にそのようなご要望はないのですが、来るべき時に備え、先回りして新素材の研究を進めようというプロジェクトです。新素材の物性情報など知識の蓄積はもちろんのこと、実際にその素材に触れ、テストで成形を行うことによって、その素材の特徴を感覚的につかむことで新技術の開発に繋げられたらと考えています。

バイオプラ実験の様子

浅野さん:そうですね。近い将来バイオプラスチックや生分解性プラスチックはもっと広く、例えば自動車部品などにも使われるようになっていくと考えています。将来に向けての研究を、今から準備することで、お取引先からご要望いただいた際に、すぐに高い品質で対応したいと思っています。


「縮こまってないで、やってみりゃいいじゃん」まずは始める新規事業!

こつ子:最後は新規事業開発プロジェクトですね

浅野さん:何か新規ビジネスをキックオフすること、そしてその事業の早期マネタイズへ挑戦するプロジェクトです。とにかく自由な発想で、もはや製造業でなくてもいい、1つでも2つでも新しいチャンスを見つけてスモールスタートしていこう、というものです。

こつ子:新規ビジネスのアイデア、お聞きしてもいいですか?

浅野さん:従業員にドローンが得意なメンバーがいるので、何かドローンを使った商売ができないか、とか。あとは需要の増えているプログラミングスクールを開校とか、僕がなんらかの代理店になって営業活動をするとか(笑)とにかくいろんなアイデアがあります。みんなが「面白いね!」と乗ってくれるような新規事業を立ち上げたいと思っています。

ドローンを使った事業のアイデアも

浅野さん:先ほど申し上げたように当社は控えめな人が多いのですが、「そんな縮こまってないで、やってみりゃいいじゃん」という感じでスタートしています。徐々に社内からアイデアが出始めていて、確かに今までやったことはないのだけれど、チャレンジしてみよう!という前向きな雰囲気を醸成できているかなと思います。


目指すは「ハイタッチが起こる文化」!

浅野さん:攻めプロの取り組みが初めてまもなく1年です。社内は、少しずつだけれど着実に変化が見え始めています。決まった仕事を淡々とこなしていた毎日から、新規事業の種探しなど能動的な動きも増えて、新しいお客様から具体的なお話もいくつかいただくことができています。仕事の穴を埋めるほどではないですが、今できることから少しずつ動いているといったところです。

僕は攻めプロを通して、社内でハイタッチが起こる文化が作りたいと考えています。営業の仕事をしていた頃、そんな文化があったんですよね。営業は受注か失注か、うまくいくかいかないかのゼロイチ。だからこそうまくいったときには「やってやった!」という感じで、みんなで喜びをかみしめていました。今の僕らは品質第一、いつも通り100点が当たり前、それは素晴らしいことなのですが、みんなで頭をひねって考えて、動きまくって、ドキドキして…その結果なんとか100点を取って、みんなでハイタッチして喜べるような仕事が生み出せたら、もっとワクワクする毎日が送れるんじゃないかなと思っています。

そうそう、かっこいいと言えば!片桐合成さんのwebサイトを見たのですが、皆さんイケメンですよね。

浅野さん:そうならうれしいですね(照)新規事業開発プロジェクトの中で「イケおじカフェ」をやろう、なんて斬新なアイデアもありました。

浅野さん:まだ形にはなっていないですが、会社に来てくれたらイケおじたちでおもてなしします(笑)

2030となりのプラ工場Slackへの参加方法はこちら!日刊工業新聞のプラスチックやDXに関わるニュースが毎日読めます!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?