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不幸売りの男


ある日あなたは、住んでいる街を歩いていると一人の男に声をかけられた。
「つらい経験も売れたらいいのにって思ったことはないか」
反応に困っているあなたに男はこう続ける。
「俺はある、今それを誰か買ってくれないか声かけてるところなんだ」

不審な男の言う不審な売り文句にあなたはなぜか興味を惹かれてしまった。
それは丁度「現実のあなた」が今この文章を読んでいる理由と同じだ。
「こちらのあなた」は、ちなみに幾らで売ってるのか聞いてみた。

すると男は口元に笑みを浮かべ、
「朝からずっと声をかけてるが反応してくれたのはあんたが初めてだ」
と言った。
嬉しそうな男は右手で二本、左手で五本の指を立てこう言った。
「250円。250円で俺は俺の不幸話を売っている」

250円か。
安いのか高いのかわからない金額だ。
ただあなたはこう思う。
人の不幸話を聞かされた挙句に金までとられるのか。

その気持ちを察したのか男は話し出す。
「あんたの言いたいことは分かる。愚痴みたいなのを聞かされた挙句金までとられるなんて御免だ、そうだろう?」
その通りだ。
「ただ、実は世の中には不幸を売ってる奴なんてたくさんいるんだよ」
「例えば芸能人が過去の失敗談をテレビで話して金をもらうことがあるだろう。ほら、過去のしくじりを反面教師として喋るやつ見たことあるだろ」
「それにミュージシャンだっていじめられた経験や人の死を曲にして金を稼ぐことだってある」
「俺がこれからあんたに売ろうとしているものもそれと同じなんだ」
「もし、今のあんたが不幸なら俺の話を聞いて安心感が得られる」
「もし、今のあんたが幸せなら反面教師の講義を聞いたと思ってもらえばいい」

そこまで聞いたあなたは一理あるな、程度には思えた。
だが今のところ金を払ってまで聞きたいとは思えなかった。
どう断ろうか、無視していってしまおうか。
そんなこと思っていたあなたに男はこういった。

「じゃあ、こうしよう」
「俺は今から売ろうと思っていた話をあんたにする」
「それで最後に俺の話に250円の価値があると思えたらお代を頂く」
「価値がないと思ったならそのまま帰ってもらって構わない」
「退屈だと感じたら途中で帰ってもらったっていい」
「どうだろう」

どうしようか。
目の前では男が返事を待っている。

あなたは考える。
この男は一体これからどういう人生を語るのだろうか。
250円の不幸話とはどんなものなのか。
一冊の本として考えれば安い方だ。
ということはあまり大した話ではないのではないだろうか。
しかし、この男からは確かに不幸を感じる。
年齢は30前後といったとこだろうか。
よれよれのTシャツにぼろぼろの靴からは明らかに貧困の臭いがする。
それを裏付けるように頬はこけていて、肌質もよくない。
伸びている髪は最後にいつ切ったのか見当がつかないほどボサボサだ。
それに最初からどうも気になっていたのだが、目を見てこちらへ喋っているようでどうも目線が合わない気がした。

「どうした、なんかジロジロみられている気がするけど」
不躾な視線を送ったことを反射的に謝ったあなたは男の言葉に違和感を感じた。
気がするも何も、と思った。
その疑問を問いかけると男は答える。
「ああ、俺は目が悪くてな。実はあんたの姿もよく見えてないんだ」
そういうと男はポケットから眼鏡を取り出した。
レンズに傷がついても買う金があるようには見えないのでもっと大切にすればいいのにとあなたは思った。
そもそも目の前の人間がぼやけるほどに視力が悪いならば常にかけているべきなのではとあなたは疑問に思う。
しかし男は出した眼鏡を掛けようとせず、そのままポケットにしまい話を続ける。
「つい一週間前まではかけれていたんだよ」
「それが、ある理由が原因でかけれなくなったんだ」
「今の俺にとっては自分の目の悪さをありがたく思うよ」
目が悪い方がいい状況とはどういうことだろう。
そうあなたは思った。
「気になるか?」
男が期待した顔であなたを見る。
「もし聞く気があるならついてきてくれ」
「10分くらいの短い話だがお客さんを立たせたままじゃ申し訳ないからな」
「ここから少し行ったところに落ち着ける公園があるんだ」
そう言い終えると男は歩き出した。
男はこちらを振り向かずに歩いていくが、目が悪い所為なのか歩みは遅い。
少し検討してからでも追いつけそうだ。

どうしたものか、とあなたは思う。
不審な男についていくのには勇気がいる。
引き返すなら今がタイミングだろう。
それに逃げ出したところで男は追ってきそうにもない。

しかし、あなたは既に少なからず興味を持ってしまっている。

退屈だったら、途中で帰っていいし金も要らない。
さっきの男のセリフを信じてあなたは男を追うことにした。


あなたは男の後を追い、公園にたどり着いた。
そこはあなたが住む町のはずだが知らない公園だった。
「どうだ良いところだろう、きれいで、広くて、誰もいなくて、トイレまである」
「話をするにはもってこいの場所だろ」
男はそういうとベンチに腰を下ろし、あなたもその横に座った。

さあ250円の不幸話を聞く準備はできた。
あなたは男が話し始めるのを待った。

そして、男はこう話を切り出した。

「一週間前、家に帰ると両親が豚になっていたんだ」
男の不幸話はそんな言葉で始まった。



「これから俺がするのは、一人の男が生まれて、徐々に精神を病み、両親が豚に見えるまでの物語だ」
「今から話を始めるがその前に、ひとつ俺と約束してくれ」
「話を聞いていてもしも辛くなったら、すぐに俺の話を聞くのを辞めてほしい」
「この約束は必ず守ってほしい」

辛くなったら逃げ出す
あなたはその言葉を深く胸に刻んだ。

「それじゃあ約束してくれたと信じて話を始めるとしよう」

男はポケットからスマートフォンを取り出すと二枚の写真をあなたに見せた。

「この二枚の写真に写っているのは俺の幸せな記憶の始まりと終わりなんだ」
「クレヨンが始まりで、ゲームカセットが終わりになる」
「時期で言うとクレヨンが幼稚園の記憶で、ゲームカセットの方が小学二年生の記憶だ」

「俺はどこにでもある普通の家庭に生まれた」
「普通のアパートに暮らす、普通の両親の元に生まれた、普通の子供だった」
「俺は順調に育ち、周りの子と同じように幼稚園へ通うことになる」

「ある日、幼稚園で両親の絵を描くことになり、家に持ち帰った」
「それを見た両親は凄く褒めてくれた」
「お前には絵の才能がある。いっぱい描いていっぱい見せてくれ」
「そんなことを言われたのを覚えている」

「次の日、父は会社帰りにクレヨンを二箱と画用紙を何枚も買ってきた」
「それからたくさんの絵を描き、クレヨンを一箱使い切るころには、将来の夢が絵描きになっていた」

「将来の夢が出来た」
「それはとても大きなことだった」
「ほら、小さい頃いろんな大人に『将来何になりたいの?』って聞かれた記憶はないか?」
「俺はあの質問が大嫌いだった」
「何かこう、期待されているあの感じが嫌いだったんだ」
「パン屋さん、おまわりさん、パイロット」
「色んな嘘の夢を言っては、大人の反応を窺っていた」
「一番反応が良かったのは宇宙飛行士だったかな」

「まあ、そんな感じで『将来何になりたい?』って聞かれても、大人が喜びそうな返事をしていた俺にとって、初めて嘘をつかずに答えられる夢ができたのが嬉しかったわけなんだ」
「当時の気持ちを大人になった俺が代わりに表現するなら」
「人生が始まった」
「そういう感覚だったと思う」

「そんな人生の始まりを感じ取った俺は、父から買ってもらったクレヨンがすごく特別なものに思えた」
「この残りの一箱は自分が大きくなった時」
「絵描きになった時に使おう」
「そう思ったんだ」

「なんとかしてクレヨンを残したかった俺は親におねだりして色鉛筆を買ってもらったっけな」
「だからこのクレヨンは今でも使えずに残っている」
「まあ、残っているってことは」
「そういうことさ」
「俺は絵描きになれなかったんだ」
「ある出来事を境に思うように絵が描けなくなるんだ」

「それっていうのがさっきの写真のゲームカセットを貰った日」
「小学三年生のクリスマスのことだ」

「その年は我が家にとって色々あった年だった」
「賃貸のアパートから分譲のマンションへの引っ越し」
「父の休日出勤の増加」
「母のパート」
「初めて持たされる家の鍵」
「初めて母の涙を見たのもこの年だったかな」

「子供の俺でも何かが壊れていくのが分かった」
「両親は俺に悟られないように、心配をかけないように繕っていたとは思うけど、子供っていうのは大人が思うより敏感なもんだよな」
「正確なことは思い出せないけど大体理解していたと思う」

「無理に買ったマンションが重荷になっていること」
「父は欲しがっていたけど母はそうでもなかったこと」
「子供の俺に気を掛ける余裕なんてないこと」
「そして、それを隠そうとしていること」

「俺はもちろん知らないふりをしたよ」
「知らないふりをして、その上でなるべくいい子でいようと努めた」
「その結果、真面目で親にわがままを言えない、顔色を見るのが得意な人間が出来上がった」
「そんなお利口な俺だったが年に一度だけわがままを合法的に言える日があった」

「それがクリスマスなわけだ」
「直接親にねだるには遠慮してしまうけど、サンタクロースにだったら許される気がしたんだ」

「俺はそのチャンスを楽しみにしていた」
「欲しいゲームがあったんだ」
「それがさっきの写真のゲームでさ、当時クラスで大流行してて、持ってないと話に入れないくらい人気だった」
「誕生日が早い奴は先に手に入れてて、遅い奴もクリスマスにはみんな買ってもらう算段を立てていた」

「俺は誕生日が九月だから早い側だったけど持っていなかった」
「なんでかって言ったらそりゃあ、お願いできなかったからさ」
「ただ、クラスメイトの話には入りたかったから俺は誕生日に攻略本を買ってもらった」
「クラスの奴らには『親が間違って買ってきた』なんて嘘を言って乗り切ったと思う」
「我ながら気味の悪いまでの気の使いようだよな」

「誕生日からクリスマスの間、俺は攻略本に載っているゲームのキャラクターを模写したりしながら指折り数えた」

「まあ、そんなことがありつつもいよいよお待ちかねのクリスマスイブ」
「俺はもう前の日から眠れないくらい楽しみにしてた」
「一日間違えてサンタクロースが来ないかドキドキしてたから良く覚えているよ」

「その日の夕食は家族そろってのクリスマスパーティだった」
「普段は生活を切り詰めていて質素な食卓だったが、その日はごちそうが並んでいた」
「ホールのケーキ」
「骨付きのフライドチキン」
「デリバリーのピザ」
「あとはワイン」

「このワインが良くなかった」
「パーティーが進むにつれて両親の様子がおかしくなっていった」
「ワインを一口飲む度に二人の口調は悪くなり、しまいには取っ組み合いの喧嘩にまでなってしまった」
「俺はというと少し離れたところでボーっと見ていたっけな」
「あまりの出来事に気後れっていうのかな、ついていけなかったんだと思う」
「そんな俺の冷ややかな視線に気付かぬまま喧嘩はエスカレートしていき、物が飛び交い始めた。劣勢な母が投擲し始めたんだ」
「フライドチキンが父の胸元にあたり、ケーキが父を逸れて後ろの壁に当たった」
「そこで母の物を投げる手は止まった」
「父が何かと思い後ろを振り向くと、そこには壁に貼られたケーキまみれの一枚の絵があった」
「それはあの日描いた両親の絵だった」

「あの時の空気感は上手く伝えられる自信がない」
「もし、その場面を絵に描いて題名を付けるとしたら」
「ケーキまみれの絵を見つめる家族三人とクリスマス特番が流れるテレビ」
「もしくは」
「家庭崩壊」
「といったところだろうか」
「地獄絵図っていうのも良いかもしれない」

「その後、一番先に動いたのは俺だった」
「壁の絵を剥がし自分の部屋へ向かった」
「ダメになったんだったら描き直せばいい」
「そう思ったんだ」

「机の引き出しからあの日のクレヨンを出して、描こうとした」
「でも描けなかった」
「クレヨンを握り、両親の顔を思い浮かべ描こうとした時、のどがキュっと閉まる感覚に襲われた」
「大人になった今ならそれがストレスによるものだって分かるけど、子供の俺にはわからなかった」
「何度も描こうとしたんだけど、その度にのどの絞まりが強まっていく気がして怖くてベットに潜り込んだ」
「悪い夢であれと強く願い、朝を待った」

「次の日、いつの間にか寝ていた俺の枕元にはプレゼントが置かれていた」
「包みを開けてみるとそれは欲しかったゲームカセットが入っていた」
「念願のカセットを手にした俺だったが喜びはあまりなかったと思う」

「俺はそれを持って両親のもとへ行った」
「サンタクロースが来たことを報告しに行ったんだ」
「リビングに行くと父の姿はなく母が一人で掃除をしていた」
「母は俺からの報告を聞くと、気まずそうな表情で昨晩のことを謝ってきた」

「昨日はごめんね」
「あれはお酒のせいなの」
「来年のクリスマスはもう飲まないから」

「そんなことを言われた」

「確かに次の年からお酒を飲むことはなくなった」
「なぜかって言ったら、来年からパーティーが開かれることがなくなったからな」
「他にも色々なことがこの日を境に失われていった」
「母の笑顔」
「母のパート収入」
「父の休み」
「一家団欒」
「そういったものがなくなった」

「その後、俺はゲームを進めていくんだけど、ラスボスは今でも倒せていない」
「ゲームをしていると、クリスマスのことを思い出してしまうのが辛くてな」
「一か月後にはクレヨンの横にしまい込んだ」
「いつか楽しめる日が来たら」
「母に笑顔が戻ったら、ラスボスを倒そう」
「そう思ったっけな」


「ここまで聞いてみてどうだ?」
「不幸だなって同情したか?」
「それとも、よくある話じゃないかって思ったか?」

「俺はよくある話だと思ってる」
「小さい頃の夢が叶わない」
「両親が不仲で、片方がうつ病を患う」
「そんなのってよくある話だろ?」


「この後に起こる不幸もありきたりなものでさ」
「中学でいじめにあうんだ」

「中学生になった俺は人格の形成に失敗して、暗い人間になっていた」
「陰キャって奴だな」
「まあ、でも上手くやってたんだよ」
「2軍の真ん中らへんって言えば想像できるか?」
「とにかく俺は平穏無事な生活を望んでいた」

「しかし、徐々に俺は注目を集めるようになっていくんだ」
「もちろん悪い意味でな」

「ある日、俺は名前を呼ばれるたびに笑われていることに気付くんだ」
「最初は意味が分からなかったんだけど、友達の誰かがその理由を教えてくれてさ」
「話を聞くと、俺の名前が当時流行りだしたアイドルと同姓同名だったんだ」
「名前を呼ばれるたびに苦痛だった」
「でもまあ、そのうち飽きて収まるだろうってその時は思っていたんだ」
「しかし、俺の予想は外れることになる」

「それがさ、カースト上位の女子の中にそのアイドルのファンがいてさ」
「そいつが俺の悪口を言い出すんだよ」
「あいつと同じなんて〇〇君がかわいそうってさ」
「そんなこと言われてもなあ」
「俺にはどうすることも出来ないさ」
「出来ることといえば、親の離婚とアイドルの失墜を願うだけだった」

「そっからいじめられるまではあっという間だったな」
「最初はクスクス笑われるだけだったのが、気づいたらキモいに変わって、俺に触れた人間が鬼ごっこを始めるまでになった」
「上履きをゴミ箱に捨てられたりもしたか」
「なんであんなことするんだろうな」

「あらかたのいじめを受けた俺だったが、最後まで大人に告げ口はしなかった」
「先生はともかく、両親には言ってもしょうがなかったしな」
「母は薬を服用して一日中寝てたし、父は家にほとんど帰らない日々が続いていたからさ」
「じゃあ、先生に言えばいいと思うかもしれない」

「これはいじめられた経験のある人間ならわかると思うんだけど」
「いじめられて何が辛いって」
「恥ずかしいんだよ」
「気まずいにも近いかな」
「とにかくいじめられているところを他人に見られるのが嫌だった」
「だから自分から誰かに言うなんてことは出来なくてさ」
「誰にも相談せずに、ずっと逃げ回っていたかな」

「そんな俺はある日、学校に安らげる場所を見つけるんだ」
「それは図書室だった」

「最後の友達が口を聞いてくれなくなった日」
「いよいよ教室に居場所がなくなった昼休みだったか」
「俺は教室から逃げ出して、あてもなく校舎内をふらふらしていた」
「人のいないところ、誰も自分のことなんて気にしないところを目指していたら自然と図書室にたどり着いたっけな」

「そこから俺は毎日昼休みを図書室で過ごすことになる」
「最初は図鑑とか漫画みたいなものばっかり読んでたかな」
「歴史とか、偉人の伝記とか結構漫画で描かれてるものがあってさ」
「次に児童文学を読み始めて、2か月もしたらすっかり読書家になっていたかな」

「そして、ある日俺はこの本に出会うんだ」

「宮沢賢治の短編集なんだけどさ」
「この中の『よだかの星』を読んだ俺は衝撃を受けた」
「主人公の境遇が自分と凄く似ててさ」
「ざっくり言うと、名前負けしている鳥の苦しみを描いた話でさ」
「俺の為に書かれた物語なんじゃないかって思ったね」
「その日家に帰ってすぐにこれを買いに行ったよ」
「辛くなったらこれを読めば一人じゃないって思えそうでさ」

「その考えは正しかった」
「俺はこの物語にその後何度も救われて、中学校生活を乗り切ることに成功するんだ」


「中学校生活を何とか乗り切った俺は地元から少し離れた高校へ進学した」
「その学校は凄くいいところでさ」
「学校生活で嫌だったことなんて一つもなかったんじゃないかな」

「環境に恵まれた俺は段々性格も明るくなっていった」
「気の合う友達もできたし、飲食店でバイトも始めてさ」
「そのバイト代でこのギターを買って」


「バンドも組んで」
「初めての彼女も出来てさ」
「周りから見たら青春を謳歌する学生にしか見えなかっただろうね」

「でも、これは不幸話」
「中学時代は家族のことにあまり触れなかったが、それは自分自身のことで精一杯だったからで、俺の家庭環境は年月と共に悪くなっていた」

「母はもう完全にうつ病になってしまっていた」
「こう、体調に波のあるタイプでさ」
「基本寝込んでるんだけど、たまに元気になってさ」
「元気になると夫婦喧嘩が始まるんだよ」
「俺はどうしていいかわからなかった」
「そりゃあ、元気になって欲しいとは思うけどさ」
「寝込んでもらっていた方が平和ではあるからね」

「父はあの後給料の上がらない会社に見切りをつけ、転職を繰り返すんだけど、仕事が変わる度に元気がなくなっていった」
「徐々に家にいる時間が増え、それに比例して我が家は貧乏になっていった」
「この頃から親のクレジットカードの請求書をよく見るようになった気がする」

「そんな家庭環境で育った俺はこう思うようになっていった」
「絶対成功して両親を幸せにするんだってね」
「この考えがすべての過ちだった」
「ここまでの不幸は事故や天災みたいなものだったけど、ここから先はすべてこの考えによるものになる」


「成功を夢見た俺は高校卒業後、音楽の専門学校に進んだ」
「親不孝な選択をしたと思う」
「ただ当時の俺は根拠のない自信に脳を侵されていた」
「自分にはギターの才能がある」
「音楽で大成功して、家のローンを代わりに払って、父親を望まない労働から解放して、そしたら母親に笑顔が戻って」
「そんなことを本気で信じていた」

「しかし、俺の自信は入学してたったの1か月で打ち砕かれることになる」

「たしか、アンサンブルって名前の授業だったかな」
「ボーカル、ギター、ベース、ドラムの四人で受ける授業なんだけどさ」
「課題曲を一週間かけて各自練習してきて、合わせるって内容なんだけど、俺はその授業に練習不足なまま行くことになるんだ」
「理由はバイトの入れ過ぎによるものだった」
「ちょっとでも家計を助けたかったから多めに入れてもらってたんだ」

「俺はもう授業が始まる前から憂鬱でさ、怒られたりしたら嫌だなって考えてた」
「案の定、一回合わせた時点で怒られるんだけど、それは自分のせいだからまだ平気だった」

「俺が耐えられなかったのは、一緒に受けてた生徒の視線でさ」
「あの憐れむような視線」
「可哀そうなものを見る、あの視線」
「俺はそれをよく知っていた」
「忘れたつもりだった」
「でも全部思い出してしまった」
「そうだ俺はいじめられてたんだ」

「俺はギターを担いでその場を逃げ出した」
「帰ろう」
「とにかく帰ろう」
「帰って図書館に行って本を探そう」
「きっと今の俺を慰めてくれる本があるはずだ」
「中学生の時もそうだっただろう」
「必ずあるはずさ」
「それからギターの練習をしよう」
「大丈夫、今回は練習時間が足りなかっただけだろ」
「バイトはあまり減らせないから睡眠時間を削れば大丈夫」
「少し寝なくても死にはしないだろ」
「そう言い聞かせながら俺は最寄り駅にたどり着いた」

「駅のホームで電車を待つ頃には少し気分は落ち着いた」
「ただそうなると今度は逃げ出したことへ対する自己嫌悪が始まった」
「なんで逃げ出してしまったんだ」
「これじゃ次の授業行きづらいじゃないか」
「変な奴だと思われたかな」
「今頃みんなで笑ってんのかな」
「いやだな」
「もう行きたくないな」
「でも辞めるわけにはいかない」
「まだ1か月だぞ」
「親になんて言えばいい」
「辞める選択肢はない」
「かといって授業に出る勇気もない」
「どうする」
「どうする」

「そんなことを考えていると、電車の来るアナウンスが聞こえた」

「そのアナウンスを参考に俺の脳は一つの提案をした」
「もし、いまホームに飛び込んだらどうなるんだろう」
「それは本当に提案のようなものだった」

「以後の人生で俺はこの提案を何度もされることになる」
「死の誘惑との戦いはこの日から始まった」



「さあ、俺の不幸話もあと少しだ」
「ここから先の人生には変化が少ないからあっという間に今の俺さ」

「結局俺はあの後どうしたかって言ったらすぐに専門を辞めたんだ」

「両親にはこう話した」
「家計が苦しいのは知っている」
「仕事がうまくいってないことも」
「俺が専門を辞めれば学費が浮くから」
「それで少しは楽になると思うんだ」

「本当ずるい話だよな」
「だがそのずるい話は親に効いた」
「俺は難なく専門を辞めることに成功した」

「詳しい金額は分からないけど400万くらい家計に入ったんじゃないかな」
「だからか分からないけど罪悪感みたいなものは少なかった」
「俺は嫌な学校辞めれて、家計は潤う」
「WINWINじゃないかって正当化した」

「俺が専門を辞めた数日後、父が仕事を辞めてきた」
「それから今に至るまで父は働いていない」
「ギリギリの精神状態で働いていた父の緊張の糸を俺が切ってしまった」
「父もうつ病の診断をもらい、母と同じ量の薬を今も飲み続けている」
「我が家の収入は二人の障害年金と、母方の援助だけとなった」

「俺はというと以後もずっと実家暮らしを続けた」
「家には殆どお金を入れていなかったけど親は何も言わなかった」
「たぶん負い目みたいなものがあるんだろうね」

「もちろん出たい気持ちはあった」
「でも、なんだろ」
「俺の中で家を出るイコール両親を見捨てるって意識があったんだろうな」
「結局俺は実家を出れないまま11年間を過ごしてきた」

「その11年で俺はゆっくりと体調を崩し、いろんなことが出来なくなっていった」

「最初の3年くらいはバンド活動とアルバイトを両立出来てた」
「ただ俺は腹痛を理由にステージに立つことが難しくなってしまうんだ」
「過敏性腸症候群って聞いたことあるか?」
「俺は多分それになってさ」

「ああ、多分っていうのは医者に診断されてないからさ」
「俺は病院に行くのが怖くてさ」
「両親の影響かな」
「医者に行ったら終わり」
「病気と認めたら終わりって意識がずっとあるんだ」

「話を戻そう」
「俺は緊張したりトイレの行けない環境に行くと下痢をするようになったんだ」
「この下痢の影響っていうのが最悪でさ」
「徐々に行けない場所が増えていくんだ」

「例えば髪を切ってておなか痛くなるとするだろ?」
「すると、次に美容室に行ったときに『おなか痛くなったらどうしよう?』って考えるようになるんだ」
「その考えがストレスになって、実際に腹を下す」
「もうその繰り返しでさ」
「電車、車、映画館、どんどん行けない場所が増えていった」

「その病気は俺からステージも奪っていった」
「ある日思ってしまったんだ」
「ライブが始まったらしばらくトイレに行けないな、ってさ」

「さらに症状が悪化した俺はトイレがあっても不安になっていく」
「トイレはそこにあるけど、もし誰かに入られたらどうしようって考えるようになるんだ」
「笑っちゃうような話だけど、本当なんだよ」

「この悩みは俺からステージを奪っただけじゃなく、就職する気も奪っていった」
「就職先でトイレに行けなかったらどうしよう」
「例えば大切なお客さんの応接中に痛くなったら」
「例えば車で上司と外回り中に痛くなったら」
「例えば、例えば」

「そんな考えに支配されて、どんな職業も俺には務まらない気がしたんだ」
「だから結局俺は高校生から続けているバイト先から抜け出せないまま11年を過ごした」

「次は睡眠障害かな」
「夜は眠れず、朝は起きれなくなっていった」
「眠りも浅くて、どれだけ寝ても一日中眠くてさ」

「その影響で俺は次第にギターを弾けなくなっていく」
「ステージに立つことを諦めた俺だったが、ギターは続けていた」
「いつか治るかもしれないし、ステージに立つだけが音楽じゃないって自分に言い聞かせてギターを弾き続けた」
「ただ、どれだけ練習しても全然上達しなくてさ」
「ギターを構えてもボーっとしたままの時間が増えていった」
「作詞も並行してやってたんだけどそっちもダメだった」
「なんの言葉も出てこなくなっていった」

「あとは趣味の読書が出来なくなったのもこの時期だったかな」
「文章が頭に入ってこないんだよ」
「目で文字を追うだけ」
「一ページ進んでは、戻るを繰り返すようになって」
「読むのが苦痛になり始めた俺は読書を辞めた」
「大切な趣味を失ってしまった」

「今思えばこの時にはもう、うつ状態になっていたんだろうけど」
「当時の俺は疲れがたまってるな、程度にしか考えてなかった」
「だからといって休むって考えは俺にはなかった」
「頑張んないと」
「頑張って音楽で成功して、幸せになるんだ」
「それはまるで昔の父のようだった」

「あと体に出た異常といえばニキビがひどくなったな」
「大したことないように聞こえるかも知れないけど」
「これもしっかりメンタルに来た」
「鏡や写真が大嫌いなのは間違いなくニキビのせいだ」
「ただコロナの影響でマスクをつける機会が多かったから前の二つに比べたら全然マシだったね」

「まあ、そんな体調不良に悩ませれながらも俺は何とか上手くやってきたんだ」
「ふいに来る死の誘惑にさえ耳を傾けなければある意味、安定した生活を送っていたと思うよ」

「それに俺は独りじゃなかったから今日まで生きてこれたんだ」
「こう見えて俺には5年間付き合ってる彼女がいてさ」
「その子は6個下で」
「俺が25歳、彼女が19歳の時にバイト先で出会ったんだ」

「俺みたいな奴に彼女がいるなんて不思議に思うかもしれないけど」
「俺はバイト先では本当に体調が悪い時以外は元気に振舞えていてさ」
「うつ病であることを上手く隠せていたんだ」
「当時は自分がうつ病って認めていなかったのもあるけどさ」
「意外にもみんなから頼られるポジションにいたんだ」

「彼女も俺のことを頼ってくれて」
「俺は何とかその期待に応えることが出来て」
「夢を語ったらすごいって言ってくれて」
「気づいたら両想いになって」
「彼女が告白してくれて」
「俺らは恋人になった」

「彼女は俺の夢を本気で応援してくれた」
「どんなに気分が落ち込んでも彼女の励ましで何度も立ち直れた」

「しかし、いつまでたっても結果を出せない俺はいつしか、彼女に対して強い罪悪感を抱くようになる」

「その罪悪感は俺を眠れなくさせた」
「寝ようとしても、俺が俺を責めるんだよ」
「気づけば俺は酒を飲まないと眠れない体になっていた」

「そんな生活が続いたある日のバイト中」
「俺は一つの決断をする」
「バイトを辞めて、退路を断とう」
「それは比較的体調の良かった日のことだった」
「前向きな、すごくいい考えに思えた」
「俺はその日の仕事終わり、店長に辞めさせてくださいと頭を下げた」
「店長は去る者を追わない人で、引き止められはしなかった」

「帰り道、俺はまるで自分が物語の主人公の様に思えた」
「沢山の苦労を乗り越えて成功する男の物語を想像した」

「家に帰ると俺は彼女に電話をかけた」
「バイトを辞める旨を伝えると彼女は少し悩んでから、『もう一度考え直した方がいいんじゃない』と言った」
「この時、今まで一度も俺の意思を否定しなかった彼女の言葉をもっと真剣に受け止めるべきだった」
「しかし、俺はすっかり自分の考えに酔ってしまっていて、彼女の助言に聞く耳を持たなかった」
「それから俺は30分くらいかけて彼女を説得し、最後にこう言って電話を切った」

「3か月、音楽に集中させてくれ」
「曲が出来たらこっちから連絡する」


「俺はその日以来彼女の声を聞いていない」
「そう、俺の考えは甘かったんだ」
「あんたも話を聞いていてそう思っただろう?」
「彼女の言っていたことは正しかった」
「あれが最後のチャンスだったんだ」

「電話を切った俺はすぐに曲を作り始めた」

「俺は自分に言い聞かせた」
「今日から毎日頑張れば必ずできるはずだ」
「死ぬ気で頑張れば必ずできる」
「出来なければ俺は全てを失うことになる」
「彼女も」
「夢も」
「仕事も」
「家族も」
「いいのかそれで」
「死ぬ気で頑張れ」
「睡眠時間は最小限にして、起きている時間すべてを捧げるんだ」
「寝ないのは得意だろ」
「酒がなきゃどうせ寝れないんだから」
「酒を止めればいいだけだろ」
「大丈夫」
「人間ちょっと無理したって死にはしないさ」
「大丈夫」
「大丈夫」


「順調だったのは最初の三日間だけだった」
「四日目の夜には酒に手を出していた」
「1か月もした頃には昼から飲んでいた」
「2か月経ち、彼女から連絡が来た」
「俺はそれを無視した」
「だってなんて言えばいい」

「そして、俺は何の成果も上げられないまま約束の日を迎えた」

「その日俺は生まれて初めて自分の意思で死のうと思った」
「もうそれ以上の考えは出てこなかった」
「俺は部屋を見渡した」
「何か首を吊れるのに丁度いいものはないかと見渡した」
「いいものを見つけた」
「それはギターとアンプを繋ぐコードだった」
「俺が首を吊る上で最高のものを見つけた」
「あとは場所だけだ」
「自分の部屋でもいいけど」
「どこか相応しくない気がした」
「せっかく、最高のロープを手に入れたんだから」
「場所もこだわろうと思った」
「コードを片手に俺は自分の部屋を出た」
「部屋を出て玄関へ向かう」
「靴を履き、ドアノブに手を伸ばす」
「そこでふと思った」
「最後に両親の顔を見てからいこう」
「リビングに入ると二人とも寝転がっていた」
「俺に気付き、二人ともこちらに顔を向けた」
「両親の顔が豚に見えた」
「俺はそれを見て、これは悪い夢なんだと思った」
「部屋に戻りベットに潜った」
「夢の中だったら寝られる気がしたんだ」



「さあ、これで俺の話はおしまいだ」
「どうだった?」
「俺の話に250円の価値はあったか?」

あなたは返答に困った。
男は返答を待たずに話し出す。

「まあそうだよな」
「そもそもあんたは今こう思っているんじゃないか?」
「一週間前死のうとしていた人間にしては元気じゃないかって」

言われてみればそうかもしれないと、あなたは思った。

「もう俺にとって死にたいっていうのは普通の感情なんだ」
「今朝も死にたかったし、昨日の夜も死にたかった」
「眠い、おなか減った、死にたい、って感じなんだ」
「自分がいつ死んでもおかしくないと思っている」

男は事もなげにそう言い、さらに話を続けた。

「俺はもう自分の死を受け入れてしまった」
「恐怖はほぼない」
「ただ、いざそうなったら二つの願いが生まれたんだ」
「一つは自分が生きてきた証を残すこと」
「曲でも遺せたらかっこいいんだけど」
「それは無理だからさ」
「どうしようかと悩んだ末に、いいことを思いついたんだ」


「クレヨン」
「ゲームカセット」
「本」
「ギター」
「この四つをリサイクルショップに売ってこようと思う」
「なんでかって言うとさ」
「この四つは俺にとって人生そのものなんだ」
「言い換えれば俺が生きてきた証なわけでさ」
「それを誰かが使ってくれれば、少しは安らかに眠れる気がするんだよ」

「もう一つは」
「辛い思い出を金に換えて、それで”あるもの”を買いたかったんだ」
「そうすれば上手く成仏できそうな気がしてさ」
「俺は幽霊とか信じてなかったんだけどさ」
「いざ自分が死ぬってなったら」
「悪霊になるのは嫌だなって思ったんだよ」

あるものとは何だろう。
今自分がお金を払ったら、この男は一体何を買おうというのか。
あなたは気になったがひとまず黙っていることにした。

「まあ、あんたと会ったところまで送っていくからさ」
「それまでに決めてくれればいい」
そう言うと男は歩き出した。

あなたは来た時と同じように男の後を追い、もと居たところへ帰ってきた。

「さあ、到着だ」
「今日は本当にありがとうな」
男はあなたにお礼を言い、話し出した。
「俺からあんたに一つだけアドバイスがあるんだ」
「これは俺が身をもって経験した人生の教訓だ」
「どうか覚えておいて欲しい」
「調子が悪い時は絶対に大きな決断をするな」
「いいか、もう一度言うぞ」
「調子が悪い時は絶対に大きな決断をするな」

男はそういうと『じゃあな、元気でやれよ』と言い、歩き出していってしまった。

あなたはそれを見送った。


翌日
あなたは同じ場所で男を見かけ、声をかけた。

男からは酒の臭いがした。
「よお、その声はあんたか」
「聞いてくれよ」
「今日は面白い話をしてやるよ」

「俺はあの後、いったん家に戻ってから計画通りリサイクルショップに向かったんだ」
「それで、途中のコンビニで酒買ってさ」
「売る前に公園で一杯やりながら思い出に浸ろうとしてさ」
「あの公園にもう一度行ったんだ」
「そしたら先客がいてさ」
「そいつは俺と顔のよく似た酔っ払いだった」
「別の場所へ行こうか悩んでいると、『おいあんた、そのコンビニの袋ん中なに入ってんだ』って聞いてきた」
「俺が酒を持っていることを伝えると酔っ払いは嬉しそうに『こっち来いよ』と誘ってきた」
「俺はその酔っ払いの誘いにのって、二人で酒盛りを始めた」
「お互いの身の上話で盛り上がってさ」
「っていうのもその酔っ払いも全く同じ人生を送っててさ」
「俺と違うのは性格ぐらいなもんだった」
「その酔っ払いはすごく攻撃的な性格でさ」
「やっちまえよ、が口癖の奴だった」
「そいつが飲ませ上手なのもあって俺はどんどん気分がよくなっていった」
「手持ちの酒だけじゃ足りなくなってコンビニに行ってさ」
「缶酎ハイを持てるだけ買って公園に戻った」
「それからまた二人で飲み直してさ」

「俺の記憶はそこまでで、起きたら朝だった」
「酔っ払いは居なくなっていた」
「俺はあたりに人の気配がないことを確認してから眼鏡を掛けた」



「俺の売ろうとしていた人生がゲロまみれになっていた」
「クレヨンも」
「ゲームカセットも」
「本も」
「ギターも」
「見事にゲロまみれだった」

「な、面白いだろ?」
「面白いよな」
「面白いって言ってくれよ」
「頼むよ」
「せめて笑ってくれよ」
「じゃないと俺は」
「俺の人生って何だったんだよ」
「生まれてから死ぬまでずっと辛くて」
「その不幸には値段すらつかなくて」

「なあ、何とか言ってくれよ」
「なあ」
「行かないでくれよ、頼むよ」

あなたは、その場を後にした。

それ以降、男に会うことはなかった。




あなたは思う。
あの時、男の不幸話に価値を付けてあげられていたら。
もしかしたら少しは違う結末になっていたんじゃないかと。

あなたは思う。
おそらく男が公園で出会った酔っ払いは彼の見た幻覚だと。
男は眼鏡を掛けていないはずなのに、『俺によく似た』と言っていた。


もしかしたら自分は男を救うことが出来たのではないか。
あなたはそう思わずにはいられなかった。

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