名前も知らない私たち
「大丈夫?傘ある?」
突然の大雨に驚きながら傘を持っていなかった私は、シャツを雨よけにしながら女の子に声をかけた。
小学校低学年くらいの女の子。
どこか悲しそうな表情で1人とぼとぼで歩いていた。バス停まで雨よけしながら一緒に走った。
どこか片隅にある女の子の記憶。「またね」と言い合ってわかれた。
帰り道、はじめて話しをした感覚ではない何かを感じ、見たことのある表情、気になる雰囲気を感じていた。
その感覚を持ち続けながら仕事でたまたま訪れた、某小学校の運動会。
その女の子の姿が。
沢山の子どもたちを見てきたが、どこか気になっているが思い出せないこの感覚を忘れなかった。
運動会でその女の子を見ているうちに思い出した。
夜遅い時間に1人でコンビニエンスストアで弁当を購入していた彼女、1人で夜間俯きながら歩いている時に声をかけていた。
また、仕事で訪れた近隣の児童館で女の子がこちらをずっと見つめられ、私から声をかけていたことをふと思い出した。
その後、時々女の子の姿を見る。
互いに微笑み合う私たち。
何も言葉は交わしないが、ただ微笑み合い小さく手を振る、とても控えめに。
不思議な距離感がありつつも名前も知らない私たちは何かで繋がっている気がしている。
今後も何か不思議なもので繋がっていくだろう。
この不思議な感覚はいまだに私にも分からない。
いつかこの不思議な感覚の答えが分かりますように。
分からないままでもいいのかもしれない。
既になんとなく昔のわたしに似ている女の子であることに気づき始めている。
女の子の学年が上がり街で見る彼女の成長を楽しみにしている。
名前も知らない私たちの繋がり…これからもずっと静かにつながっていきますように。