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【画廊探訪 No.015】見ることを否定して見える世界を ーー川端薫作品 に寄せてーー

見ることを否定して見える世界を
―――JINEN GALLERY『山口茉莉/川端薫展』川端薫出展作品 に寄せて―――
                            襾漫敏彦
 我々、人間は、世界は見えるがままに、存在していると信じている。けれども、このことは人類という種に限ってのことでしかない。生物学者のユクスキュルが『生物から見た世界』で語ったように、全ての動物、それぞれの環境世界=〈環世界〉は、そのものが知覚し、作用する世界の総体から成り立っている。
 
 川端薫には立体作家の血が流れている。彼女は、今回、ワックスペーパー版画と立体作品を出品した。ワックスペーパー版画とは下絵を製作してパソコンに取り込み、色調毎の数枚のレイヤーに分割し、それぞれを、印刷し、印刷された紙に蝋(ワックス)を施していく。こうしてできた透き通った紙を重ねて一枚の作品にしていく。

 川端薫氏は、ヒトデやナマコ、サンゴといった眼をもたぬ生き物をモチーフとして取り上げる。見ることを必要としない存在が、いかにして世界を知り、どのように生きるのか。見えない闇の世界で、何かの息づかいを感じ、体の皮膜が感じるままに蠢く。そこに、彼女の関心もあるのだろう。
 ワックスペーパー版画の技法、それは漉いた数枚の紙を、水に沈め、構造がほどける直前に漉いて一枚にするような作業である。蝋(ワックス)という溶液を使って分解を生成を行う。考えてみれば、紙もワックスも、多くの生体分子も炭素のつながりを骨格としている。彼女の技法は、存在を支えている構造を革(あら)ためていく作業でもある。
 彼女は、美術表現の世界にありながら、視覚、見ることへの信頼を一度、捨てる。そのことで、外部世界と生身の体の対話の原点を取り返そうとする。彼女の想像力が輝くとき、世界との原初の対話が、取り戻せるやもしれない。


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わたしは、この人の造形は結構、気に入ってます。どのように作っているか、そこにかなりのこだわりが見えてきます。

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