興味本位が多様性への第一歩 | 杉山文野さんとのイベントを通じての気づき
午後2時半。
紺一色のカジュアルスーツに白のTシャツ、真っ白なスニーカー。顔にはレインボーのフェイスマスク。洗練されたおしゃれダンディズムを兼ね備え、彼は颯爽と会場に現れた。
「よろしくお願いしまーす!」
笑顔で挨拶を交わす。
私なんかより、ずっとハンサムで男らしい。
ー
この日が訪れるのを心待ちにしていた。
彼の名は、杉山文野(すぎやまふみの)。
1981年生まれということは、私と同い年だ。
ミレニアル世代の先頭を走る我々81年代は、多様性と画一性・同調性のはざまを生きてきた世代と言える。画一性・同調性であることが、ある意味"美徳"とされ、幼少期を育ってきたように思う。
今年4月、彼の講演をオンラインで聞いた。目から鱗だった。
なぜ日本ではジェンダー平等が進まないのか?LGBTQに対する法制度整備が進まないのか?どういった考え方が日本社会に足りないのか?このような問いに対する答えが、まるで雲の切れ間から太陽の光が差し込むように見えてきたと感じたからだ。
以前のnoteにも書いたが、私は男であることを受け入れつつも、「男らしさ」という世界からは距離を置いて過ごしてきた。
今なお自分自身の内なる性的な立ち位置については、正直よくわかっていない。私の中では、私という人物は、「小柄で色白な中年男」という生きた"乗り物"の中に身を置いた、それをコントロールしているだけの存在だ。
ー
そんな私にとって、彼は眩しく映る。小さな頃から「心の性」と真正面から向き合い、だからこそ多くの苦悩と戦い、最終的に自分らしさを勝ち得た存在だからだ。私には、孤高の勇者のように映る。
今日は、そんな彼と同じ時間と空間を過ごした、わずか1時間ほどの社内でのイベントを振り返り、得た気づきをこのnoteに書いていこうと思う。
世界は多様。だが、偏見に満ちている。
彼は言った。世界を旅して回ったが、結局どこへ行っても、自身の異質な性からは逃れることはできなかったと。"She"なのか"He"なのかという問題は、たとえ南極へ行っても続いたという。
つまるところ、世界中どこへ行っても性の多様性に対する理解は、人それぞれ。どの国へ行ってもピンもいればキリもいるということだろう。Gender Gapランキングなどで出てくるのはあくまで相対的な数字の話。「この国だから全員理解している」ではないということだ。
一般的に、ヒトは自分の住む社会、地域、あるいはその他のネットワークの中で「常識」とされるものに囚われて生活している。この情報化社会の中、何にも囚われずに生活できる人などほとんどいない。
彼は言った。Diversityは、もはやスキルなのだと。
そもそもを考えれば、世界は多様性に満ちているわけだ。誰一人として、同じ場所に住み、同じ姓名を持ち、同じ身なり、思考回路をもったコピーは存在しない。地球上に80億人が住んでいるとすれば、80億通りのDiversityが存在するわけだ。
しかし、私たちはそれを薄々分かっていつつも、無意識のうちに自分にとって都合の良いフレームに入れてしまう。男性・女性、白人・黒人・黄色人種、若手・中堅・ベテラン。80億あったDiversityが気づけば、10とか20とかになってしまい、その個人をどんな人かを判断してしまっているわけだ。
10とか20とかに分類されたグループの中には、当然ながら平均から外れた人も存在する。標準偏差が、±1とか1.5SDとかくらいまでならまだなんとか一般的な判断にも耐えられるかもしれない。
でも、標準偏差が±2とか、もっと言えば5とか10SDくらい違う人だってその中には当然含まれる。そこに目が向けられるかどうか、これが私たちの行動を決めるように思うのだ。
興味(Curiosity)こそが世界を変える
彼は講演終盤でこんな話をした。なぜ同性婚パートナーシップ制度は渋谷区から始まったのか?これは、彼がgreenbirdという清掃団体で活動していたときに、その団体を主宰する長谷部健氏(2021年10月現在は渋谷区長)と出会ったことがきっかけだったという。
長谷部氏は、Transgenderである彼に興味をもったようだ。そこでご自身がされている清掃活動を、新宿二丁目といった性的マイノリティが集まる場でもやり始められたそう。
清掃活動を続けていくと、副産物的に、どんどんLGBTの人たちの関わりが増え、個々の個性が見えてくるようになる。すると、そこでの困りごとが浮き彫りになっていったようだ。
困りごとの1つは結婚ができないこと。日本にはLGBTのカップルを証明するものが当時はなかった。その気持ちに寄り添って、少しでも自分ができることをと長谷部氏が考えて起こしたアクションが、パートナーシップを証明した証を発行するための議会提案だったという。
調べたところ、2015年の渋谷区でのパートナーシップ制度導入以降2021年10月までに約110の自治体で制度が導入されるに至っているようだ。
戻り戻って、つまるところ、最初のきっかけは長谷部氏の彼への興味から全ては始まっている。異質なものを「例外だ」と言って切り捨てるのではなく、「個性的だ」として興味を持ったことが大きな歯車が回り出す最初の1歩だったと思うと、興味の持つ力の偉大さを感じずにはいられなかった。
日本が世界一のLGBT親睦国家になる日を夢見て
日本のGender Gapランキングは、2021年現在世界120位。言わずと知れたGender Gap後進国だ。
でも私は信じたいのだ。この国はきっと変われると_。
最近「シン・ニホン」という書籍を読んでいる。昨年ビジネス書グランプリも受賞した有名な本だ。
この本で言われていることは、日本が本来持ち合わせたアレンジ化の力(本の中では"妄想する力"と表現されている)を利活用することができれば、経済方面で言われている「失われた30年」を乗り越え、もう一度世界をリードできる存在になれるということだ。
私は、これは何も経済に限った話ではないと思うのだ。日本はGender Gapにおいても、経済同様に「失われた○○年」という時代を過ごしてきたように思う。今という時代を切り取ると、結果として欧米諸国で起こっている変化に出遅れ、後手後手の打ち手となっている感は否めない。
だがこの国には妄想力がある。古くは海外から入ってきた仏教、キリスト教などの宗教が、独自の形で融合し、日本独特のクリスマスやハロウィンの文化を作ったかのように、アニメ、オタク、地下アイドル、オネエと言った日本の代名詞となりつつある文化が、日本のGenderやLGBTといった社会課題を独自に解決に導く手立てになりうるのではないかとさえ思う。
そんなことが実現できれば、日本はいつの日か世界一の多様性を融合できる国になれるのかもしれない。
日本の逆襲はこれからだ!そんなことを妄想しているとまたワクワクが止まらない。
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