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クリスマスが喜ぶね

毎年、秋の終わりごろ街のあちこちでクリスマスツリーが売られ始める。生の木だ。クリスマスツリーファームと呼ばれる、クリスマスツリーを栽培している農場から切られて運ばれてきたものたち。人々はそこで自分の家に飾るのにちょうどいいサイズで、なおかつバランス良く葉が茂っているものを選んで購入し、ツリーをネットで包んで車の屋根にくくりつけて家に持ち帰る。直接、農場に行って自分でノコギリで切って買うという方法もある。大きなツリーを乗せて走る車を見るのはこの時期の風物詩だ。

家に持ち帰ったツリーは専用の土台に固定する。生の木には水が必要なので、この土台についている給水スペースに定期的に水を入れる。購入、設置も一苦労だし、手入れも面倒くさい。でも生のツリーはとにかくいい香りがするのだ。家に居ながら森林浴しているみたい。

生のツリーを買わなかった年がある。仕事に育児にで疲れ切っていたのだと思う。代わりにクリスマス直前にお店に駆け込んで小さなおもちゃのツリーを買い、息子が寝てから部屋の隅に置いた。もう10年以上前、息子が3歳だった年だ。

翌朝、ツリーを見た息子は飛び上がって喜んだ。そしてはしゃぎながら言った。「よろこぶね!クリスマスがこのツリーみたら、きっとよろこぶね!」

12月に入ってから「もうすぐクリスマスがくる」と私が言っていたのを、どうやら息子は「クリスマス」=「そういう名前の人」と取っていて、クリスマスさんが近々我が家に遊びに来ると思っていたらしい。サンタクロースのこともまだ理解していなかった3歳児なりの解釈。子供が可愛らしい勘違いで大人の心を温めてくれるのはきっと万国共通だ。この年のクリスマス、私はこの子の無邪気さが出来るだけ長く続きますようにと願った。

酒井 駒子さんの「よるくま」シリーズに出てくる男の子の無邪気さも愛おしくなる。よるくまのお母さんを探しに夜の街に繰り出す優しい男の子とよるくま。
お母さんを見付けた時のよるくまの表情がぐっと来る。

「よるくまクリスマスのまえのよる」では「悪い子だからサンタさん来ないだろう」と凹み気味の男の子。大丈夫、大丈夫だよ。

クリスマスまであと4日。今年たくさん褒められた子も、たくさん叱られた子も皆、良いクリスマスを送れますように。

ちなみに12月25日が過ぎてもアメリカ人の多くはツリーをそのままにしていて、お正月過ぎにやっと片付ける。用済みのツリーは1月以降、自治体が回収してくれる。家の前の車道にゴロンと転がしておくと、大きなトラックで持っていってくれるのだ。その後細かくされ肥料などとしてリサイクルされるそう。

自分たちもそうしているわけだが、道端に雑に転がされた用済みクリスマスツリーを見るたびに私は切なくなる。息子が言った「クリスマスがよろこぶね」の言葉を思い出すから。無惨に捨てられたツリーを見たらクリスマスはきっと悲しむぞと思うから。息子はもう自分が幼い頃言った言葉を覚えていないけれど、私はずっと覚えているのだ。よるくまのお母さんくまも、男の子のお母さんも、我が子の可愛らしさをきっとずっと忘れないだろう。

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