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潜む「獣」 - 蝿の王

大戦の中、南太平洋の無人島に不時着したイギリス人の少年たちの物語「蝿の王」を読んだ。きっかけは息子が学校の授業で読み、これは面白いから読むべきだと私に薦めてきた事。ぶっきらぼうなティーンになってしまった子供と何とか共通の話題や接点を持ちたい母としては、薦められたらそりゃすぐ読みます。

無人島、しかも大人のいない環境で登場人物の少年たちは多数決により隊長を決め、必要に応じて会議を開き、発言権を守るルールまで決めた。まだ小中学生(中にはもっと小さな子も)という年齢なのに、規律を持とうとする姿勢はさすがイギリス人たち。幸い島には水も果物の木もたんまりある。木の枝や葉で簡単な小屋を作り、火を起こし、狼煙を上げ、団結し上手くやって行けそうだった。

ところが間もなく亀裂が入り始める。救助されるため狼煙の維持が一番大事だと考える隊長ラルフと、狼煙はそっちのけで豚狩りをし肉を手に入れるジャックと取り巻きたち。2つのグループの雲行きが怪しくなると同時に、島にいる恐ろしい「獣」の存在が皆の心を掻き乱す。

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少年たちの多くは非常時を生き延びるために、力の強いものに着いて行くことを選んだ。やがて心の中の獣性が目覚め集団の狂気が始まる…。

理性や道徳を保っていた少年たちもいる。サイモンという名の少し風変わりな少年は人の心に棲む悪に早くから気付いていたし、皆が恐れる「獣」の正体を見付けたのも彼だった。ピギー(豚ちゃん)と呼ばれた臆病な少年は、賢明で決して主人公ラルフを裏切らなかった。そのラルフはどうだろう。彼は他人の気持ちを考えないところもあったし、リーダーとしての適性があったのか個人的には疑問も残る。それでも彼は最後まで人間でいようと踏ん張った。

最後、島の炎を見た海軍の船に助けられ、少年たちは涙を流す。ラルフは自分のイノセンス(無垢)の喪失、人間の恐ろしさ、そして友人を想い泣いた。

この物語、時期設定は「未来」とされているが、出版されたのが1954年だから、作者のゴールディングが想定した「未来」はもしかすると今頃かもしれない。これはフィクションだけど、今も世界で現実に起こっている争いもあるわけで、その為に亡くなった命を思うと、とっくの昔にイノセンスを無くしている私たち大人も泣きたい気持ちになる。

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