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熊のいるホテルとベリー家の物語

このはちゃめちゃな物語は1939年の夏のアメリカから始まる。ニューハンプシャー州出身の若い2人ウィンスロー・ベリーとメアリーがこの夏、メイン州のリゾートホテルでのアルバイト中に恋に落ち、芸達者な熊を手にいれたあと結婚し、家族となった。ステイト・オ・メインというおかしな名前の熊はアールと改名され、老いてもう芸らしい芸は出来なくなる。ベリー家に生まれた子供たちは多様性に富んでいる。学校で虐められているゲイの長男フランク、奔放で美人な長女フラニー、ずっと小さいままの次女リリー、三男のエッグは難聴で、語り手は次男のジョンだ。語り手ジョンと一つ上の姉フラニーは家族として以上に愛し合っている。

父のウィンスロー・ベリーが使われなくなった古い校舎を買い取って開業した「ホテル・ニューハンプシャー」で子供たちは成長し、人生の痛みも知ってゆく。

その後、一家はオーストリアのウィーンへ移り小さなホテルを引き継ぎ、第二次ホテル・ニューハンプシャーとする。既に売春婦と過激派メンバーの巣になっているこのホテルで一家は喜びも悲しみも経験し、そして大事件にも巻き込まれる。

人生に転機が起こる時、この一家が口にする言葉がある。
「ぼくたちはみな大きな船に乗っている」これは人生には大きな嵐があるのだから吹き流されないよう落ち込んだままではなくしっかり足を地に着けて前を向こうということ。
「開いている窓の前で立ち止まるな」は困難な時、飛び降りて全ておしまいにしてしまうのではなく、そんな時は開いている窓を見過ごし生き続けるということ。
「あらゆるものはおとぎ話」は、どんなことがあろうと夢を見続け、愛するものも恐れるものも作り出すということ。人生は所詮おとぎ話であり、見続けた夢はいつか鮮やかに目の前から消え去ってゆくのだからと。

ウィーンの大事件のあとアメリカに戻った一家のその後は涙あり笑いありだ。夢を追い続けるもの、成功したものもいれば、「開いている窓」の前で立ち止まってしまったものもいる。でも彼らは常にホテル、そして家族という名の大きな船で互いを思い合い、共感しあった。嵐があって、乗っている人数が減ってしまっても彼らは前を向き続けた。

この小説で一番大事な存在と言ってもいいのが熊。最初の熊のアールが死んだ後、彼らは新たな「熊」、スージーと出会った。実際の熊であれ、熊になりきる誰かであれ、熊のように力強い心であれ、それぞれにとっての「熊」は彼らの生涯の支えとなった。この色鮮やかな人生のおとぎ話を読みながら、私たち誰にでもそんな「熊」がいるといいと思った。

これは私にとって初めてのアーヴィングの本。大好きな本となりました。調べてみたら1984年に上映された映画ではフラニー役がジョディフォスターさん、ジョン役がロブロウさんなのですね。個人的に本のイメージ通りで嬉しい。観てみたいな。


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