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極限状態におかれた人たちの本・7冊

FaceBookで、毎日1冊の本の表紙(だけ)を7日間掲載するブックカバーチャレンジが流行しています。読書が大好きなので、私も挑戦してみました!

現在、世界的なコロナ禍に見舞われています。誰もが生死に関わるような状況におかれているといえるでしょう。これを”極限状況”としてとらえ、「極限状態におかれた人たち」をテーマに7冊のノンフィクションと伝記を選書しました。

どの本もみな、ヘヴィな現実をそれぞれのやり方でくぐりぬけています。彼ら彼女らのサバイバルを読むことで、今まさに先の見えない状況下におかれている私たちにとって生きる勇気になるのではないでしょうか。


1.悪徳!興行師兄弟に翻弄される少女たちの青春

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吉田豪の”最強”全女伝説/吉田 豪

かつて存在したプロレス団体、全日本女子プロレス。レスラーとして死闘を繰り広げた女性たちのインタビュー集である本書は、当時の”全女”の狂った状況を生々しくあぶりだしていく。なかでも天才興行師である松永兄弟の手腕は圧巻だ。互いにあらぬ悪口を吹き込み、試合を本気のケンカに仕立て上げる洗脳スキルはたまらなく恐ろしい。「リングの上で殺しても刑務所には入らないんですよね?」そんなことを年若い少女に言わせる異常な世界がたまらなくエキサイティング。


2.歩道橋からダイブ!!血みどろに顔面崩壊させた女性の壮絶すぎる手記

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人間仮免中/卯月 妙子

キワモノ系AV女優から漫画家への転身、亡夫の位牌として背中にタトゥー、重い統合失調症を抱えての子育て、そして歩道橋から投身、顔面粉砕骨折…。壮絶すぎる過去と現在を抱える著者。そんな著者が発狂して事故にあい、闘病するまでを描いた手記が本書。発狂した当事者が描く幻覚世界が支離滅裂で恐しい。不自由であろう心身で描かれた本作(線がよろめいている!)は、表現者としての在り方を剥き身で問うてくる。それにしても極限を生きた人が訴える「普通に暮らせることの喜び」は、とても重い。


3.強制収容所を冷静に観察。極限状況におかれた時の人の心はどうなるの…?画像3

夜と霧/V・Eフランクル

世界人類の汚点のひとつ、それはナチスドイツがヨーロッパ各地に設立した強制収容所だ。本書は、強制収容所から生き延びた心理学者による「極限状態におかれた時、人の心はどのように変容していくのか」を観察・分析した本だ。どんな苦しみも、死も、生の一部である。それらの意味を絶えず問い続けることこそが、生きるということではないか。あまりにも不条理すぎる国家的暴力に晒されてもなお失わない自由な心とは一体なにか。何度読み返しても新しい強さと発見を与えてくれる現代人必読の書。


4.明日、特攻隊として出撃しなければならない。 …かもしれない。

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出発はついに訪れず/島尾敏雄

島尾敏雄は人生で二度の極限状態を体験している。一つは特攻隊隊長として加計呂麻島に赴任したこと。二つ目は島で出会った少女・ミホとの結婚生活だ。本書は島尾敏雄の小説世界の形成を時系列で触れることができる短編集。名前だけが勇ましいベニヤ製の特攻ボート「震洋」に乗る使命の為、明日をも知れぬ極限状態に置かれる島尾。終戦と同時に死から解放されたはずが、皮肉にも日常が白昼夢のようになり、地獄と化す第二の極限状態を迎えることとなる。これは是非とも小説「死の棘」でお楽しみを。


5.美しい奴隷少女を狙う主人がキモチワルイ!! 自由を手にするための少女の闘いに刮目せよ。

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ある奴隷少女に起こった出来事/ハリエット・アン・ジェイコブズ

かつてアメリカには黒人を奴隷とし、売買を認める制度があった。人間としての権利は無い…。好色な主人から性虐待にあう奴隷少女が、その支配から脱ける為にとった手段、それは主人とは別の白人の子を産むこと…。あまりにも残酷で絶望的な現実は、実際に起きた物語。 自分や子どもの体が、他人の財産として扱われる苦痛。 胸糞悪くなる場面が多くあるが、目をそむけてはいけない。これは、自由を求める賢い少女の長い闘いの記録なのだから。 諦めない、希望を捨てない。力強さに溢れた1冊。


6.夫婦の”あたりまえ”が出来ない。誰にも言えない苦しみは一体どうしたらいいの?

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夫のちんぽが入らない/こだま

衝撃的なタイトルは、二人の男女が抱えた秘められた問題そのものズバリ。愛し合う二人はあたりまえにセックスをする、はずなのに…。オープンには出来ない問題に蓋をして、夫婦として生きることを決めた二人。本書は、妻の側から描いた手記である。仕事、そして「あたりまえの夫婦生活」に追い詰められていく著者が徐々に常軌を逸した行動に走っていく様は自傷行為のようでもある。そして迎えるどん底と、その先にみえる世界の静けさよ。「あたりまえ」を押し付けられて苦しい方に読んでほしい一冊。


7.地位も妻も自ら捨てて、自ら極限世界へ行く人

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海も暮れきる/吉村 昭

「咳をしてもひとり」など、自由律の作風でしられる尾崎放哉の伝記文学。いや、まあ、放哉よ!とつっこみたくなる放哉の捻くれ具合がもう凄い。帝大卒、一流企業で要職、美しく若い妻…めちゃサクセスフルだったのに全部捨てて放浪、最期の土地に選んだのが小豆島…。島人をこき使い、友人に金を無心し、酒を呑んでは大暴れ。強者に怯え、格下には強く出る男・放哉。島人たちは、放哉の死後も「ほんとに嫌な奴だった」と証言していたとか。それにしても、結核の悪化による死を迎えるまで、極限状態に陥れば陥るほど輝きを増す俳句ときたら…。しみじみ私は凡人でいいやと謙虚に思える一冊です。


最後に

極限状態におかれた人たちをテーマに7冊の本を紹介しました。生まれた時代や国、環境によって極限状態にも様々なバリエーションがありますが、たとえ異なる時代や国、環境であっても生きることそのものについて学ぶことは多くあるように思います。今回紹介した7冊の本の中で、興味をそそられる本があればとても幸いです。

最期まで読んでくださり、ありがとうございました。


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