「今井正映画読本」

今井正に関する本。略歴、随筆、対談集、人物評、作品論、各作品の解説など、250ページにうまくまとめており、持っててうれしい。

東大時代から左翼運動に熱心だったのに、戦後の東宝争議では「組合がやりすぎたら、将来自分たちが食うに困るんじゃないか」と黒澤明と語り合い、亀井文夫が討論会で会社側をコテンパンにやっつけたのを自慢すると、「もし仮に僕が討論して勝ったにしても、一カ所だけは向うに逃げ道を作っておくよ」。「青い山脈」と「また逢う日まで」という名作を作ったあと東宝を辞め、鉄屑を集める仕事で繁盛したけれど、集めた鉄屑が朝鮮戦争の兵器になることを知り、映画に復帰。

溝口、小津、黒澤ほど名声がないとしたら、際立った演出スタイルがないからで、ヒッチコックの「めまい」が映画史上の一位になるような世の中では、あまり評価されない。初めてカラーを使ったときに「なるべく現実にある色に近づけ、逆に観客に色を感じさせないような効果をあげたい」と言っており、これがそのまま演出にも当てはまるのでしょう。「たいした才能もないのに、良いシナリオライター達と組んだおかげ」と本人は謙虚。

50年代後半、新進気鋭の増村保造と中平康が「演出が下手だし、内容も平凡」と今井の悪口を言い、「良い映画には集まらず、ロクでもない映画がヒットする」と観客に不信感を示したのに対し、まだ監督になっていない大島渚が、今井は「何を訴えかけようか」「どうしてよく判ってもらえるか」を懸命に考えているので、そんな悪口を言っている暇があったら、映画対観客をよく考えて、観客が支持する今井の保守的な部分を打ち砕くような革新的なものを作れ!とゲキを飛ばしているエッセイが面白かったです。

2016年1月17日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?