見出し画像

実行力は、なぜ軽視されて、重宝されないのか?

こんにちは、独立して3年目の経営コンサルティング、顧問業をやっている松本です。

新卒でコンサルティング会社に入社し、マネージャーを経て、ベンチャー企業にジョイン。役員として数年経営全般に関わり、退任後に複数のベンチャー企業の取締役、アドバイザーをやっています。

他にも、ブロックチェーン、シェアエコ、ドローン領域のシードスタートアップを中心にエンジェル投資して、起業家の壁打ちや事業支援をしています。

経営や投資を通じての日々の学び、気付きや自分の頭で考えたことをnoteにまとめていきます。

◎ 実行とは何か?

みなさんは『実行』とは何か、と問われたらどのように答えるでしょうか?

ここ数年、複数企業のアドバイザーをやっていく中、芽生えた問いの1つが「実行力ある組織と実行力のない組織の違いは一体なんなのか?」でした。

それぞれの組織の違いを知る上でも、比較する上でも、そもそも実行とは何か?をまず自分自身が腹落ちし、理解することが必要でした。

スクリーンショット 2021-01-04 16.05.23

実行とは何か、という問いについて一番しっくりきて、納得する指針となった言葉は、「経営は実行」の著者であるラム・チャランが定義した以下の一文でした。

「実行とは、何をどうすべきか厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を決める体系的なプロセス」

学生であれ経営者幹部であれ、「実行」の本当の意味を明確に理解している方は少なく、具体的な意味を話せる人はおらず、また、失敗の原因が「実行」とあげる人でも、定義を尋ねると明確に答えられる人はいないと。

また、著者は、実行とは現実と向かい合い、現実に働きかける体系的な方法とも定義していて、現実と真正面から向き合っている企業が少ないことが実行できない基本的な理由だとも言っております。

この記事では、先にあげた定義をもとに、実行というプロセスがうまく働かなくなるメカニズムと、その解決方法について考察していきます。

◎ 実行力がない組織で頻繁に発生すること

以下の悩みに出くわしたことのある経営者や管理職の方々は多いのではないでしょうか?ぜひ、ご自身の組織での具体例を思い浮かべてみてください。

【未着手】指示を出したプロジェクトの進捗が報告されないと思い、確認するとほとんど手をつけられていない状態で止まっていた、、、
【未成熟】依頼したことと出てきたアウトプットの内容やイメージが違う。しかも提出が締め切り間際であったため、意図と違う、妥協したそのアウトプットでFIXせざるを得ない、、、
【無反応】会議やレビューの場が一方方向で、ただ聞いて、座って、反応や質問もないため、理解しているのか、当事者意識があるのか、わからないまま進む、、、

もちろん、これらのトラブルが起きる要因はたくさんありますが、共通点としては、全て組織における実行力の不足によって引き起こされています。

実際に私の周りの経営者でも、この悩みを抱えている人は多く、ある種『経営者あるある』のようなものなのではないかと思います。

そして、この記事を読んでくださっている皆様の中でも、自信を持って『うちの会社は実行力がある』と言い切れる会社は少ないのではないでしょうか?

巷には「経営戦略」「マーケティング戦略」「問題解決」のためのメソッドを指南するビジネス書があふれ、ビジネスパーソンはこぞってノウハウやフレームワークを習得しようとします。

一方で、それらのうち『実行』に重きを置いたメソッドやノウハウは非常に少なく、あまり重視されている様子はないです。

また、経営、マーケティング、アカウンティング、ファイナンスなどの領域と比較しても、「実行」についての体系的な情報は不足しているように感じます。

経験値と簡易調査した限りでは、以下のような状況でした。

・経営学の花形は経営戦略やマーケで、実行やオペレーションは脇役、不人気である。

・Amazonで「実行」と検索してもヒットする本が少ない。

・MBAでも、実行力についてののカリキュラムがない、または少ない。

ここまで実行とは何か、については触れずに述べてきましたが、ここからはそもそも実行力とは何なのかについて考えていきます。

◎ 実行力を高めるために必要なこと

前段にご紹介した言葉の解釈も含め、実行力とは『経営者が求めているアウトプット像を、コミュニケーションを通じて解像度を高め、絶えずフォローしながら実現する力』だと考えています。

経営者は、誰よりも四六時中、事業のことを考えており、目の前の作業レベルではなく、中長期的な視点で事業がどうあるべきかを抽象的に、俯瞰して考える時間が多いです。

一方で、現場では目の前の作業レベルでの思考や具体的な実行イメージに陥ってしまうことが多く、経営者が考えているような視座・視野・視点で物事を見ることができないことがあります。

画像4

つまり、そもそも考える対象が異なっており、大きなギャップが生じているため、中途半端な議論や意思疎通では意図や背景が伝わらず、うまく噛み合わらないです。

このような前提のもと、経営者が考えていることを実現するために必要なのは、経営者が立てた戦略、戦術を噛み砕いて現場・作業レベルに落としていくための厳密な議論や伝達手段の工夫です。

普段、考えていることの対象が異なっている以上、同じ目線で議論するための土台や、実行のための工夫が必要です。

では、どのような工夫をしていけば良いのでしょうかか。冒頭に紹介した、「何をどうすべきか厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を決める体系的なプロセス」という言葉に沿って、どのような工夫が必要であり、実現可能なのかについて紹介していきます。

● 何をどうすべきか厳密に議論 ➡︎ 議論の基礎となるたたき台(アウトプット)を作ること。互いにイメージが頭の中にある状態では、具体的な話をすることや議論を発展させることが難しい。仮のものでいいので、まずアウトプットのイメージを作成してから議論に望むことで、目線と認識を揃えることができる。

● 質問し、絶えずフォロー ➡︎ メンバーから作業レベルでの質問をするだけではなく、双方向的に、頻度の高い議論や質問によって、目標とするビジョンからずれていないか、適切なタイミングによる確認と軌道修正を行う。

● 責任を決める ➡︎ 徐々にオーナー意識を各メンバーに移管、伝播させる。目線を揃えた上で、作業レベルではなくミッションレベルでの目的意識を共有し、各メンバーがどのような目的について責任を負っているのかクリアにすることで、作業漏れなどを防ぐことができる。

この一連のプロセスがどこか一部分でもうまくできていないと、アウトプットされる速度が遅くなってしまったり、アウトプットそのものができなかなってしまう場合もあります。

先ほど紹介した例のように、作業完了の報告を受けて確認すると、求めていたものと全然違っているものが出来上がっている、という経験をされたことがある方も多くいるのではないかと思いますが、これは上記で説明した一連の実行プロセスがうまく機能していないからです。

画像4

「何をどうすべきか厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を決める体系的なプロセス」を体現することで、初期の段階で綿密に品質の作り込みが可能になり、結果的に手戻りが少なく、経営の意思や意図を汲み取ったアウトプットに変換することが可能になります。

◎ なぜ実行力には目が向かないのか?

ここまでご紹介した課題は、むしろ認識していない方の方が少ないのではないかと思います。一方でしっかりと対策できている方は少ないのではないでしょうか?

ではなぜ実行力に目が向かないのか。そこにはいくつかの要因があると考えています。

1 / 体系化できないから?
経営、アカウンティング、ファイナンスなどは方法論が体系化されていて、再現性がある一方で、実行は環境、制度、人、文化、戦略、業界・業種など実行を規程する要素が多いため、抽象化して方法論に落とし込むのが難しいのではないか?

2 / 地味なことだから?
ここまで述べたことは、そこまで真新しい内容であったというわけではない。一方で、知っていることと実現できていることは違う。出来ているつもりになっていても、出来ていなかったり、知っているが、やっていなかったりするのではないか?

3 / 意味がないと思われているから?
実行力は一朝一夕で身につくものではなく、即効性がない。即効性がないものは意味がないもの、優先度が下がる傾向にある。
実行力の浸透・向上には多くの時間がかかり、非常に魅力的な活動で尊いものであるのだが、即効性がないために、腰を据えてじっくり考える機会が生まれにくいのではないか?

これらの理由に共通する点として、実行力は実体を捉えることが難しく、即効性がないという点があります。

スクリーンショット 2021-01-04 16.09.11

その特性から、重要であることは理解、納得はされるが対策や改善における緊急度が低く見積もられ、他のタスクと比較して優先順位が上がり切らなかったり、そもそもどのように対策すればいいのかがわからない現状が想像されます。

では実際のところ、実行力はどのように重要になってくるのでしょうか?

◎ これからの時代、なぜ実行力は重要なのか?

この問いにシンプルに答えると『戦略のコモディティ化のため』になります。

多くのコンサルティングファームで人員が増大していることに加え、それらの企業出身の人材が各業界、業種で戦略立案をもとに活躍している世の中になってきています。

限られた人々の考える戦略そのものが価値を発揮していたかつての時代とは異なり、情報の非対称性による差別化(クライアントの知らないことを知っていること)は、インターネットの出現で、また、情報の掛け合わせによる差別化(クライアントは知っているが気づかない洞察をすること)は、コンサルタントの内製化によって、戦略のコモディティ化が進んでいます。

戦略がコモディティ化している状況では、次に戦略をいかに早く、正確に実行されるかが重要になることは想像がつきます。

また、最近のスタートアップの事業テーマもインターネット・デジタルで完結したビジネス領域が浸透しており、未開拓の領域であるリアルとネットとの融合領域のビジネスにシフトしてきています。 

従来のデジタル完結型の業務変革、デジタル化ではなく、よりリアルに仕組化され、組織化された実行力での戦いが主戦場になってくると考えています。

戦略と実行力が融合したビジネスモデルによる競争力が問われる現代、 そして戦略がコモディティ化し、より実行力の重要性が高まった近年では、組織の実行力がビジネスモデルの最大の制約条件になり、逆に実行力こそが最大の差別化要因になっているのです。

このような重要性を持つ『実行力』は、先述したとおり醸成に時間がかかります。実行力で差別化をするためには、早急に対策をとって、解決に向けて動き出すことが必要です。

◎ まとめ

今回の記事の内容を、箇条書きにしてまとめました。

・実行力のない組織では、【未着手】【未成熟】【無反応】による期待されているアウトプットが出てこない問題が生じる。
・経営者と現場担当者との間に生じる視座・視野・視点の違いや差によって、円滑に実行されない。
・実行とは、「何をどうすべきか厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を決める体系的なプロセス」であり、目線合わせのために議論を重ねることが重要。
・実行力は醸成に時間がかかり、そのため対策の優先順位が後回しになるが、戦略がコモディティ化される現代では、実行力こそが大きな差別化要因となり、早急に実行力のある組織の構築が必要である。

最後に、Twitterで毎日ベンチャー経営やエンジェル投資を通じての『学び』や『気付き』について投稿しています。

宜しければフォローお願いします!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?