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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果 ①離婚後の監護の態様

父母の離婚後の親権制度や子の養育の在り方について、法務省が外務省に依頼して行っていた海外法制調査の取りまとめ結果と、結果の概要が本日公表されました。

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これは法務省が、離婚後の親権制度や子の養育の在り方について、外務省に依頼してG20を含む海外24か国の法制 度や運用状況の基本的調査を行ったものとなります。

法務省の資料は国ごとにまとめられていますが、項目ごとに各国を比較したいと思いnoteに纏めました。

①離婚後の監護の態様

【北米】 

第1 アメリカ(ニューヨーク州)

・監護(custody)※1 には、法的監護身上監護がある。離婚後は、法的監護・身上監護について、単独及び共同での行使が認められている(家族関 係法第240条)。なお、全ての監護及び面会交流に関する裁判において、家庭内暴力の有無が考慮されなければならない(同条)。 

・ 法的監護については、両親が敵対関係にない場合のみ、離婚後も、両親 が共同して行使することになる。 

身上監護は、子と共に居住する権利であり、子と一緒に住んでいた期間が長い方の親が取得する傾向にあるという。 

※1 アメリカ法の親権及び監護概念については、山口亮子「アメリカ」各国の離婚後の親権 制度に関する調査研究業務報告書(平成26年)95頁以下参照。

第2 アメリカ(ワシントンDC) 

・ 監護には法的監護(Legal custody)身体的監護(Physical custody)があり、離婚後に共同行使するものについて、条文上限定は加えられていな い。 法的監護とは子に対する法的な責任を意味し、子の健康、教育、一般的な福祉に関して決定する権利、子の教育、医療、精神状態、歯科治療、その 他の記録にアクセスする権利並びに学校職員、医療提供者、カウンセラー及びその他の子と交流する者と話をし、それらの者から情報を入手する権利が含まれる身体的監護とは子の住居形態を意味し、子の住居や面会交流のスケジュールが含まれる。 

第3 カナダ(ケベック州) 

・ 離婚後も両親は共同して親権(parental authority)を行使する。

 ・ 離婚の申請があった場合には裁判所は配偶者間に合意があるときは それを考慮し、また、子の利益と権利を尊重することを重視して子の監 護(custody)及び教育についての裁定を行う必要がある(州民法第51 4条,第521条)。 

第4 カナダ(ブリティッシュコロンビア州) 

・ 子と同居していた親は離婚(別居)後も子に対して監護権 (guardianship※3)を有する(州家族法第39条第1項)。各監護者は、監護者間の合意又は裁判所による異なる決定がなければ、その協議が不合理又は不適当でない限り、他の監護者との協議により、親権(ブリティッ シュコロンビア州では親責任(parental responsibilities)という用語が採用されているが、本報告書においては、以下においても、「親権」と 記載する。)の全てを行使することができる(同法第40条)※4。 子の監護者(guardian)のみが親権を行使することができる(同条)。 なお監護者の合意又は裁判所の決定により一人の監護者が単独で親権の全部又は一部を行使することや、監護者が共同で親権の全部又は一部を行使することを定めることもできる。

 ・ 連邦離婚法においては子についての決定責任(decision-making responsibility※5)は両親の双方又は一方に付与することができるとさ れている(離婚法修正第16.3条)。 

※3 従前”custody”という語が用いられていたが、2013年の改正により州家族法に おいては“guardianship”が用いられるようになった。 

※4 親権行使の具体的な内容は州家族法第41条に列挙されている。例えば日々の子に 関する決定及び子の世話・監督、子の居所の決定等が挙げられる。 

※5 連邦離婚法においては ”custody”に代わって”decision-making responsibility” が用いられるようになった。Decision-making responsibility を有する親は子の健康、教育、文化・言語・宗教・精神、課外活動について子の福祉を考慮して決定を行う。

【中南米】

 第1 アルゼンチン※8

 ・ 離婚後も両親が親権(アルゼンチンでは「親責任」という用語が採用されているが、本報告書においては以下においても「親権」と記載す る。)を行使する。ただし、両親の意思又は裁判所の決定により子の利 益のために、親権の行使は両親の一方により又は様々な形式で行使させることができる(民法第641条)。なお裁判所は不可能又は子に有害でない限り全ての子について親権の共同行使を許可しなければならないとされている(同法第651条)。

 ・ 通常は監護者を決定するが両親共に監護者とすることも認められて いる※9。

※8 西谷祐子「アルゼンチンの離婚及び別居法について」家裁月報59巻4・5号1頁。 

※9 なお,西谷・前掲注 8)によると,5歳未満の子については原則としては母の監護の 下に置かれるという民法の規定が存在するようである(民法第206条第2項,第217 条)。 

第2 ブラジル※10

離婚後も両親が子に対して家族権を有する。 

・ 両親は離婚後の子の監護について共同監護か単独監護かを選択する ことができるが、原則として共同監護である。いずれの形態にするのかは、離婚の訴訟において両親の一方又は双方が両者の合意に基づく申請(民 法第1584条Ⅰ),又は裁判官の宣告(同条Ⅱ)により定められる。裁判官は「子の監護に関し父母の間で合意が成立せず、父母共に家族権 を行使することができる条件にある場合には父母のいずれかが裁判官 に対して子の監護を望まないと宣言する場合を除き、共同監護を適用する」(同条第2項)。 

※10西谷祐子「ブラジルの離婚及び別居法について」家裁月報58巻4・5号1頁以下。た だし同論文の公表後ブラジル民法は改正が行われているようである。 

第3 メキシコ 

父母は離婚後も共に親権を有するが、監護権についてはいずれか一方の みが有する。 監護権について父母が協議を行いいずれが取得するかを決定するが、合意に至らない場合には、父母、子及び専門家の証言に基づいて民事裁判に より決定される。 財産管理権については離婚後も父母が共に有する(ただしいずれか一 方の親が親権を法的に停止された場合はこの限りでない)。 

【アジア】 

第1 インド※12 

 離婚後は,原則は単独親権である(判例)なお共同監護を認めた判例 もある(2013年カルナカタ高等裁判所判決)。 

※12 インドの家族法は宗教法(ヒンドゥー教徒家族法、ムスリム家族法、キリスト教徒家 族法、パールシー教徒家族法、ユダヤ教徒法)及び慣習法から成り、多様なものであるよ うである( 「インド家族法(2017-18年版) (1)」戸籍時報761号13頁以下) 。 

第2 インドネシア 

両親は,離婚後も共に親権(インドネシアでは, 「養育権」「養護・教育 を施す義務」等の用語で規定されているが本報告書においては、以下にお いても「親権」と記載する。)を有し、親は子の法律行為を代理する。 しかしインドネシア児童保護委員会(KPAI)が扱っている多くのケ ースでは、養育している親が子に関する事項を決定し、共同で親権を行使することはまれである。共同で行使する場合も、片方の親がより支配的地位を 占めており、父母の間で合意に至らない場合には、支配的地位にある親はその地位を更に強化することを求めることができる。他方の親は生活費の 負担や限られた親権を行使するのみである。ここでいう「支配的地位を占める親」とは多くの場合「より経済力のある親」を意味する。 また離婚問題に関して父母のいずれかの過ちがより大きいということがない場合には、子の名字が判断材料の一つとして利用され父方が親権を得 ることが多い。

 第3 韓国 

2012年4月13日の大審院判決により共同親権が許容されて以降、両親の同意により共同親権・単独親権さらには共同養育など多様な形態を定めることができることとされている。裁判離婚においては単独親権の指定を原則としているが、協議離婚(韓国における協議離婚は,後記 3のとおり裁判所が夫婦の離婚意思の確認をする点で日本のそれとは 異なるが、本報告書においては以下においても「協議離婚」と記載す る。)においては共同親権とする事例が相当数ある。 

・ 単独親権でも共同親権でも親権の効力には変更がない。

 ・ 両親は離婚に際して子の養育に関する事項(養育者,養育費,面会 交流に関する事項)及び親権者に関する事項を決定しなければならない。

第4 タイ※14 

共同親権・単独親権のいずれも許容されている。

 ・ 親権を有する者は子の居住地の決定、しつけ及び労働の要求、子を不法に拘束する者からの返還要求に関する権利(民商法典第1567条)並 びに子の財産管理権を有する(同法典第1571条)。共同で行使する親 権の範囲は,当事者の合意又は裁判所の決定による。

 ・ 具体的な親権者・養育者の決定方法は協議離婚と裁判離婚とで異なる。

※14 ヴィチャ・マハクン(大川謙蔵訳) 「タイ家族法(2017-18年版)(3)」戸籍時報 764号2頁以下に条文の邦訳が一部掲載されている。 

第5 中国 

子に対する権限及び義務は離婚によって変更を生じない。理論的には父母の離婚後も、父母が監護教育権及び財産管理権の双方を共同行使する。 父母は子の「監護者」とされ「監護者」の責務は被監護者を管理、教育し、被監護者に代わり民事活動を行い、その人身権、財産権及びその他の合 法的権益を保護することとされる。 

第6 フィリピン

 親は子に対する監護教育権、財産管理権及び法定代理権を有し父母の 婚姻関係解消後も双方が親権を持ち続ける。子がどちらか一方の親と共に 生活していても生活していない親も親権を有する。 

【欧州】 

第1 イタリア※15

 別居・婚姻の解消においても両親は親権(イタリアでは「親責任」という用語が採用されているが、本報告書においては以下においても「親権」と記載する。)を共同で行使する(民法第317条の3)。原則として両親の離婚後も双方に子についての義務が帰属する共同分担監護が選択さ れる(同条第1項)。子の利益に反する場合にのみ単独監護となる(同法 第337条の4第1項)。 

両親の合意が必要な事項子の重要な利益に関わる決定(教育,健康,子の居所の選択)について は両親の合意により親権を行使しなければならない(同法第337条の 3)。これらの事項について両親が合意しない場合には、その決定は裁判官に委ねられる。

 ⑵ 単独での行使が可能な事項通常の管理に関する事項が該当する。通常の管理については裁判官は 両親が親権を各々で行使することを決定することができる(同条第3項 4文)。 

※15 椎名規子①「イタリア」床谷文雄=本山敦編『親権法の比較研究』(日本評論社,20 14年)202頁以下、同②「離婚後の共同親権:イタリアと日本の法制度の比較におい て」戸籍時報702号24頁以下、同③「離婚後の共同親権―イタリアにおける共同分担 監護の原則から」法と民主主義447号28頁以下。 

イギリス(イングランド及びウェールズ) 

離婚後も両親のそれぞれが子に対して親権(イギリスでは親責任 (parental responsibilities)という用語が採用されているが本報告書においては以下においても「親権」と記載する。)を行使する。なお、親権を有する者は原則としてそれぞれ単独でその親権を行使すること ができる。 

・ 両親は離婚時に子が誰と住むか、子が誰といつ一緒に過ごすか、子の養育に関する経済的な負担等親権の行使の具体的な方法について、調 整又は取決めをする。この調整又は取決めは①両親の合意によってする ことができるが、合意が成立しない場合には②調停による調整が行われ (2014年子及び家族法第10条)③調停が成立しない場合には、両 親は裁判所に子に関する取決決定の申立てをする(1989年児童法 第8条)。なお裁判所は両親の合意を促し、これにより両親間におい て合意に達し、かつ、当該合意内容が子の福祉にとって問題がないと認め られる場合には手続を中止する。

 ・ 子に関する取決決定においては子が誰と住むか、子が誰といつ一緒に 過ごすか、誰といつ面会するのかについて定められる。そのほか裁判所 は申立てにより親権の行使に際して生じた又は生じ得る特定の事項 (子の氏の変更等)に関する決定や禁止措置決定をすることができる。 

・ 決定においては子の意思・意見、子の身体的・心情的・教育的な必要 性、環境の変化が子にもたらす影響、子の年齢・性別・性格・生育環境、子への危険性、子の要求に対する親の適応能力、裁判所の決定の実効性等 が考慮される(同法第1条(3))。 

 第3 オランダ

両親は離婚後も共同して親権を行使することが原則である(民法第25 1条第2項)。単独親権にするためには両親の一方又は双方の申立てに基 づく裁判所の決定が必要であるが、厳格な規定が存在する(同条a)※21。 

※21 ①両親の間に挟まれて子が迷い又は身動きが取れなくなるおそれがあり、その状態が近いうちに十分に改善されることを期待することができないとき、又は②子の最善の利益に照らして親権者の変更が必要なときにのみ単独親権とされる(民法第251条a第1項)。

第4 スイス※22 

別居時・離婚後も共同親権を原則とし単独親権は例外となる(民法第 296条第2項)。単独親権となるのは、子の幸福を確保する上で必要な 場合に限定される(同法第298条第1項、第298条b第2項、第29 8条c)。共同親権を有する親が別居する場合には、養育について決定する必要があり単独養育又は交互養育が行われる。 

・ 親権の内容である子の居所の決定、扶養・養育の実施,第三者に対する 子の代理、子の財産管理の全てが共同親権の対象となる。基本的には全ての内容を両親が共同で決定することが必要であるが、両親が別居しており話合いをすることが難しい場合には子を養育する一方の親が単独 で必要な又は急を要する事項について決定し、他方の親が合理的な異議 を申し立てないことをもって有効とする措置が認められている(同法第 301条第1項)。 

第5 スウェーデン※24 

離婚後も両親が合意をすれば、親権を共同行使するものとすることが できる。 

・ 両親が親権を共同行使する旨の合意をしない場合は

裁判所に決定を求めて申立てをする

②両親のそれぞれが親権を保持したまま、親権の行使について争いが生じたときは両親の合意により解決することになる。


①裁判所が決定をする場合には、両親が合意可能な解決を追求することが目的とされ、子の最善の利益が最も重視される。両親との緊密で良好 な交流のための子のニーズに対する特別の注意が必要とされ、両親の一 方が他方の親と子との交流をどの程度認めるかということも考慮しなけ ればならない。 

②両親の合意による解決を図る場合には社会福祉委員会が当該合意 を承認する必要がある。社会福祉委員会の承認がされた場合には当該合 意は法的拘束力を有するため、合意は両親の署名の付された書面により作成されなければならない。なお、社会福祉委員会は,合意された内容が 子の最善の利益にかなうものである場合、又は合意が共同親権を目的と するときにはこれが明らかに子の最善の利益と相いれないものでない場 合には、その合意を承認しなければならない。 

※24千葉華月「北欧法」床谷文雄=本山敦編『親権法の比較研究』(日本評論社、2014 年)254頁以下、髙橋睦子「面会交流と子どもの最善の利益」法律時報85巻4号63 頁以下。 

第6 スペイン

 両親はいずれも離婚後も親権を有することができる(民法第92条第1 項)。ただし子の利益を考慮して、当事者の合意又は裁判所の決定により単独親権とすることもできる(同条第4項)。 

第7 ドイツ

 ・ 両親は離婚後も親権(ドイツでは「親の配慮」という用語が採用されて いるが、本報告書においては,以下においても「親権」と記載する。)を 共同で行使することが原則であり(民法典第1687条)、一定の場合に単独親権とすることが認められている。具体的には両親間の協議により一方の親への権限委譲を行うことができる。協議が調わない場合は、申立てに基づき家庭裁判所が決定する。権限委譲は親の一方が同意しており、かつ14歳以上の子が反対していない場合、又は共同親権の終了や申 立人への委譲が子の福祉にかなうと期待される場合に認められる(同法 典第1671条第1項)。 

・ 共同親権の場合には、子にとって著しく重要な事柄26の決定には両親の 合意が必要である(同法典第1687条第1項第1文)。子の日常生活に 関する事柄については、同居親が単独で決定する権限を有する(同項第2 文)。 

第8 フランス 

離婚後も原則として両親が共同して親権を行使する(民法典第373- 2条第1項)。例外として子の利益に必要な場合には、家事事件裁判官は離婚後の親権行使を両親の一方に委ねることができる(同法典第373- 2-1条第1項)。 

第9 ロシア 

離婚後も両親が共同で親権を行使する。 

【オセアニア】 

― オーストラリア※27 

裁判所による命令がない限り離婚後も両親が子に対して親権を有する (家族法第61C条。なおオーストラリアでは, 「親権」ではなく「親責 任(parental responsibility)」という用語が採用されている。親責任とは親が子に対して有する全ての義務、責任及び権限であるが(同法第61B 条),本報告書においては、以下においても「親権」と記載する。 )。特に裁判所による養育命令(parenting order)により両親の均等な親権が定められた場合には両親は子の重要な長期的事項(どの学校に進むべきか、 医療上の決定等)について協議の上、共同で決定をしなければならない(同 法第65DAC条)。 

※27 小川富之・宍戸育世「オーストラリア」各国の離婚後の親権制度に関する調査研究業務 報告書129頁以下も参照。 

【中東・アフリカ】

 第1 サウジアラビア 

子が判断能力を有する年齢に達するまで(一般的に7歳程度とされてい る)は、母が再婚するか又は不適格である場合を除いて母、の監護(custody) が優越する。母はシャリーア(shari’a)の原則(コーランと預言者ムハ ンマドの言行を法源とするイスラム法)に基づいて、単独で又は裁判官が命 じる場合には父と共同で親権を行使し教育や子の財産の管理等を行う。 

第2 トルコ

 トルコ民法第337条は例外的な場合(母が若年死亡、親権を取り上 げられている場合等)を除き、母が親権を有すると規定しており共同親権を認めていない。 

第3 南アフリカ 

両親の離婚後に共同で親権(guardianship)を行使することが認められ ているが共同親権となっても父母は他方の親の同意が必要とされる特定の事項30を除き、単独で親権を行使することができる。







 










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