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彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その25 - イントロと第二間奏部を比べてみると)

その24からの続きです。


前回までのぶんの後、曲はこんな風に様相を変えます。



♪ じゃっじゃっじゃっじゃっじゃっじゃっじゃっじゃっ


譜面にすると、こんな風。


ちなみに私の判断で、原曲より音符をかなり減らして、分析しやすいようにしてあります。

ドレミを入れていくと…


何か見覚え、聞き覚えがありませんか。



ここですよ、ここ。イントロ部分。


ドレミを入れてみましょう。

青の音の、とりわけボトムの音の動き、よーくごらんください。

ファ ↗ ソ ↘ ミ ↗ ラ ↘ ソ


そしてこのパートと見比べてみましょう。


ドレミを入れてみましょう。下段から。


次に、上段にドレミを入れて…


緑で囲んだ部分にご注目ください。

ここ、本当はこんな風に音符が並んでいます。

下から順に読み上げると「ファ・ラ・シ・レ」ですが、この響きは「ソ・シ・レ・ファ」和音に「ラ」を挿しこんで、その後「ソ」をわざと抜いて、この緑で括ったように「ファ・ラ・シ・レ」に並び替えたものです。

これは高級な技です。「ソ」を鳴らさずに「ソ・シ・レ・ファ」和音(いわゆるドミナント和音)を成り立たせるという、上級者の裏技です。


これってどういうことかわかるでしょうか?この4小節においても、和声進行は…

ファ ↗ ソ ↘ ミ ↗ ラ ↘ ソ

で構成されている、すなわち、イントロ部分と同じ作りになっているのですよ。


聴き比べてみましょう。イントロと、第二間奏部を。



どちらも「ファ ↗ ソ ↘ ミ ↗ ラ ↘ ソ」の和声進行であるけれど、第二間奏部(上に貼った二つ目の動画のパート)では、「ソ」をあえて鳴らさないで、しかし聴く側の耳の奥で「ソ」を聴き取らせるという、どえらいことをなさっているのです。

こんなひねったことをしないで「ソ」をルート音に実際鳴らせばいいじゃん、と思われるでしょうが、鳴らさずにじらせてこの4小節ぶんの終盤(緑で括った部分)でようやく「ソ」を出すという、この心憎い演出ぶり、実に心憎い演出です。



さらに心憎いことを、作曲者はこの小節終盤でなさっています。「ラ ↘ ソ」の下降線がありますね。これが巧い!

「ソ」(青)と「レ」(赤)が縦に並ぶとき、この「ソ・レ」は「ソ・シ・レ・ファ」和音の構成音だからこの後ドミナント・モーションを起こして「ド・ミ・ソ」和音になだれ込む…と思わせて、この後この曲は「ド」ではなく「ファ」に進んでしまうのです。「ラ ↘ ソ ↘ ファ」の全音下降線(黒の矢印)だよーん、と。



「ははっ、どうだいワトソン君、世界広しといえども、モリアーテ…もといサカモト教授が仕掛けてきたこの技を、こうやって解読できたのはぼくら二人ぐらいだと思うよ!」


つづく


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