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装画(2冊連続)『二人の推理は夢見がち』『未来を、11秒だけ』-メイキング

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『二人の推理は夢見がち』
『未来を、11秒だけ』
著:青柳 碧人 氏
刊:光文社
発売日:2021/04/13 ・ 05/11
デザイン: : welle design 坂野 公一 氏

文庫版です。
単行本装画・雑誌連載中の扉絵から継続して担当いたしました。
ありがたいかぎり!

『二人の推理は夢見がち』
篠垣早紀
は泥酔して訪れたバーで、謎めいた男性・星川司と出会う。
彼は眠っている間に触れた物の記憶を、夢に見ることができるというのだ。
記憶と夢、現実を自在に行き来する特殊能力探偵コンビが謎ときに挑む。

『未来を、11秒だけ』
シェアハウス“FREEDOM TREE”の住人たちには秘密がある。本名。身許。ここに住む理由。11秒だけ、未来が見えること。
繁華街でトラブルに巻き込まれた早紀は、やがて彼らの秘密と、謎めいた失踪事件の存在を知り、司とともに真相に迫ろうとするが…


1:ご依頼

2ヶ月連続刊行
2冊並べると1枚の絵になるようにできたら嬉しい
・基本的には単行本と同じタッチ
・文庫の小さいサイズでも映えるよう、あまり細かく描き込みすぎない

納期
1冊め:約7週間
2冊め:↑から約4週間
(ただし2冊で1枚絵の場合、1冊めの刊行に合わせて調整)

単行本から文庫化する際、新鮮な印象にするためイラストレーターを変えるということもよくあります。
そこを継続してご依頼いただけるのは大変嬉しい!
(このシリーズは雑誌連載中からイラスト担当していたのでなかなか長いお付き合いになります)


2:アイディアスケッチ(約2週間後)

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ざっくり4パターンくらい。
「メインキャラ2人+人形1体」と、「夢を見せる慰留物・時間を暗示する数字」の構成が基本です。
本シリーズの主人公「早紀」と「司」は恋人関係というわけではないので、手を繋いだり見つめ合ったり…という絡みで2冊をまたぐ構図はしっくりこず、「2冊セット感」をどう出すかは悩みどころでした。
また、単行本は引きの構図だったので、文庫では顔を描きたい!という思いがありました。


3:フィードバック(約3日後)

D-①案を採用
デザイナーの坂野さんからのコメント
「全体をパッと見て目を惹いたのはDでした。
まず二人が背中合わせに立っているようで、実は仰向けで背中合わせになっている状況が面白いです。次元違いの不思議空間にいる二人なんてイメージも見えてきます。
タイトルスペースも有効に取れますので、非常にバランスよく仕上げられそうです。」

余白が大きい、単行本の雰囲気を踏襲したものが選ばれたかんじですね。
(最初のご依頼でも「白を基調とした、抒情的な雰囲気」をとのオーダーでした)

アイディアスケッチを踏まえてのご要望
・背景は無地(かあっさり目)
・早紀の手に懐中時計を持たせ、それが司の胸あたりで揺れているように見せる(このアイテムによって背中合わせのベクトル感を補強することも出来ますし、時間の継続やバトンを渡すようなイメージも付加されます。
何より二巻の横断感が強まるかと)
・早紀の目をもう少し柔らかな印象に

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タイトルや時計の入り方のイメージ画も添えてくださいました。
ありがたい!

目付きについては私の手癖が出るのか、早紀さんはつい挑むような吊り目で描いてしまいがち…(別にそんなきつい性格の女性ではないんですが)
タイトルは「夢見がち」ですが、夢から醒めて現実の事件を解き明かすお話なので、早紀さんはハッと目を見開いてこちらを見据えるイメージです。
司さんはまだ謎の多い人物なので、目を閉じた横顔や後ろ姿が映えるイメージ。

4:ラフスケッチ(約3日後)

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物語のキーアイテム(キーパーソン?)となる腹話術人形の「マイク」も追加。人形なしバージョンも一応作りましたがやっぱりマイクがいたほうがいいということでこちらを採用。

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背中合わせの二人をどれくらいくっつけるか、司の視線をどうするか…などでも差分を作ってみたり。

5:フィードバック(即日)

司の手と懐中時計との絡み感の向上といいますか、もう少し検討していただいてもよいでしょうか。
いっそ手で受け止めようとする瞬間にするとか(ノールックのままで)。
帯を巻いた際の上下巻の密度感も揃ってきます。

この時点でレイアウトラフを数パターンいただけたので楽しかったです。

6:推敲ラフ(約4日)

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司の手のポーズ、これも3パターンくらい作りましたが、帯を巻いて2冊並べて見たバランスなど考えがら「両手で包み込むような形」に落ち着きました。
これでOKが出たので本制作に入ります。

7:シャーペンで作画

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印刷したラフをトレースダウンします。
最近は薄くて透けやすいコピー用紙に描くことが多いです。
描き上がったらスキャンして線画データにします。

8:Photosopで作画・着色(約20日)

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懐中時計など無機物はPhotoshopで描きました。
早紀さんの鼻と逆光の処理にちょっと迷ったのですが、(今まで鼻は省略してしまっていたので)これくらいなら今までと似た雰囲気のまま臨場感が出るのではと。

9:修正・納品(翌日/ご依頼から約7週間)

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「早紀の目が斜視ぽく見えるかも」とのご指摘を受けて修正。
(自分じゃ気づかないものですな…お恥ずかしい)

左右で独立した絵っぽくも見えますが時計や髪の毛でつながっているので、結局1冊目の刊行に合わせて1枚絵での納品となりました。
この頃は『三毛猫ホームズの事件ノート』シリーズなど点数が多い・タッチの全然違うお仕事が同時進行していたので楽しいやら大変やらでした。


10:完成

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余白が眩しい、上品な仕上がり。
単行本はツヤツヤと光沢のある紙でしたが、文庫版はやわらかな印象の紙でした。
こんなご時世なので本屋さんにもあまり行けてないけど、2冊並べて置いていただいてるのを見かけるととても嬉しい。

特に『二人の推理は夢見がち』のほうは
「タイトルとイラストからふんわりかわいいお話かと思ったら、意外とドロドロしてた」という感想を見かけます。
確かにそこはミスリードぽいかも(笑)。このシリーズ、夢にまつわる特殊能力がいろいろ出てくるんですが、起きる事件や人間関係は非常に世知辛く現実的なんですよね。最初に「上品に、繊細に、抒情的に」とオーダーされていなければもっと怖〜いかんじに描いたかもしれません。
けれど決して辛いだけでなく、ラストは希望を感じさせるのも2冊共通なので。読み終わった後、ほっと一息ついていただけたら嬉しいです。



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