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イヤホンをなくした


右耳のBluetoothイヤホンをなくした。


1年半前くらいに買った8000円のノイズキャンセリング機能付きのBluetoothイヤホン。
半年前に左耳のイヤホンを洗濯してしまって、それっきり役目を果たしてくれることはなくなった。
それ以降、ずっと片方だけつけて音楽やラジオを聴いている。

今日、2限に中国語のテストがあり、少し早めに教室に入り、テスト範囲の教科書の音源を聴きながら最後の追い込みをしていた。
授業時間が始まり、10分ほど見直しの時間を先生がくれたので、つけっぱで勉強していたが、テスト用紙が配るという合図が聞こえたのと同時に急いでリュックの中に放り込んだ。

テストが終わり、同じクラスの子とカフェで昼食をとり、3限は空いていたので一緒に自習をしていた。音楽が聴きたくなり、イヤホンを探した。



ない。


リュックの隅々、ポケット、全部探したけど、どこにもない。





高校生の時から、自分の殻の中に閉じこもるのが好きだった。イヤホンから流れる音楽やラジオが、この世のすべてのノイズを物理的にも心理的にもシャットアウトしてくれるから。両親とうまく喋れなかった私は、家でも欠かさずにイヤホンをつけていた。当時は有線だったけど。

大学に入っても、固定の友達と遊ぶとき以外は、基本イヤホンをしていた。自転車に乗る時もだ。万が一警察が通りかかって注意されないよう、キャンプ用のあごひも付きの帽子を被り、髪を下ろして右耳が隠れるようにしていた。安全には注意しながらね。




私の頭の中には私を模した私が2人いて、基本頭の中でその2人でずっと喋っている。物事が思うようにいかないと、すぐに反省会が始まり、いろんな可能性や選択肢を駆け巡っているうちに、自分のせいにして勝手に閉会して眠りについてしまう。当の私はエネルギーを使われた挙句には抜け殻のまま放っておかれるのだから、2人にはなんとかして欲しいんだよな。
自分のモチベーションを上げるために流行りの自己肯定感が上がるようなK-POPを聴いたりしていたけど、その効果は一時的なものに過ぎなかった。

決まり切った友達としかつるまないので、ゼミの集まりや、他の大学生と一緒になるような時、全然輪に入れず、気を遣いすぎてとても疲れてしまうことが多い。
てか毎回そう。

他人の話に笑顔で頷いて、自分は聞いてばっかりで。かといって自分は声も大きくないし、自分の話そんなに面白く話せないし、真面目なエピソードしかないから場が盛り上がらない。お酒を飲んで、楽しそうに酔っぱらっている他の人はすごいなと思う。こういう場になると、私は頑張らなきゃ、という気持ちが勝ってしまい、酔わないように、真面目に、慎重に、と自分を平静に保っている。結局、楽しくなかったな、向いていないんだよな、という気持ちで家路につくのだ。人の前で自分をあけっぴろげにできる他の子が羨ましくてしょうがない。

あぁ、みんな大学生活充実していて楽しそうで、彼氏もいるし、サークルも楽しそうだし、インターンだって始めていたり、コミュ力あるから将来も乗り切っていけるんだな、それに比べて私は、なにもなくて、自分の価値は1番自分が分かっているのに、他の人に伝わらなくて、伝えられなくて。
なんか、人間向いてないのかな。
イヤホンの下で、2人が反芻していくから、たまらず辛くなって、泣いてしまう。そんな6月だった。






イヤホンがなくなっても、そんなに探す気にならなかった。
ああ、神様が私からイヤホンを取り上げようとしているのだな、と思った。中国語のテストの教室になかったら、諦めよう。
なにかのいい機会になるかも、とちょっぴり思った。


結局、中国語の教室にイヤホンは落ちていなかった。
諦めて、久しぶりにイヤホンをせずに家に帰った。


頭の中の2人はなにか喧嘩をしたのか、何も喋らないから、帰り道が異様に長く感じたよ。


自転車に乗りながら、気付いた。私は、ただ生きているだけで、なんでこんなに自分を責めながら生きているのかな、って。
自分に足りないものを見出して、どうすればよいか解決策や正解を見つけるために同じようなことを反芻しているのが、結局自分の首を絞めていた。
自分が今持っているもの、あるものに目を向け、大切にして伸ばしていくことが、必要だったんだ。

家に帰って、久しぶりに料理がしたくなって、ボロネーゼを作った。
カフェで食べたボロネーゼが、1000円したのにあまりも少なくて、物足りなかったから。お母さんにもいいことできた気分。
とても美味しかった。また料理したいな。


久しぶりに私は、頭の中ではなく、私と真正面から向き合えたのかもしれない。頭の中の2人は、しばらくお休みしていてね。


そんな、イヤホンをなくした、1日だった。







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