あきぞらのはて。 -03-
その日の帰り道。
「…なぁ、ユリア。」
「はい、何でしょう?」
「さっきの子、何て名前だっけ?」
「え?…あぁ、ティラ・アリアスさんのことですか?」
「そ。…ユリアお前、分かっててやってんの?」
「……、何がでしょう?」
「無意識、か。」
「………まさか、彼女も?」
「…今んトコの俺の見立てでは、…多分。」
「…。………」
「…しかし、2回目ともなると、なぁ。…ユリア、案外仲間探すの得意なんじゃねーの?」
「え、…どうでしょう…」
彼女は、うーん、と唸ったきり、黙り込んでしまった。
「もうここまで見つかりやすいとさ、多分、そういう才能あるんだよユリア。」
「そう、でしょうか…」
「うん。俺、何だかんだ言ってユリアに見つけてもらってるようなもんだし。」
「……。」
「ま、………多分だから分かんねぇけど。あの子、空、好きだって?」
「まだそこまでは分かりませんけれど、…その、長と、」
「エリオットでいいってば。」
「…。…エリオットさんと、その。…似ているな、と思って。」
「ふーん。どこが?」
じ、とこちらを見つめるユリア。
「…こういうとこがか。」
「そうです。」
「ふーーん。…何でだろうなぁ。」
「…、さあ。」
「これで、俺らの一族じゃなけりゃ、『似たもん同士だなぁ』っつってやれんのにな。」
「…、そうですね。」
「忘れちまったのかなぁ…」
空は、夕暮れ。
相変わらず晴れ渡っていて、ゆったりと時間が流れている。
「ニンゲン達は今、何考えて過ごしてんだろうなぁ。」
明日のことだろうか。それとも過去のことだろうか。
「――朝も思ったんだけどさ。…仕事だの何だのって言って、すっげぇ忙しそうにしてたひととか。」
「はい。」
「…空、見れてんのかなぁって思って。…こんなにきれいなのに。」
「――そうですね。」
「忙しすぎんのもどうかと思うなぁ。…ま、俺らもある意味忙しいんだけど。」
「…同胞を、探さねばなりませんからね。」
「あー、そうじゃなくて…」
「…?」
「…宿題。手伝ってくんねー?」
「…は?」
「…。いーなーユリアは優等生だから。俺もそういう奴んトコ行けば良かったよ。な、頼むよ、手伝ってくんねー?」
「…いや、そういうのはご自分でなさらならなくては意味が、」
「自分で出来たら苦労しねーんだよなー。数学が致命的でさー。」
「…………。」
「なーだからさ、手伝って?マジ、ほんとお願い。お願いします!」
「………………………。」
ここまでされては、断る訳にはいかない。
…とりあえず。
「……頭を上げて下さい、エリオットさん。……そこまで言われてしまっては、私もお断りする訳には参りませんから。」
「え、マジ?やった!」
「…全く、そう簡単に頭を下げないでくださいね、貴方は長なのですから。」
「いやまぁそうだけどさ。今は“学生”だし。」
「いや、そういう問題ではなく、」
「あーもう細かい事はいいから!とりあえずユリアん家行っていい?…あ、ややこしくなるかな?」
「………。そうですね、…学校に戻って、図書室にでも行きますか?」
うへえ、と露骨にいやな顔をされた。
「え、あそこ喋っちゃ駄目とか言われんじゃねーの?」
「…勉学を指導するための会話ならば、ある程度は許されるでしょう。…居残りしている生徒も少ないでしょうから、迷惑をかけてしまう事もないでしょうし。」
「………。…んー。まぁ、良さそうなとこってそこくらいしか無いもんなぁ。…仕方ないか…」
「今度はエリオットさんが折れて下さると、有難いのですが。」
「…わかった。じゃ、戻るか…」
「はい。…分からない個所は徹底的に、やらせていただきますので。」
「え、いや、宿題だけでいいから。」
「そういう訳にも参りません。」
「…俺今不真面目キャラだからその辺、」
「それは、貴方が分からない振りをしていればいいだけの話でしょう。」
「…………う……」
「そうと決まったならすぐにやりましょう。善は急げ、です。」
「……………。お手柔らかにお願いします……」
――その日は暗くなるまで、図書室から声が聞こえていたとか、いなかったとか。
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