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あきぞらのはて。 -04-

「おはよう、リリカ。」
「ああ、おはよう。」

「ねえ、こないだ隣のクラスのひとに図書館で数学教えてたって本当?」
「え?」

「『何で知ってるの?』って顔じゃん。もしかして本当なの?」
「…そうだけど。それが何?」

「…そんなあっさり『何?』って。…噂になってるよ?」
「…? そうなの?」

「…。………ねぇ、もしかしてリリカって、相当ニブいの?」
「…………何が?」

「あ、ニブいんだ…ま、分からないならいいけど。…つまりそういう関係じゃないってことよね。」
「…どういう関係?」

「あーうん、こっちの話。」
「?」

「いいよ、分からないなら諦めて。…考えるだけ無駄だから。」
「…、そうなの。」

無駄、という流れに少しだけ、ひっかかるものを感じる。

「そんで、何でそんなことになったの?」
「え? …あ。…えーと…」

もともと、この“ふたり”には接点は皆無だった。
…取り繕わなければ。

「…この前教科書貸してあげたって言ったでしょう?」
「うんうん。」

「そしたら、何か頼られるようになっちゃって。それで、」
「『数学解んないから教えて』?」

「…そう。」

…良かった、どうにかなった。
そう安心する私を余所に何故かティラは、少し意地の悪い笑みを浮かべている……ように見える。

「へー。いいなぁリリカは。頭良いからそういうの、得意よねー。…ま、それはともかく。せっかくご縁が繋がったんだし、大事にするといいよ!」

意味が分からない。
とりあえず、何がそんなに楽しいのか聞いてみることにした。

「…どうしてティラが楽しそうにしてるの?」
「え?いやいや、気にしなくていいよ!」

…はぐらかされてしまった。一体何だというのだろう。
……私がニブいとか何とか、言っていたのもひっかかるし…

あ。
これは、あれか。
もしかして“冴えないリリカ”の私がお隣のクラスの男子とうんたらかんたら~とかいう色恋沙汰の話をしているのか。

何だ、身構えて損をしてしまった。
いや、そもそもこんなクラスの女子相手に身構える必要なんてあるのだろうか?
………私ってもしかして、相当おカタい女の子なのかもしれない。

「……ねぇ、もしかして隣のクラスのひとと私とが好き同士でどうこうとか、そういう話をしてるの?」
「あ、やっと気付いた? あの人、えーと…リオン・アヴィエ君、だっけ?あの人素敵よねー。」

そういう風に見られてるのか、彼は。
…いやしかし、それにしても。

「…どうしてそういう話になるのよ? 数学教えてただけなのに。」
「いやぁ、リリカはあんまり気にしてないかもしれないけど、リオン君はそう思ってるかもしれないじゃん。」

あくまでも仕事上の関係なのに、こう茶化されてしまっては集中できなくなってしまうじゃないか…
いや、こちらの事情など彼らには関係無いのだから、ある意味正常な反応とも言えるが。
…面倒なので、ここは逆手に取ることにしよう。

「………そう思ってるなら、出来るだけ邪魔しないでくれると有難いのだけど。」
「それもそうだよねー…ってあれ?リリカ、そんなつもりないんじゃなかったの?」

「そうだけど。…アヴィエさんも迷惑に思ってしまうかもしれないし。」
「…そんな心配しなくても、茶化したりしないってー。………遠くから見てることはあるかもしれないけど。」

「それが迷惑かもしれないって、言ってるのよ。」
「あ、やっぱり?」

ティラはさっきから、にやついている。

「………。悪いんだけど、その顔止めてもらえない?」
「勝手にこういう顔になっちゃうんだから、仕方ないじゃない。」

………気持ち悪い。
単刀直入に、彼女にそう言ってしまうべきか悩んだけれど、一応やめておくことにした。

と、いうか。

「そういえばティラ、あなたは数学の宿題ちゃんとやったの?」
「………あ。」

やっぱりか。
まったく、本当にリオンさん…もとい、エリオットさんと彼女は似ているらしい。

「ごめん、写させてくれない?」
「…先生が来るまでに写せるかしら?」

「そんなにいっぱいあった…!?」
「ええ。…確か、丸々3ページくらいあったと思うけど。」

「うわ…ヤバ…」
「…どうして数学の話題は出たのに、宿題のことはすっかり忘れてるのよ?」

「わかんない。とにかく、貸してねっ!」
「はいはい、どうぞ。…答え、間違ってたらごめんなさいね。」

「今はそんなこと、どうでもいいっ!」

……まったく。
そう言ってため息をついた私にはもう、教師の靴音が聞こえていた。

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