#0205【六千数百字の組織経営エッセンス(孫子、中国古典兵法書)】
1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。
今週は中国古典兵法書関連を紹介したいと思います。
第1回は武田信玄の「風林火山」の旗印にも引用された『孫子』を取り上げます。
孫子には二つの意味が込められています。書物としての『孫子』と人物としての孫子(=孫先生、子は敬称)です。人物の孫子の本名は孫武です。以後、書物は孫子、人物は孫武として用います。
孫武は、全十三篇による孫子を書いたと伝えられています。その理論書をもって名声を手に入れており、新興国家だった中国南方の呉(ご)の国に招聘されます。王様が孫武を謁見した際に、
「先生、先生の書物を拝読した。とても素晴らしい理論書ですが、実践となるとどのようなものでしょうか?」
これは、孫武は学者としては優秀かもしれないが、実務家としての能力はどうかという試しであり、王様からの挑発のようなものでした。孫武は可能ですと答えると、さらに王様は被せてこう言います。
「後宮(王様のハーレム)の女たちでも大丈夫か」
「調練次第で軍隊はいかようにでも」
「ではやってみてくれ」
孫武は、後宮の女性を集めて武器を持たせます。そして、自分は命令権者としての矛を持ちます。
女性の中から、王様のお気に入りの女性二名を隊長として、指揮をするように言い含めます。太鼓の音に合わせて動くように、指示を繰り返します。
しかし、本番になると女性たちは笑って孫武の言う通りに動こうとしません。孫武は立ち止まって、部隊長の女性二人も含めて女性たち全員に指示を徹底します。
ふたたび、太鼓がなっても女性たちはただ笑うだけ。ここで、孫武は矛を以て叱りつけます。
「一度目は、私の不備もあったかもしれない。しかし、二度も話を繰り返したのに、実行できないのは部隊長たちのせいだ。よって、部隊長を処刑する」
これを調練場の上から見ていた王様は慌てます。
「その二人は私のお気に入りだ。何とか許してもらえないか。」
「軍中にあっては王命を聞かず」と孫武は王様を無視して二人を処刑しました。
残った女性の中から再度部隊長を選び、太鼓をならすと女性たちは一糸乱れぬ統制の効いた行動を取ります。孫武は、王様のもとへと向かいます。
「調練は終わりました。王様の言うことも同様に聞きます。試してください。」
「先生それには及びません、先生の実践の力はよく分かりました。」
「王様は、理論は好きなようですが、実践となると怯むくせがあるようですね。」
このやり取りを受けて、王様は孫武を怨むことはなくむしろその実力に感銘を受けて、呉の将軍として重く用いました。なお、この時期に以前紹介した伍子胥も呉にいました。両輪を得た呉は国力を大きく高めたのでした。
彼の兵法書は、僅か漢字で六千数百字。しかし、そこには多くのエッセンスが詰められています。
みだりに軍を動かすことなく、動かす際にはすでに勝利を決した状態に持ち込んだ上で戦うことを説いています。もし、戦争をしないで勝つことができれば、それが最善であると説きます。
「百戦百勝は善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」
三国志で有名な魏の曹操が注釈書を記し、2500年の時を経た現在も『孫子』は経営戦略書としても有用であるとその輝きを残しています。
以上、本日の歴史小話でした!
(中国古典兵法書特集第2回:No.206【立身出世の体験談(呉子)】)
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