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Ⅱ型糖尿病のヒトは言うことを聞かない(ヒトが多い)

 最初に超大雑把に糖尿病を二つに分類しておきます。

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Ⅰ型糖尿病 自己免疫疾患
Ⅱ型糖尿病 生活習慣病によるもの
今回はⅡ型糖尿病の人の話です。


 紀元前の時代から糖尿病は存在していました。正確には今から3500年前からわかっていました。言い換えると紀元前1500年です。古代エジプト時代からすでに記録が残っている。患者の尿にアリがたかることで病気を判別された、貴族でかつ美食家がなる……古代人は糖尿病がすでに一種のぜいたく病であることがわかっていた。

 ちなみに日本の歴史上で公認されている初めての糖尿病患者は藤原道長です。これは御堂関白日記みどうかんぱくにっき といって平安時代に書かれたもの。世界最古の直筆日記とされ、ユネスコ記憶遺産に登録されています。もちろん国宝でもあります。道長は六十二才で死にましたが、日記には糖尿病としか考えられぬ症状が書かれています。私は古語は読めないので、研究者様の考察より抜粋します。(読むのがめんどくさい人は下にざーとスクロールして太字が始まるところから個人的な意見をお読みください)

① 喉が乾くため、大量に水を飲む
② 体力が弱って痩せてきた
③ 背中の腫物が治らない
④ 目が見えない
 糖尿病は膵臓すいぞう からインシュリンがうまく出されないために発症します。
 インシュリンは膵臓ホルモンの一種です。食事によって血液中のブドウ糖などが増えると、膵臓からこのインシュリンがだされブドウ糖は筋肉などの各組織に送り込まれます。しかしインシュリンが少なくなるか、出なくなると、ブドウ糖の行き場がなくなる。つまり血液中の糖分が多い状態が続く。基準値というものがあり、その範囲内だと健康、それを超えると糖尿病と判定されます。その状態が続くと、いろいろな合併症をおこします。
 平安時代の当時はインシュリンの概念はない。判別に使うヘモグロビン検査値の概念なし。それどころか血液検査自体ない。藤原道長は国で一番権力を持った大臣だったので、美食が過ぎたのでしょう。目が見えない……晩年は合併症を起こして相当に苦しんだだろう。


 さあ、私は今から平安時代の超有名人な権力者、藤原道長の病気を解説します。現在ならド庶民の私が道長の個人情報を晒してもクレームはつくまい。以下は上記の番号に準じます。
① インシュリンが出されないと、ブドウ糖が血液中にとどまり全身に行き渡りません。血中におけるブドウ糖濃度が濃くなると尿中に糖が出はじめ、多尿になります。結果脱水症状をおこすためにのどが渇きます。
② 食事を取ってもインシュリンが出されないと、血中にブドウ糖が流れるままです。つまりエネルギーとして使えません。自動的な応急措置として、体内の脂肪や筋肉のタンパク質をエネルギー源として使用します。結果、いくら食べても痩せてきます。危ないです。
③ 背中の腫物に限らず、糖尿病患者が怪我をすると傷の治りが遅くなります。血液中の糖が多いのは血糖値が高いこと。血管がぼろぼろになり、血流が悪くなる。血流障害と神経障害と免疫機能低下がセットになって、でてきます。単なる切り傷でもすぐに治らず、化膿しやすい。よって背中に腫物ができたら、そのまま治らない。道長はこれですね。
④ 怖いのがコレ。糖尿病は眼球内の毛細血管内にも影響を起こします。人によっては急に見えなくなる人も。そこまでいかずとも、黄斑に浮腫(水ぶくれ)が起こりやすく、浮腫になると神経の感度が低下します。 物を見ようとすると中心の部分がかすんで見えない、物がゆがんで見える、小さく見えるなどの症状が現れて、そのために視力が低下します。これを糖尿病黄斑浮腫といいます。
 黄斑とは眼球内の場所の名前です。眼をカメラに例えると、レンズに相当するのが角膜・水晶体、フィルムもしくはCCD(撮像素子)に相当するのが網膜。網膜には視細胞といって光を感じる細胞があり、これらは網膜中心部に密集している。この場所を「黄斑」と 呼びます。それが血糖値の高さゆえにこれらもダメージを受けるわけです。成人後に盲目になる人で一番多い理由がこれです。
 盲目までいくには、まず糖尿病網膜症になります。虹彩部分に新生血管という、正常では存在しない血管が出ます。合併トラブル開始です。
 このため、糖尿病になると定期的に眼科に通院して眼底検査をしてもらうのです。
 あとは腎臓にきたら、機能低下による腎透析が必要になりますし、脳にきたら脳梗塞になります。また認知症になりやすいです。だから糖尿病になったら、それ以上症状がすすまないようにするため、血糖降下剤を使います。このリスクを念頭において、治療をすれば決して怖い病気ではありません。

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 日本初の糖尿病公認患者の藤原道長みたいになりたくなければ、普段からの血糖コントロールをしっかりすればよい。それを知っているのと知らないのとでは、予後といって病気のその後が違います。だから糖尿病と診断されると教育入院を提案されることが多い。

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 しかし、医師や薬剤師、栄養士のいうことを聞かない人がいます。血糖値が高くても、暴飲暴食をやめない。自覚症状がないから危機感を持たない。今回のテーマがこれです。

 いいですか。医師や看護師、薬剤師や栄養士も入院中でない限り、よい年をしたオトナの患者に一から十まで介入しません。生活習慣病ですよと説明と注意はしますが、あとは自己責任です。


 初期の頃は生活態度を改めるだけで血糖値は簡単に下がりますので、それで調子に乗る、というのはある。多少暴食が続いても俺様が本気出せば、治ると。

 実例をあげると、私の父もコレでした。他人の実例もたくさん知っているけれど、差しさわりがあると思うので、亡父の話から読み取ってください。

 父はヘモグロビン値が11ありました。2ケタになるのは相当なものです。落ち着いた状態で8~9。医師からも注意は散々されても、また娘の私が「血糖値っ!!」 と叫んでも好きなものを好きなだけ食べる。食事を作る母にもちゃんとパンフレットを渡して注意もしますが「かわいそうやん」 と母の好きなものを作って父に食べさせる。

 母は大変に甘いもの好きなので夫婦してアルミで巻いてある羊羹をアイスキャンデーのように一本食いをしたり、赤福餅を一箱食べたりしていました。母は糖尿病ではなかったのですが、体重が3ケタでした。父は糖尿病の家系で、それで亡くなった人がいます。遺伝的素養もあるからこそ、私は忠告をした。それなのに……。

 最後はインシュリンを2種類、食直前に打っていました。インシュリンの打ち方もこれまた問題で、打ったと思えばすぐに離してしまう。これをすると、確実に決められた分量が体内に入らない。打ったかと思えばすぐに離すものだから、放物線を描いて周囲を濡らすインシュリン。なんというもったいないことを。だから実家にいる時は私がずっと打っていました。

 父の遺品には大量の血糖降下剤が残されていました。袋に入ったままの薬たちが……父は通院はしていたものの、ほぼ飲んでいなかった。そりゃ脳梗塞にもなるわと私は言いたい。

 私の忠告は聞き入れないくせに、医師だと同じことを言っても神妙に有り難そうに「はい」 という。この時の父の背中を今でも複雑な感情と一緒に思い出せる。最後は寝たきりで要介護五の状態で意識だけはしっかりしてた。数度の脳梗塞発作で最後は全身まひです。四肢も動かず、食事もできないので、胃瘻といって胃から直接チューブを通して流動食を入れてもらっていました。目薬も介護士さんにさしてもらわないといけない状態。会話もできない。全身麻痺、おむつ、流動食、それで長い一日を過ごす。そんな状態で長生きされてもかわいそうなだけです。私は父に昔のように菊の三本仕立てや金魚飼いに夢中になって、日々を楽しんで元気で長生きしてほしかった。

 私は母と一緒にいるのが息苦しくて、二十九歳で別居しました。それも父的には悪かったと思う。私は三十六歳で結婚、より遠方に暮らすようになり、最初の脳梗塞発作が私が三十七歳の時です。約二十年間の不摂生の結果です。真剣に薬を飲んでいたら、ここまでにはならなかった。若い時の私はまだ母親の人形で親に意見をするのも躊躇していたところもあって、こんな結末になった。今なお反省しています。

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 患者にはちゃんと治療に向き合ってないなとわかっても、「ええ加減にせえよ」 とは口が裂けてもいえません。だって、患者様ですから。I型糖尿病の人はともかく、長期に渡る不摂生の人、医師の言うことを聞かなかった人はそれこそ父と同じ運命をたどるでしょう。

 糖尿病患者は初期には自覚症状がほぼないので、まったく危機感は持ちません。私が接した患者で血行が悪いため、薬も出ていたのにそれも飲まなかったため、足の一部が壊死し、切断した人がいました。足先に血が全く通わないと炭のように真っ黒になる。切断処置のための入院中でも煙草をはなせず、「ありゃダメだ」 と担当医にぼやかれる始末です。この人は入院中の検査でいきなり置き上がろうとしました。看護師の制止もきかない。すると血栓が脳血管に飛び、即死に近い形で亡くなられました。

「煙草もトウニョウに悪いてか、わしは太く短く生きたい、煙草と心中してええんや」

 ……その通りになりました。煙草も糖尿病の人には本数を減らすか禁煙を指示されます。理由は喫煙はインシュリンの分泌を妨げるからです。これは院内禁煙でなかった時代の話ですが、灰皿を前においしそうに吸っているその患者の顔を今でも覚えています。あそこまでいくと天晴れですが、奥様が通院治療に引っ張っていっても本人に患者意識がないと、こうなる実例です。ただ豪気に見えたその人だって、人の子ですから一人の時には不安に思うこともあったはず。病棟側の私を含め、入院中にもう少し心情に寄り添い説得できなかったかと言う反省はあります。結果、院内事故につながったから。

 生活習慣病によるⅡ型糖尿病の人から、アドバイスをしてもうるさそうにされたら「そうですか」 とにっこり笑って放置します。お給料分の忠告はしたからね、と。医師も看護師も薬剤師も栄養士も。

 そういうことです。

追記
某患者の奥様より伺った実話。糖尿病のため食事に気遣い、運動も促していたら「まずい、うるさい」と怒る。血糖降下剤も、飲まない。当然、検査結果が悪くなる。すると「お前が作るご飯のせい」と怒る。この手の人は放置するしかないです。

ありがとうございます。