見出し画像

歌集「遠ざかる情景」#3 解説(後編)

山越えて 征く馬者に乗る 若き人 幼心も 今は捨てたか
幼顔 残した子らを 乗せる馬車 集団就職 移民のごとし
おらが里 咲く山河残し 馬車は行く 移民の如く 銭を求めて
山河残し アパートメントで 聞く歌謡 集団就職 かくも寂しき
吹く汗と 塵芥洗い 見るドラマ 文明の子よ 生きよそれでも

知りもしないのに。集団就職のことを謳った。調べてみると、集団就職として、故郷を離れ、就職先に出ていくのは、中高卒のまだ、あどけなさの残る若者たちだという。そんな彼らが、若さや幼さを残して、働く様子は、どこか、悲しげだ。汗みずくで働き、家で一人流行歌を聴く。恐らく、それが唯一の楽しい時間だろう。
そんな、人間の心境を謳った。

絞め殺す 幼き少女(ひと)よ 泣き濡れん “だけど私は殺したのです”
幼き子 花弁が呻く “苦しい”と その苦しいは 死が待つゆえか
幼き故 導かれたか 肉に飢え 理を捨て狂う 獣の我に
薄紫 やさしく咲くや 十七の 仔を絞め殺す 心泣く我 
十七の 多感な時期は あなたには 寂しすぎたか それ故なのか

昔、若い男が、行きずりに出会った女子高生を民家で殺害した事件があった。記憶は不鮮明であるが、確かにその頃、猟奇的な事件が多かった気がする。犯人の男も、犯罪とは無関係のような、穏やかな青年といった印象であったし、被害者の女性も何の抵抗もなく殺されていたという。
人間の逢瀬。それは、突然なものであり、無関係な二人を唐突な形でめぐり合わせる。もしかした、また別の出会いがあったかもしれない二人。
それは、ともかく、私が感じたのは、被害者の女性や、この事件のどこか唐突で、条理のようなものがかけた、面よりも、殺した男の視点であった。
大人しく、それゆえに可憐な印象の被害者の少女とその死にざま。恐らくは、唇は紫になり、苦しみで涙を流すだろう、その時、男はどう思ったか。
そんなことを歌にした。

欲捨てて 何も求めぬ その我に なぜ求めるか 愛という飢え
求めぬと 得るもののみの 空虚なる 暮らしに慣れず 愛飢えし我
虚ろ目に 一人戯る 一人部屋 ゲームの世界を介する誰か
欲がない 言う年寄りと 営業に 回って帰る 一人の住まい
営業に回って 見ゆる 成績表 欲がない故 私は空虚

最近、巷で、「うっせぇわ」と言う歌が流行っている。そして、その歌が差すような現代の若者たち。真面目で、社会のルールを順守しながらも、その冷徹と言っていい程の知性から、欲がなく、どこか無気力と呼ばれがちな彼らは、どんなことを思いながら社会を生きているのだろう……。
「言う年寄り」、この言葉に、同じ人間同士の心の壁を込めて歌った。

総評
全体的に社会の冷たさや、それ故のある種の猟奇性を描いてみたとは思う。しかし、自分の中で、どこかスベっており、何やらうまく伝えられてない気がした。
犯罪と言う、テーマにおいても、自分の社会や事件への関心の薄さから、うまく伝わらず、どこか自分一人の独りよがりの視点でしか描けなかった。これは、若者と言うテーマもしかりだ。
所で、最近書いた詩が、自分の作品の中では、高い評価を受けていて、驚いている。もちろん、感謝しかない。テーマは、文明であり、酸性雨に溶かされた、鉄骨やコンクリートに、文明の持つ悲しみを込めた。無論、酸性雨も、人間の業ゆえだ。
また、魚を捌くときに出る血と言うもは、少しだけど自信があった。タイルについた血は、やはり、どこか猟奇性を感じる。
最近初めてコメントをいただいて、感謝は筆舌に表せぬものがある。ありがとう。半面、コメントをくださった方が、自分の態度がどこかエラそーなのか敷居が高い印象を持っていらっしゃったのは、申し訳ない。不勉強で、ラフな人間である。分かって♡

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?