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読書ノート 「ロシア的人間 井筒俊彦著作集3」 井筒俊彦

 慶應義塾大学出版局ではなく、中央公論社の著作集。
 付録に付いている江藤淳のエッセイが興味深い。大学における井筒の言語学概論授業の様子を鮮やかに描き出している。

「井筒先生は、ベルが鳴ると同時に白墨を鷲掴みにして教壇に現れた。ノートを持っているわけでもなければ、本を抱えているわけでもない。いつも太いストライプのワイシャツを着て、ネクタイピンで襟元をとめ、突然即興的に話し出すというスタイルの授業である。したがって、雑談もなければ脱線もない。仮に脱線があったとしても、それはどこかで必ず本論につながり、話が元に戻っていくふうであった。
 井筒先生には学生に迎合するなどという気配は皆無であった。それどころか、先生はときどき眼の前に学生がいるという事実を、全く忘れているように見えることさえあった。ただ先生の頭脳があり、思考が回転し、それがそのまま講義になったり黒板の上の文字になったりする。その思考の回転ぶりを、眺めているのが愉しいのであった。ここに頭脳を際限なく駆使して、言語という現象に挑んている人がいるという事実を、毎回確認できるというのが頼もしいのであった」

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