自作品の舞台を再訪する

拙作、銃と魔法と断罪者

 私がカクヨムで不定期連載している、銃と魔法と断罪者という作品があります。

 この作品の部隊は、架空の人工島です。ある日この人工島が、現実との境界を残したまま異界に飲み込まれます。異界から侵略の軍隊が現れ、現実からも軍隊が送られ、紛争が巻き起こります。その七年後が、作中の時間軸です。

 ただ、この人工島、実は現実のモデルがあるんですよね

ある人工島

 書く前に取材を兼ねて自転車でそこを回りました。

 面積は六平方キロくらい。とにかく広かった。そして味気ない。どこまでも続くだだっ広い道路、飾り気のない歩道、平坦な埋め立て地です。ビュンビュン通り過ぎるトレーラーやトラック。

 この島はかつて、増大した国際貨物をさばくために作られました。なのでコンテナを積んだトラックがひっきりなしに通るんですね。住人の方々は島の北部の一部、団地や病院が建てられたあたりに固まって住んでいます。

 この人工島は、海の上に作られた、全てが計画された土地です。ある時期の地震以外については、自然現象の影響もほとんど受けていません。人間の制御の中だけで育まれてきた若い土地なんです。

 一方で計画通りの整然とした印象があり、他方、人間のわい雑なエネルギッシュさには欠ける、というような。

 そこに、異世界という混沌をぶつけてみる。それが、私の小説のコンセプトだったのです。おもしろそうだ、という思いが沸き上がっていました。

再訪

 最近、数年ぶりに今度は車でその島を訪れました。

 で、また思った。こんなに大きかったっけ? と。

 人工島は二期に分けて埋め立てられました。県庁や市庁舎がある市の中心から、橋とトンネルでつながった一期人工島。そして、その沖に、二千年代になって紆余曲折を経て完成した二期人工島。

 二期目の方には空港が建ち、広大な敷地はほとんどが空き地です。一期目の人口島からは、長大な橋がつながっています。二期目の人工島は市街地から数キロも沖にあります。青い海と空が目に染みるほど美しい場所です。

 すべて新鮮でした。取材に行ったのが冬だったからかもしれないけど、夏に訪れてみると、炎暑の中に吹き抜ける風のさわやかなこと。そして潮の香が思ったより強い。海との間を遮るものが全くないせいでしょうか。

 小説に登場させた建物や、施設のモデルにも通りかかりました。島に再び来て思ったんですが、その場所も大きく広く感じたんですね。自分では、取材した場所を活かして書いたつもりなんですが、果たして、十分だったかどうか疑問に思えてしまいました。

 書き直した方がいいのか、ともふとよりぎりました。

 が、やめておきます。

 九割は作業効率についてですがね。

 やっぱりそのとき私が感じたことを大切にしたいと思うのです。

感じ取ったもの

 港湾設備、オフィス、病院、大学、スーパー、空港、ホテル。

 いろいろなものに人が集まり、島は動いていました。息づかいが想像できるようです。仕事もない奴が、無責任なことを言う様ですけどね。

 四年ほど前、島に行って感じた自分の感覚を大事にしたいかな、と思うんですよ。

まあ、作品の宣伝です

 ちなみに、小説の内容ですが、私の趣味でミリタリー色が強くしてあります。なので、島は相当に破壊され、申し訳ないんですが島で普通に暮らしていた方々は紛争の被害を受けています。

 この日本のリアルからすれば、遠い国のことの様な、紛争や難民、人種対立、治安悪化に犯罪組織の跳梁跋扈うんぬん――のただなかに放り込まれているのです。

 作品を書き始めたときは、かのGATEが台頭していたころで、この流れはいけないと思い、戦争の現実と重さを、若い人に分かりやすく面白い形で伝えようとして、やっきになっていました。

 こういう内容なので、あんまり、銃と魔法と断罪者の舞台! とは、公言できないというか。なんせ社会病理の巣窟みたいになってしまっていますからね。主人公からして、島の元住人で、紛争さえなければ、幸福に暮らせたはずだった人ですから。

 でも、混沌に飲み込まれたこの広い人工島が見たかったのです。私は。

 島を自転車で回る中で、銃撃戦や、わい雑にエネルギッシュに暮らす多様な種族の絵が浮かんできたのです。作りたくなったのです。

 それがすべての動機です。凶暴な想像力が、この広くて平和な人工島を飲み込み、著しく変貌させてしまいました。

 でも、それは、プロ、アマ問わず物語を考える人の特権なのではないでしょうか。

 九月現在、そんな作品も最終盤、最終章にさしかかっています。

 滞在すると、この人工島が好きだと感じます。冬の乾いた風の中で訪れたときも。夏の日差しの下に走り回ったときも。そして、紛争が蹂躙し、異界と現実がまじり合う中で歩もうとする、想像の中の風景も。

 銃と魔法と断罪者、よろしければご一読ください。

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