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進路と親~振角大祐さんに聞く~

【親も環境の一つ】

若者を取り巻く課題についての第四回目の今回は「進路」。子どもや若者たちの進路と言っても、中学受験、高校受験、そして、その後の就職活動や大学、専門学校への進学など、様々な意味がそこには含まれてる。

今回はそんな「進路」について、子どもの環境の一つである「親」に登場してもらい話を聞いてみたい。登場してもらうのは、滋賀県米原市で子どもの居場所を作っている「NPO法人わっか」の前共同代表である振角大祐さん。1983年生まれの38歳だ。

子ども3人を育てる振角さんは、どのような子育て観を持っているのだろうか。

【小学校と中学校の選択】

 振角さんは、ご自身の子ども自身の進路選択について「まず小学校の選択肢でいうと、基本的には地元の小学校に入学以外は考えていませんでした。私立の小学校という選択肢は全くなかった。中学校に関しても、私の住んでいるは、小学校と中学校が隣接しているので、楽しく通っていて、そのまま中学校に上がりました。しいて言うと、保育園に関しては、近くに大きな認定こども園があって、自宅の近くに公設民営の保育園があって、そのどっちかに行こうとは考えました」と語り、小学校や中学校選びに関しては、地元志向をうかがわせました。

【滋賀県には公立の中高一貫校が4つあるけれど】

ただし、滋賀県には中学校から中高一貫の公立校があり、その選択肢はなかったのだろうか。この点について、振角さんは「親という立場からでいうと全く考えていませんでした。中学校受験している子もいるのですけど、私自身があまり中学受験に関して関心がないのと、娘もそういう選択を同じ小学校でしている子もいる中で、受験したいということは言わなかったので。もうその段階で、私の選択肢にはなかったです」とのことであった。

滋賀県に関しては、公立の中高一貫校が県内に4校あるが、隣の岐阜県には私立しかなく、より選択肢が狭まるかもしれない。中学受験をするのはおおよそ10人に1人、東京都に限れば4人に1人が受験をする。ただし、この1/10も首都圏が引き上げていることを留意すると、地方において中学受験は一般的とは言えないのかもしれない。

【中学後の中等教育後期や就職の選択】

 その後の中等教育の選択や、就職について、振角さんはどのように捉えているのでしょうか。滋賀県の高校進学率が99.1%になる中で、振角さんは続けて「私としての希望はほとんどないです。どこの高校を選ぶ、もしくは行かないことも含めて、関心がないというか、本人がしたいようにしたらいいなっていうのが一番です」と、あくまで子ども本人の意向を尊重する意向を示しており、近年の子育て世代としては一般的な価値観である。

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【自身の育ちを振り返る】

親自身と同程度の進路選択を望む、または自分より、よい学歴を持ってほしいと願う親が多い中で、振角さんはどうであろうか。もう少し深堀し、自身の育ちを振り返ってもらった。


振角さんは「僕の出た高校もそうなんですけど、普通科と進学クラスとあと機械科と繊維科ってあって、機械科と繊維科はもう就職することが前提で。その上の高専に編入するとか専門学校っていうのしかなくって、その子たちが大学進学っていうのは考えてなかった」、「ぼくも3人子どもいますけど、彼ら彼女らが大学行きたいって言えば行かせてあげたいなとは思うし、それは妻も含めて同じ。というのは私自身も大学院まで行かせてもらっているし、自分が望む大学院まで行かせてもらったというのがあります。子どもが望むなら、同じようにしてあげたいなとは思います」と、あくまで子どもが望む場合において、それが叶えられる環境を用意してあげたいと願っている。

【データでみると】

少し古いデータではあるが、2016年度の滋賀県の大学進学率は48.2%、短大は2.9%、専門学校進学率は16.7%(H29.7.28 中央教育審議会大学分科会将来構想部会(第 3 回)配付資料の数値を一部補正、文部科学省「学校基本統計」の補正したデータ)となっている。

昨年8月7日に滋賀県が発表したデータに基づくと、高等教育進学率は56.5%、就職者の割合は18.5%(滋賀県教育委員会事務局 教・高校教育課 魅力ある高校づくり推進室 『令和2年3月中学校・高等学校等卒業後の進路状況調査結果』)となっており、半数が進学していくことになる。そうした中で、県内には大学が8つと決して多くはない選択肢の中で、もし大学進学を希望しているとしたら、県外への選択肢はあるのだろうか

【子どもの県外進学という選択肢は】

そんな話を振角さんに振ってみたところ、ご自身が京都から滋賀県の大学に進学したことを踏まえつつ「金銭的なことは、正直なことを言うと、できれば電車で通える、もしくは新幹線通学が可能な距離に行ってほしいっていう思いはあります。正直なところ遠方だときつい」と率直に話されています。このことは、現在の子育て世帯における経済状況を考えると、正直な部分であるのかもしれない。

そして、首都圏や名古屋圏、関西圏と比較して高等教育機関が少ない地方においては「遠方だときつい」と話す中でも「同じようにしてあげたいなとは思います」と苦しい格差社会の中における心の揺れ動きを話す。
教育の機会均等と言いながらも、その環境が住む場所や親によって左右されるのは是正されなければならない大きな社会課題であろう。そして、これは滋賀県以外においても当てはまる話である。

【そもそも高等教育への進学をどう捉えているか】

子どもを取り巻く環境っていうシリーズを書いている中で、高校までは当たり前のように卒業させたいが、その先はちょっと厳しいという方、当たり前に大学院まで進学させたい方など、様々な方に出会う。いろんな声を聞いていくと浪人してというのもあり、お金貯めて大学へ行きますというパターンもある。今や全学生の50%は何らかの奨学金を借りているという状況なので、そこまで大変な思いをして大学もしくは高等教育へ進学することが良いのかっという議論もある。大学進学率が全国平均50%程度でぶつかっている状況(大学・短期大学、高等専門学校および専門学校すべて含めた進学率は83.5%)で、そのあたりを振角さんはどう考えているのだろうか。

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振角さんはこの点について「高校までで良いっていう話になった場合に、高卒でも社会的に成功している人を例に出して大丈夫っていうのが僕は苦手です。実際のところ高卒だと厳しいんじゃないかというのはあるんです。僕自身が院まで出させてもらって、普段は気づいてないですけど、院卒ということで、それなりに選択肢ができていたり、戦略として有利に働いてきたりしてるとは思う」と、自らの経歴を振り返る。

社会人を除く22歳人口と比べた場合の修士課程入学者の割合5.5%(学士修了者の全体は11%)で、数値的にもストレートで院進しているのはマイノリティであることは間違いがない。

【就職や転職に影響があるか】

続けて、就職や転職についても振角さんは「そこがスムーズにできて今やりたいことをやっているのは院卒っていうのは間違いなくどこかでは効いて来てるとは思います。そのことを知っている以上、子どもが高卒でいきたいって言ったら良いよって応援はするけど、そこはあんまり声高に大きく言うのは苦手だなと。僕は活動で知り合った人から保育士になりたいとか、子どもと関わりたいから教員になりたいとかって、特に保育士なんかは、僕なんかは大学院を出ているので、なりたい時は試験受ければ取れる状況までなっているんですけど、高校だけだとそもそも受験資格がなかったりとか。可能性が狭まるということはありますよね」と、もどかしさを感じさせながら話すが、振角さんだけでなく、多くの親がそうなのではないだろうか。

ただし、就職や転職に関しては学歴・学習歴以上に社会状況に左右されてきたという背景はある。

【ごく少数の例を出されても】

例えば、スティーブ・ジョブズが大学中退だけど、あれだけ成功したから、あなたも大丈夫だよと言われるのも「そうなんです。中退してああはなれない」と率直に感想を述べている。もちろん、金銭的な対価や社会的にフォーカスがあたることが成功とも、平安な生活とも限らない。

しかし、子どもを取り巻く環境の「親」としてみた場合には、できる限り安全な道を歩ませてやりたいという「親」である振角さんの姿が垣間見える。

 そして、振角さんは「結局そこだけじゃなくてそういう社会であるほうがね、別に学歴なんか、まきさんが前に書いていたけど、最終学歴なんかまだ確定してないし80歳の大学卒だっているわけだし」と、やはり「親」として悩む姿が見られた。※インタビュアーの佐藤は高卒資格→大学院という経歴

【子どもが自分で選んだ進路は応援】

私から「子どもが自分で選んだ進路だと応援する自信ありますか?高校から海外行きたいんだけど、N 高校行きたいんだけどって言われたらどうしますか?」と振ってみたところ、「そこはあの...ですね。仮に僕の選択肢にない選択をしてきても、取りあえずその場でちょっと時間をもらって応援するって言うと思います」と、親として子どもを応援する姿が見られた。

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【親も迷う。自分の経験や社会に引きずられる】

今回のインタビューを通じて、子どもや若者を取り巻く環境のひとつである「親」も初めから確固たる思いや信念を持っているのではなく、その時の社会の流れや、自身の経験に大きく左右されている様子がうかがわれた。

また、インタビュー中、随所に悩み、言葉に詰まる部分が見受けられた。親にとっては自分の子どもではあるものの、自分自身ではないので、子ども本人の自己決定をどこまで尊重し、親として関わってよいのかといった戸惑いも窺われた。子どもや若者にとっての「大人」はある種、完成された人格を持つ悩むことのないものであると認識されることもあるだけに、親や大人も悩んでいという姿を見せることが、ひとつのポイントかもしれない。

今回は振角さんという個人へのインタビューであり、学術としては偏りが非常に大きいものである。だが教育機会の均等やその実現に関しては、個人の課題に矮小化することなく、ひろく社会課題として認識し、地域や親のポジショニングによって左右されることなく提供されなければならないものである。次回は、より広い視点で「親の就労」にフォーカスを当てていく予定である。

現場から現代社会を思考する/コミュニティソーシャルワーカー(社会福祉士|精神保健福祉士)/地域の組織づくりや再生が生業/実践地域:東京-岐阜/領域:地方自治|政治|若者|子ども|虐待|地域福祉|生活困窮|学校|LGBTQ