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学校の「制服」について

この連載はNPO法人わっかの月次報告6月号に掲載されたものです。

制服を着て登校する意義?

第二回の今回は「制服」がテーマ。ここ最近では、女性(身体的)制服に従来のスカートだけでなく、スラックスが導入される動きも出てきています。また、通信制高校はサポート校を含めて337校(文科省/学校基本調査/2019年度)あり、通信制高校数だけ見ても、2005の175校から2019年の253校と大きく増加し、在籍者数は20万人を超えました。対して全日制・定時制の生徒数は1990年をピークに減少しています。こうした定時制高校や通信制高校の中には、当初より制服を設定していない学校もあります。こうした中等教育の多様化やCOVID-19によるオンライン授業の導入により、学校は「制服を着て、毎日登校する」というスタイルから変化し、あらためて制服の意義が問われているのではないでしょうか。

制服ってなに

そもそも「制服」とは何でしょうか。古くは律令の時代に定められた貴族の冠位十二階による色分けや、衣冠・束帯、羽織・袴などの服装規定も「制服」の一種かもしれません。こうした身分や階級、職業などによって規定されているものが大枠の「制服」と定義付けて話を進めたいと思います。

学校における制服の始まり

日本の学校における制服は「着物」と「洋服」の歴史から始まりました。1880年代から登場し、服制として使用され、今でもよく卒業式で見かける女性の「卒業袴」も当初は女袴の製造がされていなかったこともあるのか、使用されておらず、また「着物」とは区別されていましたし、「洋服」とも分けられていました。学校制服に関しては、男性用と女性用の制服ではその歴史も異なり、女性の制服は学校設置の経緯から見ても男性に遅れること40年近い曲折を経ています。

特に女性の服装に関しては、そもそも洋装自体が1886年まで公認されておらず、1872年の東京女学校(5年後に廃止、のちのお茶の水大付属の源流)の開設に際しても大きな課題となっていました。「女子ノ従前ノ衣服ニテハ教場ニ不都合」とされ着物ではなく、袴を着用させたいと伺いが出されたことに端を発します。その後も袴を文部省が公式に「奇異浮華」とし禁止したり、森有礼の影響による洋装化、その後の着物へ変化など紆余曲折に富んでいます。

ただ、こうした歴史を紐解くと当時は一人の人として扱われづらかった「子どもの声」でも「女性の声」でもなく、「男性」それも「権力者」の都合で女性と制服が振り回されてきたことが分かります。ここでは紙幅の都合上あまり多くを紹介できませんが、詳しくは佐藤秀夫(1976)の「『学校における制服の成立史-教育慣行の歴史的研究として-』日本の教育史学/19巻/P4-24」を読んでほしいと思います。

性別に違和感を覚えている

その時代にはトランスジェンダー(ICD-11では「性別不合」とも)の対応はもちろんされていませんし、現存する資料も乏しく残っていません。では、現代ではどうでしょうか。松本陽介・月美・陽一(2017)の「『性同一性障害/性別違和-当事者との対話-』児童青年精神医学とその近接領域58」でも当事者の月美さんが制服について小学生時代は「ありました。やっぱりすごく嫌でした」と語り、中学生時代は「はい、制服は学ランで詰襟でした。制服を買って写真撮影をするときに、これからこの制服を6年間着るのかと思うと真っ暗になるような気分でした」と述べています。

このように、各種調査では制服に対して忌避的反応を示す当事者も少なくはなく、また同様の調査における項目では「制服」についての設問が設けられることはマストといってよいでしょう。少し強く表現すると、トランスジェンダーと自分で認識していなくとも、少し性自認について違和感を覚えていたり、悩んでいたりする子どもにとって、毎日違和感のある制服の着用を強制されることは、生きるか死ぬかの問題と言っても過言ではありません。

※広義にはなりますが、学校生活における制服は、体操服や水着、ゼッケンの男女色分けなども含まれます。

変化が起きている現在の学校

そのような学校の制服はどのような変化か起きてきたのでしょうか。2020年には佐賀県でブラック校則として、下着の色まで目視でチェックするといったことが問題視されました。その後も各地で指定の色ではない下着の場合は脱がせるなど、人権侵害とセクシャルハラスメントが横行している実態が各地で明らかになってきました。この滋賀県ではどうでしょうかと問題提起をしておきたいと思います。

岐阜県の例を取り上げると

さて、そうした校則の問題と絡めて、制服の規定にも踏み込んで改正した岐阜県の高校があります。わっかのある米原市から車で30分ほどの垂井町にある不破高校では、昨年度オンラインでの性の悩み相談がスタートし、この6月からは生理用品の配布にも取り組んでいます。そうした岐阜県の状況を見てみましょう。岐阜県では、子どもの人権ネットワーク・岐阜(代表:河合良房弁護士)の勧告を受けて、全公立高校の校則が2019年~2020年に改訂し、同時に岐阜県教育委員会では、すべての校則がweb公開する方針へと変換しました。

性別によらずどちらの服装でも選択することができる

大垣北高校の岐阜県立大垣北高校生徒心得(以下、校則)では、校則でもちろん制服の規定がありますが、制服についての「その他」の項目で『ウ (1)(2)については、性別によらず、どちらの服装でも選択することができる。』とあり、(1)の男子用、(2)の女性用どちらでも自由に選択できることを明確に担保しています。これは改定後も異装届を提出させ許可を得なければならないとしている高校が多い中で、画期的なことと言えるのではないでしょうか。違和感を覚える子どもにとって、いままでの特例扱いではなく、標準化したことで心の性に合わせた制服を選択したいと親や周囲に理解を求める際のハードルが低くなり、とても大きな意味を持つものです。

性別を表す言葉が登場せず


また、同じく大垣市にある大垣東高校では、校則の「身だしなみ規定」で男女といった性別を表す言葉が登場せず、Aタイプ、Bタイプと改訂しました。こうしてフラットに表現を変えていることは特筆に値しているといってもいいのではないでしょうか。岐阜県の公立高校では全66校中62校で制服選択の選択肢が示されており、これは日本一の93%(共同通信/2020年12月5日)となっています。もっとも「女性用スラックスの採用」に関しては、トランスジェンダーの対応ではなく、防寒目的として打ち出している学校が多数です。同様に男性のスカート着用に対する議論も醸成していないのではないでしょうか。

制服は一定のものではない

こうして近現代に登場した「学校」と「制服」の歴史を概観していくと決して制服は一定のものではありませんでしたし、伝統的と言われるのでも数年で変化してきた経緯がうかがえます。わっかのおひざ元である米原中学校では、入学時に「(制服を含む学用品として)20万円準備しなければならない」とも言われ、その保護者負担も見過ごせないものがあります。制服のありかたについては、その時代の「子どもの最善の利益」(≠親・大人)を考えて変化していってほしいと思います。

第三回目の次回は、今回も少し触れた「性的少数者」について書きたいと思います。

現場から現代社会を思考する/コミュニティソーシャルワーカー(社会福祉士|精神保健福祉士)/地域の組織づくりや再生が生業/実践地域:東京-岐阜/領域:地方自治|政治|若者|子ども|虐待|地域福祉|生活困窮|学校|LGBTQ