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【詩】『三階東側校舎の窓』

また今日も寝ているのか
窓際後ろから2番目
そこは君だけの特等席

指定券売機で買ったわけではないけれど
隣の乗客は各々のタイミングで乗ったり降りたり

君の朝
いつも始発で乗りこんできて
薄橙色の陽光に霞む静寂の中で
大好きな小説を開いたり
嫌そうな顔で参考書と向き合ったり

騒々しい時間帯はちょっとだけ神経質になる
最近小さくて赤い不思議な物体を耳につけ始めた
知らない国の曲を微笑み浮かべて聴いている

お昼休みは1番の難所
秩序正しく座っていたはずの乗客が
自由席といわんばかりに右往左往する

行き場がないから伏すんじゃないね
ままならない感情を受け止めるには無垢すぎるから

けどぼくは知っている
終電近くの君の指定席
世界で一番奇麗な居場所

ぼくは知っている
もうすぐ傍で聞こえるだろう
隣のクラスの彼の声

ぼくは知っている
西日の差した窓際で
不格好な表情を作り込んで
君が待つ大切な人

もう君は知っている
たった2時間弱の回送列車の使い方
幾年と歳月を経ても忘れない

そこに確かに在る感情
そこに確かに残る轍

ぼくだけが知っている自慢の2人

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