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LABCRY

私は20歳だった。
村上ゴンゾ『小さな笑い声』(OZdisc)を購入した。福岡Kieth Flackで開催されるイベントにゴンゾさんが出ると知り、観に行くことにした。
ゴンゾさんがステージ上であぐらをかいて、床に直置きした機材のつまみをいじりながらゆらゆら揺れていた。私達、客は思い思いに床に座り込み、揺れるゴンゾさんに集中する。しかし、全く音が聴こえてこない。ゴンゾさんにしかわからない位の小さな音でステージが始まったのだと思った。ゴンゾさんはつまみを時々いじってやはりいい感じに揺れている。数分しても私達には、いや、私の耳にはその音が聴こえてこない。が、揺れるゴンゾさんに集中するにつれ、聴こえない音が聴こえてくるように感じた。私はゴンゾさんの揺れに合わせ、身体は自然に揺れていた。他の客も全集中し、揺れていた。
10分程経ったのか、ゴンゾさんが突然「あぁー、電源入ってへんかったわ」と言った時、言葉の通り、私は全身に衝撃が走った。「え?マジ?」
私は何にグルーヴを感じていたのか。この後、普通に音が出て演奏が始まった時、村上ゴンゾさんのヤバさ(最上級の褒め言葉)を体現し、一瞬で好きになった。

2000年代前半、「関西うたもの」という文言を色々な雑誌で見かけるようになった。羅針盤、渚にて、LABCRYは関西うたもの勢というくくりだった。私はこの「うたもの」という言い方があまり好きではなかったのだが、CDを聴けばまぁ、言わんとすることはわからんでもないと、偉そうに思っていた。というか大ファンの2組(羅針盤、渚にて)に加え、新たにLABCRYというバンドが出てきた!と、20歳だった私はレコ屋で『COSMOS DEAD』(OZdisc)を購入した。このアルバムの何が衝撃だったかというと、アルバム最後の収録曲、和田弘とマヒナスターズのカヴァー『愛して愛して愛しちゃったのよ』だった。この曲をアルバムの最後に収録するセンス。センスというより、この時代(2000年代前半)の空気の中で、何というか、してやられた感がものすごくあったのだ。

その後、全てのアルバムを購入し、2003年だったか『LABCRY』(nowgomix Records)が出た頃、LABCRYは「音響・うたもの系」と言われていた。アルバムツアー、福岡ビブレホールで観たLABCRYは音の印象よりも漲るようなやる気を感じさせない6人の男達の佇まいに痺れた。やはり、バンドは佇まいも大事だ。一人一人が纏(まと)う空気がLABCRYのメンバー全員異様だった。異様に見えた。そしてかっこよかった。

その後、解散したLABCRYの皆様と交流を持つようになる中で、色々話を聞くこともあった。三沢さんがこのメンバーを集めた時点でもう完璧じゃないか。バンドはメンバーが最も重要なのだ。誰と、どんな奴と一緒にやるか。これから生まれる音楽の全容はほぼ、ここで決まる。というか、こんな個性の塊のような6人が一緒に曲を作り演奏するなんてロックンロールの基礎みたいなバンドじゃないか。

前置きが長くなった。
2023年10月14日(土)、渋谷O-nestにて、20年振りに再結成したLABCRYを観た。メンバーがステージに出てきた瞬間、胸の高鳴りを感じたのは久しぶりだった。20年前に感じた、漲るようなやる気を感じさせない6人の男達の佇まいはそのまま、懐かしい曲を演奏する体(てい)では一際なく、20年経って聴くLABCRYの楽曲の緻密なアンサンブルにハッとては、シンプルにロックンロールしているその全てに久しぶりに胸がキュンとした。宮地さんの鍵盤とNANAさんのギター、三沢さんのギターが絡むジャムっぽい演奏の瞬間、ガーズ・ハドソン、リック・ダンコ、ロビー・ロバートソンばりの瞬間が幾度かあった。三沢さんの作る曲は個人的にとても愛嬌と侘しさのある旋律だと常々思っていて、それがこのメンバーでアレンジされると曲の屋台骨と感じる愛嬌と侘しさに加えブルースが増す。が、所詮おやじのロックとは全く異なるLABCRYというバンドメンバー其々が音楽を続けてきた中で培ってきた技術や抜き差しのバランス、センス全てを体現させ、当時よりも曲やグルーヴの密度の高さにマジで痺れ、懐古さはなく、とても新鮮で、新しい曲を聴いているようだった。

みんな、それぞれに「私(僕)達の時代」と呼べるその頃があると思うのですが、90年代前半〜2000年代の時代が放っていた空気、その中で作られた音楽、出会った人達がこの夜にドバーッと身体を駆け巡り、LABCRYを観ながら「やっぱり、バンドは最高だな。バンドでしか出来ない音楽をやりたいんだな」と、20年前に福岡ビブレホールでLABCRYを観た私も確か今夜と同じことを思い、その後すぐに埋火(うずみび)というバンドを組んで色んなことが始まったことなど思い出し、「バンドはどんな嗜好品よりも中毒性が高い、一旦始めるとやめるには相当の覚悟がいる……なんて罪作りなものなのだ」と思い、酩酊し、人に絡むなどして家路に着きました。



曲順も最高だった!

午後、はちみつ、沸点
空気の底
SUGAR SONG
Bye Bye Blues
COSMOS DEAD
My Life, Your Life, It's A Summer Time Blues
Brave And Strong
5 (o.NANA)
夢を見るなら
ハートのビート
PHYDHEDERIC WATCH TOWER (INST.)
Gimmie Gimmie Gimmie
MONEY GURU

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