カノン

東北に移住した道産子、とある病院の2年次研修医。

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医療に関するメディアの功績と大罪  ~情報が人を殺す時代〜

 不意に、目が覚めた。疲れていると目覚ましが意味をなさないような自分の眠りから、このように覚めることが、年に数回ある。原因は見当もつかないが、悲しい出来事が起こる日に多いように思う。少しずつ覚醒してくると、携帯電話のアラーム……ではなく、着信音が部屋に鳴り響いた。画面に目をやると、姉の名前が表示されている。何かを察し、すぐに通話ボタンを押す。  「もしもし?」  「……たっくん…………」  姉が、泣いている。  「お父さん、逝っちゃったっ……!」  「……そっか…………」  

    • 死を考えることは、生を考えること

       『安楽死』  広辞苑では、『助かる見込みのない病人を、本人の希望に従って、苦痛の少ない方法で人為的に死なせること。』と定義されている。  癌が身近になった現代で、『安楽死』や『尊厳死』という単語を耳にしたことがない人は、ほとんどいないはずだ。私が子供の頃から、そのような話がテレビで盛んに議論されていたように思う。ただ、その議論で結論は何も出ず、解決策は視聴者に示されない。  そもそも、人は死の話を避ける傾向がある。理由はいくつも挙げられるが、大きな理由の一つとしては、

      • 凛として(掌編小説)

         「…………キャン、ターンッ」  午前七時の弓道場に、単調な音がこだまする。  直前まで僕の頬に密着していた矢が、瞬時に的紙と一体化する。矢筒にしまわれている姿からは道具としか思えないのに、その時だけは生き物のように感じる。僕の手から放たれた矢は、気が向くときは的に吸い込まれていき、気が向かないときはどこかへ飛んでいく。そこに、僕の意思は介在しない。  朝、独りで弓を引く時間がたまらなく好きだ。  弓道部の普段の活動に何ら不満はないし、今の射はここが良かった・悪かった

        • ショートショート①「実験」

           実験  理論や仮説が正しいかどうかを人為的に一定の条件を設定してためし、確かめてみること。  「翔(かける)、こっちこっち!」  「ああ、そんなところにいたのか。相変わらず小さくて見えなかったわ」  「お前も口の悪さ、変わってないな」  今日は、十年ぶりに会う旧友との飲み会だ。鴫原健吾(しぎはらけんご)とは、幼稚園からの付き合いになる。小学校・中学校・高校もすべて一緒で、クラスもほとんど同じだった。確か一回だけ違うクラスになったっけか。  「ひとまず、帰省お疲れ

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        医療に関するメディアの功績と大罪  ~情報が人を殺す時代〜

          道標【キナリ杯2020、あとがき】

           僕が初めて公に向けて書いた文章を、初めて応募してみたコンテストが、岸田奈美さんが主催された「キナリ杯」だ。 注:コンテストはすでに終了しています。受賞作品を読んでみたい方は、以下のまとめからご覧ください。  もともと数か月かけてなんとか文章を完成させて、そろそろ投稿しようかなと考えていた矢先、誰かのいいねがTwitterで流れてきた。何やら、給付金の10万円をそのまま賞金にしたコンテストが開催されるらしい。  「面白いこと、考えるなぁ」  興味をそそられたので、まず

          道標【キナリ杯2020、あとがき】

          九州1周どうでしょうの旅 ~48時間で九州1075kmドライブ~ 第1夜

           旅行中にバカなことをしたり、アホなことをした経験は、多くの人がもっているはずだ。たとえマイナスな出来事であっても、旅行が終わればそれを笑い話にして、仲間と語り合える。これもまた、旅行の素敵な一面のように感じる。  しかし、「旅行全体」がアホな旅行は、経験者が限られてくると思う。一般的な旅行のイメージは、事前に旅行先の下調べをして、自分たちが行きたい場所へ行き、食べたいご飯に舌鼓を打つ。おそらく大きな反論はないだろう。  これから話していく幼馴染四人の旅行は、そのイメージに当

          九州1周どうでしょうの旅 ~48時間で九州1075kmドライブ~ 第1夜

          どうして人は、人を嫌うのか

           あなたは、他人を嫌いになったことはありますか。  他人をどうでもいいと思ったことは、ありますか。  多くの方が「Yes」と答えるでしょう。今までこの質問に「No」と答えた方に、僕は出会ったことがありません。相性が良くない人は、誰にとっても存在しますし、世界中すべての人が分かり合えるとは思っていません。  ただ、僕はこれまで人を本気で嫌ったことはありませんでした。  「ちょっとこの人苦手だな」  「その発言はどうなんだろう」  そう思った経験は、何度もあります。それらを含め

          どうして人は、人を嫌うのか

          小さな冒険

           「○○さん、どうぞお入りください」  救急外来の診察室に患者さんを招き入れる。基本的に救急で出会う患者さんは普段病院にかかる必要がない方ばかりなので、初対面であることが多い。医師として働き始めて2年目になった今、多少は慣れてきたものの、いまだに緊張してしまう。「俺は全く緊張しないぜ!」と言える方に、ぜひ緊張しないコツを教えていただきたいくらいだ。おそらく、そういう方々はコツなど必要とせずに、無意識にできているだろうけれども。  患者さんが途絶え、当直室に戻ろうとエレベータ

          小さな冒険