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トム・クルーズと美しきハサミ男

 トム・クルーズが映画『シザーハンズ』の主演を逃した理由が書かれた記事を見かけました。


 『シザーハンズ』は1990年公開、監督ティム・バートン、主演ジョニー・デップの映画です。
 バートン監督が感動作や名作を次々に撮っていた黄金期の作品ですよね。キレイなおとぎ話があまり得意ではない私も、この映画だけは別です。

 両手がハサミになっている孤独な青年、エドワード・シザーハンズ。異形の者である彼を一度は面白いやつとみなして仲間に加えたのに、問題が起こると、真実を調べようともせずに、手のひら返しで非難する人びと。
 人の心の愚かさや浅はかさがこれでもかというぐらいに描かれていて、「人間って寂しいな」と感じたものです。
 世間の人たちが自分の醜い部分をさらけ出す分、優しく繊細なエドワードやエドワードを最後まで信じ続けたキムの純粋さが際立つのですが…。
 キムを演じたウィノナ・ライダーが本当に綺麗です。エドワードとキムは結ばれずに終わるので、ハッピーエンドではないのかもしれませんが、こんな美しい思い出を胸に生きていけるなら、それはそれで幸せな人生だと、若い頃には感じました(今初めて観たら、また別の感想になるかもしれませんが)。

 『シザーハンズ』は主演のジョニー・デップにとっては初期の代表作ですし、この映画がきっかけでバートン監督とタッグを組むことも多くなります(『エド・ウッド』『チャーリーとチョコレート工場』『アリス・イン・ワンダーランド)など)。
 今では、ジョニーといえばまずジャック・スパロウ船長が思い浮かぶかもしれませんが、エドワード・シザーハンズも、ジョニーのために書かれた役柄では? と思いたくなるほどのはまり役でした。人間に対する憧れ、孤独、愛を求める心と不安な気持ち。エドワードの揺れ動く心に共感し、手を差し伸べたくなる演技でした。

 ところが、冒頭に引用した記事によると、他の俳優にもエドワード・シザーハンズを演じる可能性があったのだとか。
 ま、ハリウッド映画あるあるの話ですけど。
 例えば、『ショーシャンクの空に』の主人公アンディも、今ではティム・ロビンスしか考えられない役ですが、イーストウッドやニコラス・ケイジといった全く雰囲気の違う俳優も候補だったのは有名な話です。イーストウッドなんか我慢を重ねずに、刑務所で暴動を起こしそうです。

 エドワード役としては、マイケル・ジャクソン、ジム・キャリー、トム・ハンクス、ロバート・ダウニー・Jr、トム・クルーズなどが候補にあがったそうです。
 トム・ハンクスは後に、「人の世の真実を照らし出す役柄」という意味ではエドワードと重なるフォレスト・ガンプを演じています。案外、エドワード役も悪くないかも。
 また、ロバート・ダウニーのエドワードもちょっと見てみたい気がします。ジョニーよりも神経質な(でも、不思議なおかしみのある)エドワードになったかもしれません。

 でも、トム・クルーズは…。もちろん良い俳優さんですが、トムって恋愛物にはあまり向いていない気がするんですよね。友情やチームワークの映画、キャラの立った敵役がいる映画での演技はとてもうまいのに(トムファンの方、ごめんなさい)。
 なので、恋愛要素もあるエドワード役にならなくてよかったと思いますが、記事によると、トムが役をもらえなかったのは、「エドワードはどうやってトイレに行くのか?」とか「食事せずに生きていけるのか?」などとエドワードのキャラクターをつきつめようとしたためだそうです。
 エドワードは両手がハサミでできているので、トイレもお風呂も厳しいですよね。食事も…。そんなこと考えたこともなかったですが、アンドロイドなのでは? またはフランケンシュタインのようなもの。
 トム・クルーズは演じる役のすべてを知り、理解して役作りをする方なのでしょう(トムは後に『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で吸血鬼を演じていますから、吸血鬼の生態については納得できたようです)。
 ジョニー・デップの方は、見た目は違っても、エドワード・シザーハンズの中に自分自身を見たのではないかと思います。

 『シザーハンズ』もそうですが、ティム・バートン監督が1980〜2000年代に撮った映画を観ると、「人と違っていてもいいのだ」と思えます。また、生きづらさを感じているのは自分だけではないと励まされもします。まわりの人たちとの距離を感じる時、心がすさんでいる時に観ていただきたい映画です。



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